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戦いの螺旋 その4

遅くなりました。すいません!

 呆然と光景に見入っていた岩手の目に光が差し込む。一度は制止した夜叉丸の奮闘が目に痛い。

 

 

(まだまだ子供だと思っていたけど)

 

 

 猛烈な攻めを目の当たりにし、大きな喜びと頼もしさ・・・少しの寂寥せきりょうを胸にしまい大剣へと目を移す。雁字搦がんじがらめになった大剣は、今なお不吉な色を見せ続けている。

 

 

 夜叉丸が使ったのは封印術。この大剣が神の力を宿す『神の至宝』と当りをつけて使ったようだが・・・。術は成功しているようだが、力を封印出来ているようには見えない。せいぜい抑えているレベルだ。

 

 烈火のごとく振り下ろされる金色こんじきのこん棒が、月明かりにきらめいている。

 

 

(この勢いなら・・・・・・いける!)

 

 

 前衛を夜叉丸に託し、自身は結界の解除-または破壊-に焦点を絞る。中ほどからへし折られた刀爪かたなづめを収納し、複雑に指を組み替え始める。選択した術は身体強化の類で、全身をくまなく強化するものではなく、一撃に特化した剛の術『極点集中』だ。

 

 立ち上る湯気のような赤いオーラが、夜気の中の月光に揺らめき、急速に岩手の拳に収束されていく。赤く濡れたように輝く拳を握り締め、右足前に構え拳を発射する。

 

 両の足で地を踏み固め、中段に90度の角度で固定された右腕を下半身の力と上半身のねじりで繰り出す。超接近戦での力の出し方。その姿は、さながら中国拳法の寸剄すんけいのようだ。

 

 岩手の脳内に霧散する檻の確かなイメージが流れ込む――――だが・・・・・・。

 

 

 カァァーーン!!

 

 

 打ち付けた右拳は檻を破るどころか、自身の拳を一ミリも押し込むことは無く停止している。岩手の全身に鈍い痛みが走る。破壊の花を脳内に咲かせていた岩手は、全身をくまなく使い拳を振るった。破壊出来ると踏んでいたため、衝撃は檻の破壊に流れると踏んでいたのだ。しかし実際はビクともせず、強化された拳以外の全身を衝撃が暴れ回るといった結果が岩手の体を蝕んだ。

 

 

(そんな・・・・・・。綻びどころかビクともしないなんてこと・・・・・・。)

 

 

「いや、よう頑張った方やで」

 

 

「!!?」

 

 

 バネ仕掛けのように振りかえった岩手を、激痛に変わった鈍痛が襲う。がくりと片膝を折り倒れこむのを辛うじてこらえ、まなじりに力を込め、ぐっと顎を持ち上げる。

 

 

 視線の先には――右拳を高々と掲げた紫竜と、拳の先に九の字になりぶら下がる夜叉丸がちょうど地面にずり落ちるところだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――やれる

 

 ――やれるっ!!

 

 ――僕はやれるっ!!

 

 

 幾度となく力任せに振り下ろされたこん棒が、光の尾を引きながらまた一つ撃ち下ろされる。直情の想いが、淀んだ心の底から溢れ、自身を鬼の本懐へと突き落とす。

 

 

 加減をどこかに置き忘れたような夜叉丸は、猛然と振り下ろしたこん棒をチラリと流し見る。どれほどの時が経ったのか記憶にないが、先ほどからチクチクとした違和感が胸に浮かび上がっていた。

 

 

 金色に輝くこん棒-本人はこんな形状になるとは夢にも思わなかったが-は依然として力強い手応えを返し続けている。それなのに金色のこん棒は返り血一つ付かずに輝き続けている。

 

 

(しかも・・・・・・こいつなんで倒れないんだ?)

 

 

 膝を大地にめり込ませながらも決して倒れない男。じわりと嫌な汗が頬を伝う。先ほどまでの感情とは180度違う薄ら寒い心。有利という名の足場がぐらりと揺れたような錯覚さっかくおちいる。

 

 

 ドゴォォォォン!

 

 

 その場で飛び上がり、上段に構えたこん棒を重力の恩恵と共に叩き下ろす。隙は多いが高威力の一撃。先ほどまでのがむしゃらな連撃ではなく、鬼の矜持を乗せた渾身こんしんの一撃。この一撃で決めるという意志を乗せ、夜叉丸渾身の一撃が紫竜に命中する。

 

 

(!?)

 

 

 先ほどまでのがむしゃらな一撃と違い、相手を観察する余裕が夜叉丸にはあった。当然のごとく倒れようとしない紫竜に視線を彷徨わせ、叩き込んだ体勢のまま硬直する。

 

 

(そ、そんな・・・・・・。効いてない?)

 

 

 ピシッと甲高い音を立てて、有利という名の足場に亀裂が入る。

 

 

(いや、弱気になるな! あれほどの攻撃が効いてないなんて――)

 

 

「うん?終わりか?」

 

 

 接触しているこん棒を掴み、何食わぬ顔で夜叉丸を見上げる。

 

 

「まあクソガキにしたら頑張った方ちゃうかな。」

 

 

 造作も無く立ち上がり、空いている左手で足の砂を払う。

 

 

(ありえないよ! この人本当に遊んでたんじゃ・・・・・・。)

 

 

「ぼちぼちアルス(・・・)が限界やからな。ガキの成長みて遊ぶのも終わりや」

 

 

 言い終わると同時に無造作につま先が持ち上がる。右足を上げただけの蹴りとも言えない攻撃が、夜叉丸の臓腑ぞうふえぐる。20センチほど浮かされた体に、容赦ない二撃目が抉りこまれる。地に降り立つことも許されず、五発ほど蹴りこまれた夜叉丸は、ようやく土に降りることを許された・・・・・・しかし。

 

 

「止めや」

 

 

 膝を付いた夜叉丸よりも低い位置から放たれた言葉は、さながら地獄からの使者のように絶望を運んだ。致命の拳が振り上げられるのを眺めながら夜叉丸は思う。

 

 

(ごめん岩手さん。やっぱり僕・・・・・・弱かった)

 

 

 銀色を纏った紫竜の拳は無情の閃光となり、叩き込まれた夜叉丸を貫く。鮮血を吐き出し、それでも放さないこん棒と共に、高々と月明かりの下にその身を晒されることとなった。

 

 

 

 


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