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僕が君を求めても  作者: 麻柚
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田嶋樹

 海斗の合格祝賀会の翌日、放課後、いつものように悠太、俊也と三人で帰路に着いた。今日は悠太がいつになく上機嫌だ。まだ校舎内だというのに鼻歌を歌いながら、今にもスキップし出しそうな勢いでいる。はっきり言って気持ち悪い。悠太の肩の鞄が激しく左右して、隣にいる俺に激突しそうになった。


「お前さっきからずっとニヤニヤしやがって、キモいぞ」

「そりゃするだろっ。だってこれから美香ちゃんに会えんだぜ、なあ俊也」

「俺は別にニヤニヤしてない」


 俊也が冷たく言い放つが、悠太には全く届いていないようだった。

 悠太の言葉通り、俺たちはこれから俺の家に行くことになっている。以前からずっと、行きたい行きたいと悠太がうるさかったため仕方なく美香に相談したら、あっさり許可が出たのだ。それを報告した時の悠太の喜びようと言ったら。


「てかさ、美香ちゃん俺と話したいって言ってたんだって? マジ嬉しいっ。俺明日死んでもいいわ」


 俺と俊也の迷惑顔など意にも介さず、悠太ははしゃいでいる。


「ったく、そんなに好きなら告白しろよ。お前ならあいつだって断りづれえだろ」

「は? お前全く何も全然分かってねえなっ」

「悠太、日本語おかしいぞ」

「俊也は黙ってろっ。いいか陸、俺はそんな風に嫌々付き合ってもらうのなんか絶対嫌なんだよ。付き合うならちゃんと好きになってもらってからだ!」


 下駄箱から取り出した靴を高々と掲げ、悠太は演説した。俊也は耳を塞ぎ、俺は肩をすくめる。全く当てのない瞬間を期待する悠太は、はっきり言わずともアホだ。行動もせずにいるうちに、美香を他の男に盗られても文句は言えないだろう。


「つうかな、俺はお前とは違うんだよ! そりゃお前なら告白すりゃすぐオーケーされるだろうよ。でも俺はなっ、俺は」

「ああそうだったな。お前彼女いたことなかったんだったな」

「うるせっ。つかそれは俊也だって同じだろ、なんで俺ばかり冷やかされるんだよ!」


 俺を思いきり指差して悠太が叫ぶ。その指を払いのけてから、俺は言った。


「俊也はお前みたいに彼女できねえって騒がねえだろ」

「別にいなくていい。それより陸、今日は夕飯食わせてもらえんのか」


 俊也の意識は、どうやら全然違うところにあったようだ。まあいつものことっちゃあいつものことだけど。

 俊也は美香自身には興味がない代わりに、美香の料理を異常に愛好している。俺の昼食は大体美香の手作り弁当のため、せがまれると度々弁当を分けてやってもいるのだ。以前、あまりにも有難そうに食べる俊也に、大袈裟じゃねと言ったことがあった。そうしたら「お前は舌が肥えて分からないんだ」と若干キレ気味に睨まれたのだ。俊也が怒ることなど滅多にないから、俺はそれ以来俊也の前で美香の料理にケチをつけないようにしている。


「作ってると思うぞ、あいつ」


 俺がそう言うと、俊也は小さくガッツポーズをした。悠太も俊也も、俺からしてみればどいつもこいつもといった感じだ。


「美香ちゃんに会ったらなに話そうかなー」

「今日はなに食わせてもらえんだろ」

「お前らなあ」


 二人に限ったことじゃねえけど、美香美香って、そんなにあいつがいいんだろうか。俺には理解不能だ。いっそのこと美香が特定の奴と付き合ってくれれば俺の面倒も少しは減るだろうに、モテるくせに告白は断ってばかりなようでそんな雰囲気は全くない。


「あ。あれ」


 校舎を出て少しして、突然俊也が声を上げた。その視線を追うと前方に、大きなエナメルバッグを肩に掛けた男と、その周りを囲んで歩いている数人の女子の姿が見えた。女子の真ん中にいる男の背は随分高い。


