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明人の試練

「うあああああぁぁぁぁ・・・・・・」



 時はさかのぼり、豪快に吹き飛ばされた明人のもとへ。



 遥か彼方まで吹き飛ばされた明人は荒野にいた。先ほどまでの砂浜とは違い、人工物-の残骸-とは無縁の荒れ果てた土地。太陽が暴力的なまでの熱を叩きつけ、地上の水分を全て上空に吸い上げる。 



『灼熱の荒野』



 点在する巨大な岩や砂丘、遠近感が狂いそうなほど広がる地平線。時折吹き荒れる熱風が明人の頬を荒く叩く。手でひさしを作り、遠くを眺め見ると、申し訳程度の植物も見て取れた。高さはせいぜい膝くらいまでで、原種の薔薇ばらのような蔦が絡まりあっている。



 砂漠の大地に埋まるように着地-というか落下-した明人。かなりの速度で豪快に着地-とゆうか落下-したのだが、下が砂地だったおかげで傷一つなかった。



「荒っぽい奴だな。運が悪ければ二回死んでるぞ」



 淡々と毒づく明人だったが、二回も助けられたのだとゆうことは嫌というほど理解していた。おそらく紫竜しりゅうがいなければとっくに死んでいたのだろう。ちらと視線を彷徨さまよわせ、この世界のどこかにいる恩人を思う。



(カッコつけやがって・・・・・・。死んだら承知しないぞ)



 ゆるりと細めた瞳から親愛の光が漏れる。しかし、それは一瞬のことで、すぐに目元を引き締める。一見して危険な生物はいないように見える。だが、ここは明人の知る世界とはまるで違う。自身の常識には『植物に食われる』という文字はない。あんな《・・・》植物がいる世界だ。いくら用心しても、用心しすぎるということはないだろう。



(とりあえず見に迫る危険はないな)



 明人はそう判断し、周辺の警戒から現在の装備の確認に移る。



 現在の服装はパンツにハイネックのセーター。トレンチコートも裾が少し破れているが無事だ。



(・・・・・・なんで俺はこのトレンチを――――)



 明人は自身の世界ではかなりの金持ちである。家には装備を置く専用の倉庫が存在し、半ばコレクションルームと化している。その中でも、ファッション的に気に入っていたのがこのトレンチコートであった。ちなみに『ゴルチエ』のフルオーダー品だ。値段はウン十万円。



(もう少しまとも(・・・)なものを羽織ってくるんだった)



 明人は自身の迂闊さを呪った。いくら下見だったとはいえ、ターゲットの住処に出向いたのだから、もっと警戒すべきだった。あの時の自分は、自身の身体能力に完全に自惚れていた。趣味レベルの手裏剣など持っているのがいい証拠だ。




(・・・・・・まあ勉強させてもらったな)




 裾の破れたトレンチコート脱ぎ、袖の部分を腰に巻きつけ縛る。次に、ただの汎用品であるハイネックのセーターを脱ぎかけてやめる。灼熱の太陽をチラリとうかがい、深々とため息をつく。黒一色に統一された衣服は熱を吸収し続けている。すでに冗談のように熱くなってはいるのだが・・・・・・。



(この直射日光を受けるわけにはいかないな。それに・・・・・・)



 地平線の方角に目を移し、自然と唇の端を下げる。



(いつまでも昼ってわけではないでろう)



 明人は替えの服を持っていない。ここで服を脱ぎ捨て、『夜になったら凍え死にました』では笑い話にもならない。現在の明人にとって衣服は財産だった。



(生きて一緒に戦って・・・・・・か)



 遠い昔のことのように少女(?)の言葉を思い出す。まだながくても数日しか経っていないはずだが、これまでの経験が異常すぎる。しかし明人は後悔はしていなかった。



(あれは成るべくして(・・・・・・)なったんだ)



 信心深い一面を覗かせた明人は、ブンっと1度(かぶり)を振り、装備の確認を急いだ。



 上半身に装着していたホルスターをベルトに移し、一丁の愛銃ベレッタを抜く。本当は分解して隅々まで確認-とメンテナンス-をしたいところではある。さすがにそれは無理だと判断し、仕方なくマガジンを抜き、スライドを引きチャンバーから薬莢やっきょうをはじき出す。宙に舞う薬莢を空中でキャッチし、引かれたままのスライドからチャンバー内部を確認する。



 続いて外部の傷などを確認したが問題ない――――が・・・・・・。



(・・・・・・やっぱり気になる)



 薬莢をポケットにねじ込み、テイクダウンレバー(分解用レバー)を回す。音もなくスライドを引き抜き、バレル(銃身)をスライドから外す。丁寧にヒビなど入っていないか確認し元に戻す-この間にスライド内部やスプリングは確認済み-。スライドを本体に戻し、テイクダウンレバーを回し上げる。そのままスライドを引き、ポケットの薬莢をチャンバーに手で戻す。スライドを戻し、装てんされた状態の銃にマガジンを滑り込ませ、静かに起き上がったハンマー(撃鉄)を戻す。同じことをもう一丁の愛銃にもおこない、定位置であるホルスターに差し込む。落下防止の留め金は外したままだ。




 次に二振りの脇差に目を落とす。トレンチコートの帯に固定されていた刀は、現在、足の辺りの高さで小刻みに揺れていた。帯を緩め、引き抜いた一振りの鯉口を切る。すらりと抜かれた刃に目を細め「おや?」と首をかしげる。植物を斬った-斬ろうとしてしくじった-はずなのに、その刀身には汚れどころか染み一つない。


刃紋は、まだ暗い暁の空を切り取ったような鈍色霞にびいろかすみ仕立て。緩やかに反られた刀身は、まるで立ち昇る朝日の発光を映したような白銀。香り立つ丁字油ちょうじゆが明人の鼻をくすぐる。



(そういえばこいつはあいつから受け取ったな)




 おそらく・・・・・・自分が気絶している間に紫竜が手入れをしてくれていたのだろう。もう一振りも同じように手入れされていた。




「小粋なことをするな。道具なんか! って感じの奴だと思ってたけど・・・・・・ハハハ」




 刀身から顔を離し、思わず声に出して笑う。鞘に収めながら「素晴らしい仕事だ」と手放しに褒める。どうやら俺の恩人は多才らしい。



 脇差をベルトに挟み、装備の確認を終える。先ほどより確実に上がっている気温にウンザリしながら、全方角を体ごと回転しながら見回す。気温はすでに40度を超えているだろう。しかし、体感温度はそれ以上に感じる。



(さて、とりあえず歩くか)





 もう一度辺りに目を配ったとき、突如――頭に警鐘が鳴り響いた。





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