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入学、出会い②

「平和だ……」


京が目指している高校はアパートから徒歩で約30分、第一高校はSH特区の中心都市ーー新一条しんいちじょう市から少し離れた場所に立地している。

京は、一人歩きながらアニメや漫画などでよく見る美少女との邂逅を果たすシチュエーションを考えていた。


例えば、曲がり角でパンを加えた美少女が京にぶつかってくるとか、突然に風が吹いて目の前にいた美少女のスカートがめくれてしまう所を見るとか、不慮のアクシデントのせいで美少女に決闘を申し込まれたりとか。


妄想力をフルに使って色々な想像をしてみるが、どれも上手くいく算段は立てられない。

時間には余裕を持って出発したし、今日は無風に近いし、決闘を申し込まれた所でそんな好戦的な美少女とはmeetしたくなどなかった。


考えにふけりながら、街中を歩いている京の耳に、一つの声が届いた。


「きゃー!! 引ったくりよーーーー!!」


京はさっきまでの不安などとうに忘れて、出会いのチャンスに胸を躍らせた。


***


「ここまでね、早くそれを渡しなさい」


女性の悲鳴を聞いたアリア・メルガルトはすぐさま元凶であ男を見つけ出し、行き止まりへと追い詰めていた。最初に、視界に入れた時点ではそれなりに距離はあったが、聖痕保持者としてそれに見合う経験を積んだアリアにはそんなものはハンデにもならなかった。男は肩で息をしている程には疲弊していた。


「はぁ……はぁ……。くそっ!」

「見た所、聖痕保持者ではないようね 」


別に、確認をするまでもなかった。聖痕保持者なら能力を生かして盗みに働けるし、そもそも、こんなことをする必要も無い。アリアは勧告した。


「もう逃げられないわ。大人しく返しなさい」

「ふざけんな! お前なんか怖くねーんだよ!」


逆上した男がおもむろに取り出したのはナイフ。しかしそれを見てもアリアの表情が変わる事は無かった。精々、治安の良いとされる日本に来て早々こんな場面に出くわす自分の運の無さに内心驚いているくらいである。


「余裕こいてんじゃねーよ!」


男がナイフを向けて接近してきた。アリアは男の動きとは対照的にゆっくりと右手を突き出した。そして、右手の甲が光り出す。


「止まりなさい」

「な、なんだこれ!?」


アリアの冷静な声と、男の動揺した声はほぼ同時だった。男の目線の先には自分が握っているナイフ。

それが


「ナイフが動かねぇ……」


男がナイフをどうにかしようと後ろに引いたりするが刃先がアリアに向けられたまま動くことはない。男はそのナイフから手を離した。


「う、浮いてる!?」


手を離されたナイフに働くのは重力のみにも関わらず、その力はまるで存在しないかのようにナイフはその場に留まっていた。


「返しなさい」


目を見開く男にアリアはもう一度促す。今度は少し語気を強めた。


「わ、分かった! 返す! だから何もしないでくれ!」

「別に何もしないわよ」


男があまりにも怯える為、アリアは突き出していた右手をそのまま下ろした。

するとナイフはカランと音を立てて地に落ちた。男はナイフを大人しくしまうと、持っていたバッグを持ちながらアリアに近付きーー


「なんて、簡単に渡すかよ!」


横を通り抜けて逃走した。


「しまった! 待ちなさい!」


自分の詰めの甘さを思い知らされながらアリアはもう一度その男を追おうとする。

男が曲がり角に差し掛かろうとした時、何かに躓いて派手に転んだ。


「あっ!」


すぐ追いついたアリアは男の手から放り出されたバッグの行方を追った。


「よっと。ナイスキャッチ」


アリアの視線の先には自分と同じ柄の制服を着た青年がいた。


***


京は息をのんだ。太陽の光を受けてキラキラと輝く金色の長い髪、ツンとした高い鼻、透き通るような白い肌、空のように蒼く澄んだ瞳は優しさの中にも意思の強さを感じさせる。そんな神がかりレベルの美少女がこちらに歩いて来た。よく見ると京と同じ制服をしている。あまりの美しさに錯覚に陥ったようだ。


近づいてくれば来るほどその美貌がはっきりと伺えた。今見ているのは幻覚かと思うほど目の前の光景を信じられなかった。


「うおおおおおお!」


京が思わず見惚れている間に、先ほど足を掛けて転ばしておいた男がこちらに向かってきた。


「危ない!」


自分の身に危険が迫ってきているのに、京はほんのりと桜色の唇から出た声は万物を魅了してしまいそうな程の美しさに心を奪われていた。しかし、男の動きが急に止まったのを見て意識がようやく我にかえる。どうやら男は少女の聖痕の能力ーーコードで動きを止められているようだ。


「大丈夫?」


運命が動き出す。

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