「げっ、田嶋(たじま)!」

「なんだよその反応」


 顔をしかめて唾を吐いた悠太に問いかけると、逆に不思議そうな視線を返された。居心地が悪くなって、唇を尖らせ言葉を吐く。


「なんだよその目は」

「お前知らねえの?」

「はあ?」

「へっ。教えてやんねーよーだ」

「てめ、ふざけんなっ。俊也、どういうことだよ」

「すげえ群がってるな、女子」


 俺と悠太の口論を無視した俊也はどうでもいい独り言を漏らしている。どうやら聞き出せないようだと悟った俺は、諦めて歩を速めた。右手を自転車置場、左手を体育館と校舎を結ぶ渡り廊下に挟まれた道を、がんがん進む。少し遅れて、悠太と俊也もついてきた。


「藤村くん?」


 集団を追い越してから三歩くらい歩いたところで、背後から声をかけられた。勿論、悠太と俊也は俺を「藤村くん」なんて呼ばない。俺は振り返った。声の主である田嶋が、微笑んでいた。


「今帰りなの?」


 なんでそんな馴れ馴れしいんだよ。

 ……と思ったものの、口には出さない。俺は急いで記憶を辿ったが、田嶋との接点を見つけることはできなかった。男子バスケ部で一年ながらスタメン入りしている、とかで有名な田嶋は、人当たりも顔もよくてモテるらしい。俺の田嶋知識なんてその程度だった。遠く校庭の方から、運動部の掛け声が聞こえてくる。


「ねえ藤村くんてさ、藤村さんのお兄さんなんだよね?」


 なんの脈絡もなく美香の話が出て、俺は面食らった。どうして田嶋が、美香の話題を振っかけてくるのだろう。知り合いだなんて噂、聞いたことないが。


「藤村さんって凄く良い子だね。あんな子が妹だなんて羨ましいよ」

「……は?」


 田嶋が言いたいことが本気で分からなかった。まさか、特に深い意味のないそれを告げるためだけに俺を呼び止めたわけでもないだろう。一体、何がしたいんだ。

 ふっと視線を移動させると、それまで俺と田嶋を見比べてきゃあきゃあ騒いでいた田嶋の取り巻きたちが、眉根を寄せていた。嫌な予感がして、俺は眉をひそめながら忠告する。


「なんだか知んねえけど、変に美香の名前出すんじゃねえよ」


 美香は女子の嫉妬の対象になりやすいというか、反感を買いやすい。特に、田嶋に堂々とべたべたできるような、こういう派手なタイプの女子からは。さっきの田嶋の不用意な発言でもし美香が攻撃されたら、反撃できるタイプじゃない美香はまた一方的に傷ついて、面倒なことになる。尤も、高校からの美香の友達は少し柄が悪いらしく絡まれることもだいぶ減ってはいるようだが、油断はできない。

 俺の様子に何かを感じ取ったらしい田嶋は「ごめんね」と呟いた。それから、続ける。

「球技大会での藤村くんが本当にかっこよくて、一度話してみたかったんだ。じゃあね」

 結局、田嶋は終始笑みを崩さずに体育館の方向へ去っていった。女子たちは慌ててそれに従っていく。

 田嶋の発言の「球技大会」は、一学期の終わり頃に開催された学校行事だ。俺はバスケ部門に出場して、うちのクラスは学年優勝した。でも、何故俺にわざわざそんなことを告白するのか全く分からない。凄腕プレイヤーの嫌味か?


