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超ど級

「今度はなんだよ!?」




 弾かれたように振り返り悪態をつく。赤みを帯び始めた太陽が存在感を増す中、明人の耳目を震わす光景が展開される。



 荒野に吹き荒れる悲鳴の嵐。黒血を撒き散らし、上下左右に振り回されながら放たれる命の音。先ほどまでの熱い(・・)視線などは消え、ゆっくりと足跡が散開さんかいしてゆく。



(鳥・・・・・・なのか?)



 間断なく続く断末魔を他所に、中空と上空を交互に見やる。上空には大小さまざまな大きさの怪鳥。雲に擬態する為だろうか、体毛は一様に白く、太陽を反射してほんのり赤く染まっている。・・・・・・丸見えだ。



 中空には、羽をせわしく羽ばたかせ格闘する一体の怪鳥。人間とそん色ない大きさの体を持ち、翼は片翼かたよく2メートルはありそうだ。明人との距離は20メートル。器用に翼をたたみ、鋭い嘴を上下させ、頭を振り回しながら暴れまわる。咥えられているものの姿は見えないが、陽炎の揺らぎと撒き散らされる黒血が全てを物語っている。




 3次元的な動きに圧倒されながら、ゆっくりと右手の銃をホルスターにしまう。せわしない動きの怪鳥から目を切らず、鯉口を切るのも面倒でそのまま抜刀する。次々と降下してくる怪鳥に左手を上げ照準を合わせる。



(――クソが!)



 冗談のような落下速度を叩き出し、地面を滑るようなギリギリの軌道きどう。まるでラジコンヘリのような3次元飛行だ。左手人差し指が二の足(・・・)を踏む中、抜群の速度と旋回能力をもって獲物に食らいつく。



 今のところ明人のことは眼中にないようだが、流石にこの状況で背中を向けるわけにはいかない。




(しかし、わざわざ踏み込むのも・・・・・・な)




 逡巡しゅんじゅんする明人を他所に、目の前では一方的な食事・・が行われている。大勢の怪鳥が一心不乱に獲物を貪る中、ふと一体の怪鳥が明人の目に留まる。一番最初に降下してきた固体だろうか? 現在は明人の30メートルほど前方に優雅に着地していた。



(ん?)



 スッと目を細め嘴を注視する。鋭く尖った嘴からは陽炎が消え、したたっていた黒血さえも消えている。だらりと垂れ下がっているのは本体だろうか? この角度ではよく見えない。好奇心に突き動かされた明人は、素早く5歩の距離を横に移動する。今まさに飛び立とうとする怪鳥を目で追う。そして、ものすごく不快そうに眉間に皺を寄せた。



(まさかの人形!?)



 一度羽ばたくごとに猛烈な勢いで上昇する怪鳥を呆然と見送る。無残に顔半分を引きちぎられ、綿だらけのクマさん人形は、水晶玉の隻眼せきがんを上空に向けたまま昇っていく。




(俺は人形と戦っていたのか・・・・・・)




 明人の世界でもよく見かけるような普通のクマさん人形。明らかに人の手が入った人形が光学迷彩をまとい動く。そして、それを捕食する人間サイズの怪鳥。




 本当に何でもありのこの世界に頭を抱えたくなってくる。




(なんて世界だ!)




 呆然と考え込んだのは一瞬。ハッとなり我に返り、再び警戒しながら、自分の幸運に深く感謝する。



 この阿鼻叫喚あびきょうかん一歩手前のような状況、こんな・・・・・・命が容易く奪われる状況でも人間は呆然となってしまう。そういう瞬間ときがある。訪れるのだ。



 明人は冷静になり自分が置かれている状況を考える。この世界で自分は強者とは言えない。自分が生き残っている理由・・・・・・それは何だ? それは・・・・・・。




 幸運だ。




 植物に食われかけた。紫竜しりゅうに殺され(?)かけた。化物二人が襲ってきた。




 これらの状況を打破したのは紛れもなく・・・・・・運だ。




 明人が思考を走らせる中、目の前で行われていた乱獲・・が終息に向かう。1体・・・・・・また1体と荒野を飛び立ち、茜色の空を突き進む。揺らぐ赤光しゃっこうが嘴を染め、哀れな人形達を弔っているようだ。



