プロローグ
近くに人が倒れている。少年でも既に事切れていると分かった。
少年は辺りを見渡した。それで死体は一つではない事に気付く。
周りには一面、血の海が広がっており、夥しい数の人間が呼吸をする事もせずただ溺れているだけだった。
恐怖も、動揺も、憎悪も、一切の感情も湧いてこなかった。自分は機械だ、目の前の光景を記録するだけのロボットだ、そう少年は結論付けることで己を守った。怯えることすら少年には許されない。
次に死ぬのは恐らく自分なのだろう、そんな風に『死』というものを間近で感じながらも、少年の頭の中はそれなりのコンディションを保っていた。
瞬きなどの身体の動作さえ停止し、いずれ訪れるであろう死を待つ子供の前に、いつの間にか一人の人間が立っていた。全身を黒のローブのようなもので覆っており、顔は夕日で良く見えない。男か女すら判断する事が出来ない。
少年は必死に目を凝らそうとするが、体は言う事を聞こうとはしなかった。
少しして、その人物はこちらに背を向け何処かへと消えていく。
少年は意識が時間に取り残された事を哀れんでいるような冷たい夕焼けを呆然と記録する事しか出来なかった。