「おい聞いたか。美香ちゃんは良い子だね、だとよ。そんなの皆知ってるっつーの!」


 いつの間にか俺の隣に立って吠えるのは、悠太だ。地団駄を踏んでいる。


「やっぱあいつ美香ちゃんのこと狙ってんだろっ。さっきので確信した、くっそー!」

「……じゃあ、さっきお前が言ってたのって」

「あいつが美香ちゃん狙ってるって噂になってんだよ。ちくしょう!」

「悠太じゃ田嶋には勝てないからな。顔も運動神経も性格も」

「てめえ俊也、さりげなく俺を攻撃してんじゃねえっ」


 狙ってる、か。美香も中々意味不明で厄介そうな男に目を付けられたもんだ。それでも、悠太よりはマシだろうけど。


「悠太がうるせえしさっさと行くか」

「早く飯食いたい」

「あ、おい待てよ!」


 先に歩き出した俺と俊也の後を、悠太が走って追いかけてきた。俺たちの間に割り込んでどんと肩に手を回した悠太のコートから、樟脳の匂いがした。


 *


 帰宅すると、美香がいつものようにキッチンで俺を迎えてくれた。俺の後ろから顔を出す二人を見て、美香は微笑む。


「いらっしゃい。広井(ひろい)くん、小峰(こみね)くん」

「おおお邪魔します、美香ちゃんっ」

「今日は世話になります」


 本人を前にして異常なまでに肩肘を張る悠太と、キッチンの方を覗いて目を輝かせている俊也がそれぞれ挨拶する。美香はキッチンから出て来て、俺たちにオレンジジュースを振る舞った。また元の場所に戻っていく美香の後ろ姿をちらちらと盗み見ながら、悠太は正面の俺に視線を送る。そわそわと落ち着きがなく、完全にめんどくさい時の悠太だ。


「なんだよ悠太」

「なんだよじゃなくて、ここに呼んでくれよ。お話できねえだろ」

「話って、お前ちゃんと話せんの?」


 そう問うと、悠太は目をそらしてうなった。緊張するとなんの言葉も発せなくなる体質の上に、美香との「お話」に何度も失敗した前科のある悠太である。


「と、とりあえずなんとかなんだろ。呼んでくれよ。あ、俺の名前は出すなよっ」

「へいへい。ったく」


 キッチンはリビングと向き合うようにしてある。俺たちと対面して作業をする美香に歩み寄り、声をかけた。邪魔ではないかと気にかける美香を、強引に引っ張り出す。


「それじゃあ、お邪魔します」

「え!? う、うんっ」


 自分から美香を呼ばせておいたくせに、悠太は驚きの声を上げた。それは美香が、悠太の隣の椅子に座ったからだろう。案の定、悠太は何も喋れなくなっている。俺は頬杖をついて、顎で悠太を促した。悠太は全力で首を横に振っていた。


「広井くん、どうかした?」


 不自然な悠太の様子を気にかけた美香が、悠太を覗き込む。悠太は真っ赤になって顔をそらした。


「う、ううんっ。なんでもないよ!」


 これでは埒が明かない。仕方なく、俺は助け舟を出してやることにした。これで悠太に貸し一つだ。


「なあ美香、お前気になってる男とかいねえの?」

「えっ⁉︎」


 美香ではなく悠太が、アホみたいな声を出す。ニヤニヤしながら視線を送ると、思いきり睨まれてしまう。せっかく助けてやったというのに、恩知らずなやつだ。


「うんと、特にいないかな」

「なんだ、つまんねえの」

「よかったあ……」

「藤村、田嶋とはどういう関係なんだ?」


 悠太が小さく安堵の声を漏らした直後、俊也が爆弾を投下した。驚きのあまり、俺まで固まってしまう。いくら何でも核心を突きすぎだ、と思ったものの、これは悠太だけでなく俺も興味があることだ。


「田嶋くんって、バスケ部の?」

「勿論」

「うーん、席が近いからよく話すようになったよ。それぐらいかな。でも凄く良い子だよね」


 良い子、じゃねえだろう、と思いつつも(それはただの直感だけど)、俺は頰杖をついてはす向かいの美香を眺めた。しかし田嶋はあんな訳ありげな言い方をしたが、どうやら美香とはただのクラスメイトのようだ。美香を「狙ってる」田嶋は、兄貴である俺のご機嫌をとることで過程を有利に進めようとしてんだろうか。


