表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

ひっきりなしの来訪

異変を察知した明人は、警戒心を気取られるのを恐れ、何事も気づかなかったように歩き出す。無遠慮な視線が遠方より注がれているようだが、無視してを進める。



(・・・・・・囲まれてるな)



正面・側面・背面と全方位から注がれる熱い(・・)視線。狩人が静かに弓を絞る時のような――狼が獲物を追い込んでいる時のような――そんな視線。視線の主達は、明人の動きに合わせ移動しているように感じられた。




(・・・・・・? おかしい。何故見えない?)




視界の良すぎる(・・・・)荒野は、今も冗談のような地平線を瞳に映している。その中に特に変わった点は見られない。つぅと流れる汗を乱暴に拭い――不意に立ち止まる。



緩やかな動きでホルスターに手をかけ、引き抜くと同時に撃った。



半反射的に放った弾丸は、射撃者の腕に命中の手ごたえを残し、視線の主に命中する。ドサリと音をたてる陽炎・・が、地面に黒血こっけつの花を咲かせる。



(擬態・・・・・・なのか?)



斥侯せっこうか尖兵か知らないが、一体で明人の間合いに侵入してきた異物・・。10メートルほどの距離だが、黒い血以外のものは未だに見えない。そこには陽炎・・の揺らぎが見えるのみで、侵入者の全容を把握することは出来なかった。



(おいおい)



地平を厳しく見据える明人の瞳は、数え切れないほどの陽炎を視認していた。



(・・・・・・擬態ってレベルじゃないな)



ジリジリと迫ってくる陽炎の揺らぎを見ながら、暢気なまでに思考にふける。



(光学迷彩に近い。・・・・・・動く(・・)と揺らぐのか)



揺れる陽炎の高さは明人の腰の辺りまでしかない。たいした大きさではないだろうが――数が多い。感じる視線は増え続けているも、明人は落ち着いていた。



(音もなく近づけるのは見事だけど)



すっと前後に腕を広げ、銃口を陽炎に固定する。



(そんなに堂々と動いてちゃあ)



「意味ないな」



吐き出された台詞が殺戮・・の火蓋を切る。現在の立ち位置を軸に独楽のように回転しながら撃ちまくる。左右の愛銃ベレッタ比喩ひゆ抜きで火を噴く中、自身の五体に勘が戻ってくるのを感じる。時には一発の弾丸で複数を葬り、艶のある叫び声をとどろかせる。



「きた~~~! きたきた!!」



30メートル程の距離にいる揺らぎを間断かんだんなく葬ってゆく。嬌声きょうせいを上げながら撃ちまくり、直径30メートルの円を描く。相手の黒血で。


全弾撃ちつくし、ストッパーが上がると同時にマガジンボタンを押し込み足元に落とす。腰をひねり、トレンチコートの内側に固定されたマガジンをグリップ内部に叩き込む。固定されていた留め金が勢いよく外れ、『カチリ』とかみ合う音が荒野に響く。



ここまでわずか半秒!



高速リロードを行った明人は、自然と唇を歪める。



(思った通りだ)



描かれた黒円から足跡・・が近づいてくる。小学生程度の大きさの足跡を確認し、少々驚いた表情を浮かべる。



(二足歩行かよ!)



迫ってくる足跡の幅はごく僅か。動きも遅い、それに――あまり賢くもないらしい。漠然と四足歩行の獣をイメージしていた脳内で、獣のイメージが瞬く間に『ゴブリン』のような人型に早変わる。



眦を吊り上げ、切れ上がった目を前方に向ける。



『一点突破』



――諸手を前に突き出し突進する。


――ピクリと敵の気配が揺れる。


――構わず加速する明人。


揺らぐ陽炎に向かい正確な射撃を叩き込む。



(どけ!!)



黒血の尾を引きながら加速する。



前へ!前へ!!前へ!!!



血で滑る砂面さめんを強く強く蹴りつける。


ブーツに当る屍を無視し、黒円から10メートルほど離れた場所でようやく前方の揺らぎが消える。さらに5メートル走った後、ピタリと立ち止まり、悠然と振り返り唇を跳ね上げる。



視認は出来ないが、おびただしい数の屍が横たわっている-のを感じる-。じわりじわりと足跡あしあとが近づいてくるも無駄だ。両手に銃を持ったまま、手の甲で汗を拭い飛ばし、踵を返す明人。





少し回復した自信を胸に大股に歩み去る。




揺ぎ無い確かなあゆみ――――その確かなあゆみを凄絶な断末魔が呼び止めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