 すでに人形達に興味をなくした明人は、冥福を祈らず、じっと怪鳥達を見つめる。最後の怪鳥が飛び立ったのを確認し、ゆるりと踵を返し腕を下ろす。飲み物、食い物、寝床、探すものは山ほどある。戦闘ばかりしていては餓えて死ぬ。




 横目に怪鳥の羽ばたきを見ながら、今日の食事をどうするか頭を痛めている。ここまで幸運(悪運?)を発揮してきた明人だが、いつまでも運が続くとは限らない。



『安全な場所』『食べ物』『飲み物』の内、最低一つぐらいは確保しておきたい。・・・・・・出来れば今日中に。



 茜色の太陽に視線を流しながら「流石に今日は・・・・・・」と弱気な呟きを漏らす。地平に向かい落ちていく太陽は、まさしく今日の終焉を意味していた。すでに地平線が輪郭に手をかけているところを見ると、時間の猶予はほぼないのだろう。



 上空には無数の怪鳥がまだいて、かなりの高度に達しているにもかかわらず羽ばたきをやめようとしない。



 何気なく立ち止まり――ふと、彼方の中空を見つめる。赤光しゃっこうを放つ太陽に小さな・・・・・・小さな黒点が浮かび上がっている。



 じわりと嫌な汗が額に浮く。



 コーヒー豆程度の黒点は、少数ながら加速するように大きくなっていき、今ではお手玉ぐらいの大きさになっている。



 玉のようにふくらんだ汗が鼻を伝い滴り落ちる。



 ぐんぐん大きくなる点は、次第に色を増やし、高速でこちらに近づいてくる(・・・・・・・)




(嫌な予感がする)




 一瞬迎撃体制をとりかけたが、頭に本日二度目の警鐘が鳴ったことで中止。すばやく点在する岩に身を隠す。



 ものすごい速度で迫ってきているのだろう。陸から飛行機の着陸を見ているような気分だ。しかし、飛行機と違い飛来物は減速しない。明人は体をすっぽり隠せる岩から左目と銃を出す。すでに、正面数百メートルの距離まで詰められている1体に引き金をしぼ――――



「なっ!?」



 間抜けな声と共に上空を見上げる。明人が発砲直前、物体は垂直旋回を敢行かんこう。赤く光る空を突き刺すように急上昇していく。


冗談のような速度で上昇していく物体。その後も数体の物体が垂直旋回するなか、一振りの槍と化した物体達は上昇を続ける怪鳥を次々打ち落としていく。その最中さなか、先頭の物体が上昇限界に達し、緩やかな放物線を描き下降旋回を始める。大きく力強い灰色の翼が空を覆った。




 体長は3メートル以上。翼も冗談のようにデカく長い。ゆったりと旋回し、緩やかな下降をはじめる。先ほどまで上昇に勤しんでいた怪鳥-今となっては小型-は、獲物を吐き出し再上昇しようと必死に翼を動かす。しかし、すでに致命傷だったのか動きに精彩はなく、下降を止めるのに精一杯のようだ。



 狩るものと狩られるもの。



 どうやら中空の支配者は彼等ではなかったようだ。



 ふらふらと飛ぶ餌の(・・)白い怪鳥は、上空から覆いかぶさるようにかられ、鋭い鉤爪かぎづめによって掴まれる。猛禽類の大きく禍禍しい爪先が食い込み、そのまま急降下。地面に叩きつけられる。自身の重みと重力、さらに捕食者の膂力りょりょくが加わった一撃。何かが潰れたような――破裂したような――粉々になったような――形容しがたい音が事の凄惨さを示す。




 寒気を堪え、出していた銃を岩陰にしまう。ここはやり過ごそうと心に決めたその時、明人が隠れる岩のすぐ前に灰色の化物が降り立つ。轟音と大地の震動に巻き上げられた砂埃。さながら悪魔が降臨したような景色が眼前に広がる。



 反射的に視線を送ったしまった明人と悪魔の両眼りょうがんがしっかりとかち合う。








 どうやら運は続かないようだ。








違う作品を執筆のため、ここから更新頻度がかなり落ちます。ここまで読んでいただいた方、本当に感謝感激です。



これからも精進いたしますので、毬屋夏樹を今後ともよろしくお願いいたします。

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