「あの、田嶋くんがどうかしたの?」

「い、いや、なんでもないよ。帰りに見かけたから聞いてみただけっ。な、俊也」

「うん、そうそう」


 俊也は途中から田嶋じゃなくキッチンに気を取られているようで、なあなあな返事をした。リビングに、カレーの辛いような香りが立ち込める。


「そっか。でも田嶋くん、凄く人気だよね。優しいし、かっこいいし」

「は、え、ええ⁉︎」


 素っ頓狂な声は悠太のものだが、俺もかなり驚いていた。美香が男のことをこんな風にたくさん喋って褒めるのは初めてだからだ。気になる男はいないと言ったが、田嶋には何かしらの好意を抱いてるのかもしれない。


「お、俺もバスケ始めようかな」

「ふふ。そんなことしなくても、広井くんには広井くんの良さがあるから大丈夫だよ」


 美香に微笑まれ、悠太は口をパクパクとさせた。ブサイクな上にアホヅラ。そんなんだからモテないんだぞ、と心の中で突っ込んでおく。

 キッチンタイマーが鳴ると、美香は再びキッチンへと戻っていった。その後で、悠太がテーブルに突っ伏す。


「マジ無理。あれは反則だろ……」

「お前もう少しまともに喋れよ。わざわざ俺が話題出してやったんだからよ」

「ムリ。マジ口から心臓出るかと思った」


 俺がヘタレ男の髪の毛をいじっていると、隣の俊也はふらりと席を立った。どこに行くかと思えばキッチンで、美香の後ろから鍋を覗き込んでいる。


「小峰くん?」

「いや、今日は何かなと」

「今日はね、ハンバーグカレー。海斗が食べたいって言ってて。手の込んだものじゃなくてごめんね」

「十分です。凄い美味そう」


 キッチンから聞こえる会話。何やら弾んでいるようだ。少なくとも悠太よりは、まともなコミュニケーションが成立している。バッと顔を上げた悠太が、物凄い高速で瞬きをした。


「ちょっ、なんだあれ!? なんで俊也があんな積極的なんだよっ」

「食い意地張ってるだけだろ、俊也は」

「だとしても、だとしてもだ。まさか俊也に抜け駆けされるなんてっ」

「だったら普通に話せるようになれっての」


 美香なんて、別に緊張するような相手じゃない。悠太や学校のやつらが思ってるほど完璧な美少女ってわけじゃねえんだから。

 俺の左のキッチンでは、俊也がカレーの味見をしている。


「すげえ美味い……!」

「よかった。上手くいったみたいで」

「ほんと、毎日でも食いたいくらいです」

「あはは、ありがとう。凄く嬉しいな。陸も小峰くんくらい褒めてくれたら、もう少し張合いが出るんだけどね」


 ちらと、美香が此方に目を向けてくる。意地の悪いあの視線を、美香を天使だと勘違いしている野郎どもに見せてやりたい。


「はいはい。うるせえな、美味いですよ」

「陸、お前は有難味を感じなさすぎだ。どうせ自分じゃ何も作れないんだろうに」


 図星だった。俊也に返す言葉もない。しかし俊也は手料理のこととなると本当に、気持ち悪いくらい美香の肩を持つ。


「広井くん。もう少しでできるから待っててね」


 美香に笑顔を送られ、悠太は慌てふためき頷いていた。此方は此方で、相変わらずのあがりようだ。なんだか疲れきってしまって、俺は小さく溜息を吐いた。


 *


 悠太たちが帰っていった後、俺は自分の部屋で休んでいた。夕食は悠太たちと一緒になって食べてしまって、今リビングでは、悠太たちと入れ違いに帰宅してきた海斗が美香と夕飯を摂っている。

 課題を探して鞄を漁っていると、スマホが鳴った。見れば、メールが届いている。クラスメイトの新井(あらい)という女子からだった。文面を読む。

 友達に見栄張って彼氏いるって言ったら、今度の日曜にダブルデートすることになっちゃったの。陸、彼氏役お願いー!


