真実への道
「まず1つ目。俺らは人間やない。」
唐突に紡がれる言葉に波の音が重なる。少しだけ真剣な顔をして、明人の反応をうかがう。
試されているようで少し居心地悪くなりながら、紫竜の全身を観察する。どこにも人間と違うところは無いように思えた。
「じゃあお前らは何なんだ?」
質問の語彙にため息が混じる。
「お前らとちゃうわ。俺らは何か?やろ?」
ニヤリと人の悪い顔を向け、この問題わかるかなー?と言わんばかりに明人を見ている。沈黙は一瞬で破られた。にやけ面に嫌悪感を覚えながらも明人は理解した。
「ゼインの民とはなんだ?」
沈黙の間に紫音の言葉が浮かんだ。そういえばゼインの民を頼れとか言っていたな・・・今の今まで忘れていたけど。
「頭はそこまで悪ないみたいやな。ゼインの民ちゅうのは、簡単にゆうたら人間の上位種や。」
微妙に失礼なことを言いながら饅頭を頬張る。とゆうよりどこから出したんだ?
「なるほど。超能力者みたいなもんか。」
「やっぱりあんまり賢くないな。超能力者みたいなもんてなんやねん?人間の上位種って聞いただけで安直な意見やな。賢いつもりか?あー?」
なにか自分は気に触るようなことを言ったのだろうか?明らかに機嫌が悪くなった命の恩人を見返し、恐る恐る口を開こうとした。
「まあ超能力者みたいなもんやけどな。」
・・・こいつぶん殴ってやろうか?・・・・・・・いや、勝てないからやめておこう。また燃えカスにされて治されてしまう。正直もう二度とごめんだ。それになんか怒ってるし。
少しずつ紫竜という人間-の上位種-を理解してきたので、余計なことは言わないようにする。また話が脱線しそうだし・・・。
「訊いても無駄だろうし・・・。」
理解した明人は、紫竜の「ん?なんかゆうた?」の声を無視して次の質問に移る。
「ここはどこだ?」
この質問何回目だよ・・・。と心の中でため息をつく。この恩人と話すと疲労が半端ない。
「大阪や。大阪弁喋ってるやろ?」
「!?おおさか!?」
天を仰ぎ額に手をあて後ろ向きに倒れる。いつから大阪は魔境になったんだ?
「なんちゅう顔しとんねん。男前が台無しやな。」
寝転びながら頭を整理する明人が苦し紛れに言い放つ。
「・・・・・大阪弁を話してるからって、ここが大阪とは限らないだろ。」
その実にどうでもいい言葉に、我ながら苦笑してしまう。
「そらそうやろ。なに当たり前のことゆうてんねん?」
さっきお前が・・・と言いかけてやめた。こいつになにを言っても無駄だった。
「歯切れの悪い奴やな~。お前モテへんやろ?」
悪戯っ子が笑うような顔から目をそらし、腹の底から叫ぶ。
「大きなお世話だ!!」
「ん~?図星やろ?お前みたいな陰険な奴は絶対モテへん。諦めるんやな。」
明人の反応などお構いなしに言い放つ。こんなに会話にストレスを感じたことがあっただろうか?
起き上がり真剣に文句を言ってやろうと指を突きつけた・・・その時!
―――ドォォォォォォーーーン!!!
地響きと轟音を伴い、赤と青の閃光が地上に舞い降りた。
***
ドォォォォォォーーーン!!!
「!!」
「!?」
地鳴りを伴った光弾の雷が大地を抉る。
「来おったの~。」
舌なめずりしながら好戦的な笑みを口元に貼り付け、乱暴にテントの外に-もちろん明人は無視して-出る。
「っ・・・くそ!今度はなんなんだ?」
やや遅れて明人も外に躍り出る。危険を伴う職業柄か、困惑しながらも装備を携えることは忘れなかった。
外は月夜だった。
明人の眼前に広がったのは―――純白の砂浜と打ち寄せる波。そして、10メートルはあろうかという帆船だった。
砂浜に無残に横たわる帆船は長久の年月を感じさせた。錆色に彩られた船体。帆の色は黄土色に風化し、最早切れ端となって揺れていた。ふと遠くを見ると高速道路の残骸のようなものも見える。
「キョロキョロすんな。構えとけ。・・・もうじき来るぞ。」
静かな口調ではあったが、少しの緊張と高揚感が入り混じったような声だった。
明人が視線の先を凝視する。
「!!」
視線の先―――砂埃の巻き上がる中に、大小2つの人影がゆらりと揺れていた。