「……馬鹿じゃねえの。なんで俺」


 思わず、独り言が出た。その言葉のまま返信すれば、俺なら相手の彼氏のスペックに絶対勝てるから、だそうだ。利用されるのは癪であるものの、どうせ暇だし彼女もいない。仕方ないから付き合ってやるか、と思い再度返信の文字を打った。

 それから、部屋を出て一階に下りる。課題の存在も思い出せないし、もしあったら俊也にでも写させてもらえばいい。リビングのドアの向こうからは、何やら賑やかな声が聞こえてきた。


「おい、何の話してんだよ」

「あ、陸。なんかね、海斗が」

「ちょっ、姉貴。兄貴には言うなって!」


 笑っている美香と、顔を真っ赤にして慌てている海斗。何か面白いことがあったらしい、と感づいた俺は、海斗の肩に腕を回して迫った。「言えよ」「嫌だよ」の応酬を三回くらい繰り返したあと、観念したように海斗が話し始める。


「そ、その。もらったんだよ。……ラブレター」


 一瞬、思考が停止する。リビングに沈黙が流れた。海斗は俺から目を背けて、カレーを一掬い、口に運んだ。俺はラブレターの意味をようやく理解して、大笑いした。海斗が俺から逃れようと身を捩る。


「わ、笑うなって。だから兄貴には言いたくなかったんだよ!」

「だって超面白えじゃんっ。相手はどんなやつだ? 可愛いのか? 付き合うのか?」

「兄貴には関係ないだろ! ほっといてくれっ」


 こんな面白い話題、放っておけるわけがない。海斗の浮いた話は本当に貴重なのだ。


「だって気になんだろ、お前にラブレターやる女子なんて」

「だからほっといてくれって!」

「そうだよ陸、からかいすぎだよ。それに海斗はかっこいいもん。ね?」


 俺を制して、美香が海斗に投げかけた。海斗は更に頰を赤くさせ、俯いた。スプーンをカレー皿の上でくるくると回している。


「か、かっこいいかは分かんねえけど」

「ううん。かっこいい。海斗はかっこいいよ、海斗は」


 先程からの、海斗は、という言葉がやたら鼻についてしまう。まさか、当て付けで言ってんのか。いや美香のことだから、きっと無意識なんだろう。


「おい。海斗はってなんだよ海斗はって。俺はかっこよくねえとでも言いてえのか?」

「そ、そういうわけじゃないよ」

「つうかどう考えても、海斗より俺の方がイケメンだろ」


 俺のこの顔は、そこら辺にいる適当な男には絶対負けないという自負がある。それは俺がナルシストだとかそういうことじゃなく、単純に事実なのだ。去年高咲市を歩いていた時は、有名雑誌の素人ページに掲載したいと写真を撮られたりもした。海斗は俺の弟だけあって確かに顔はいいが、俺ほどではないはずだ。そうだというのに、美香は渋い顔をする。


「なんだよその反応。俺と海斗だったらどっちを選ぶんだよ」

「そ、それはあ……か、海斗かな」

「はあ⁉︎」

「姉貴っ」


 嬉しそうに美香を見る海斗と、微笑む美香。外野にされた俺は、苛立ちが募る。


「俺のどこが海斗に劣ってるって言うんだよ!」

「お、劣ってるとかじゃないよ。でも海斗は、勉強も部活も頑張ってる姿が素敵だなって」

「姉貴、俺すげえ嬉しい……!」


 なんだよ。頑張ってる姿って、俺は頑張ってないとでも言いたいのか。二人ばっかりにこにこしやがって、俺は蚊帳の外か。


「はっ。別にいいっつの。お前みてえになんにも分かってねえ女に褒められても無駄だし」

「ちょ、ちょっと陸、すねないで」

「すねてねえよバーカ!」


 腹が立つ。別に美香にどう言われようと、俺がモテるっていう事実に変わりはないけど。だからこそ日曜だって代役を頼まれたのだ。


「もう、すねてるじゃない」

「兄貴大人げねえよ」

「うるせっ。先風呂入ってくるっ」


 そう吐き捨て、乱暴にリビングの扉を閉めた。大股で廊下を歩いて風呂場を目指す。

 そうだ、美香の意見なんてどうでもいい。だってあいつは、妹なんだから。

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