表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

戦いの螺旋 その3

「相変わらず味なことしてくれるね~。夜叉丸!」



紫竜しりゅうの横をすり抜け、即座に明人の追跡を試みた二人の鬼。しかし、5メートルも進まぬうちに見えざる壁にはばまれる。衝突寸前に気づいた岩手は急ブレーキをかけ、半歩前の夜叉丸の襟首えりくびを掴み強引に引き倒す。



(どうやら結界術の類のようだね。)



術者《紫竜》を中心に円状に張られた結界。しかも、術者の性格を現すように微妙にゆがんでいる。これでは結界の範囲を正確に測ることは難しい。通常時ならまだしも、戦闘中となるとよほどの感知能力がないと出来ないだろう。



それに・・・「接触型」か「術者発動型」か「常時発動型」か知らないが、結界自体にも何らかの作用があるように感じられる。周囲を注意深く探った岩手は、先刻から動かない紫竜を振り返る。




「追わせる気は無いってことかい?いつになく本気じゃないか。そんなにあの坊やが大事なのかい?」




挑発気味な岩手の物言いにも紫竜の反応はかんばしくなかった。虚ろな瞳を錫杖に固定したまま動かない。




(こいつ・・・さっきから何かおかしいね。)




岩手の体を『不安』の二文字が駆け抜けたとき、遠い昔の言葉が頭に浮かんでは消える。



こいつは私と夜叉丸、そして神の至宝『如来の錫杖』があれば問題ないはず。さっきも「貴様では役不足だ」と、そう言ったではないか。



――そういえば・・・昔、お頭がこいつのことを話していたような。なんだったか・・・。



寄る年波としはのせいか、昔のことがすぐに出てこない。頭に浮かんでは消える言葉を持て余しながら、5メートルほど先にたたずむ紫竜を観察する。




「・・・・・・・やばいなー。めっちゃ怒ってるやん。」



ぶつぶつ独り言を言い始める。



「・・・・・・・あかんて!俺が何とかするから!」



相変わらず錫杖に瞳を固定しながら、誰か(・・)なだめるように話す。




(こいつ誰としゃべってるんだ?)




いぶかしみ慎重に近寄ろうとする岩手を尻目に、痺れを切らした夜叉丸が白金色に輝く錫杖を振り下ろす。静止のいとまもなく叩き付けられる錫杖。夜叉丸の脳裏に潰れた男のイメージがはっきりと視えた・・・しかし。



ドゴン!!



輝く錫杖と共に結界まで吹き飛ばされた夜叉丸が、ボトリと地面に落ちる。唇の端ににじむ血の色が確かなダメージを物語る。




「夜叉丸!!」




半反射的に叫びかたわらに駆け寄る岩手に闇の斬撃ざんげきが襲い掛かる。いち早く感知し急制動をかける。鼻先を掠めるように過ぎ去る斬撃に肝を冷やし、ゆっくりと紫竜に向き直る。




「よう止まったな。今のでバッサリいけへんとはな。やっぱり岩手さんは強いな~。」




錫杖を杖にしながらヨロヨロと立ち上がる夜叉丸にチラリと目を向け、紫竜の右手に握られているものを強く見据える。不吉な灰色の大剣。月夜を侵す闇の一振りが2人の鬼に牙を向く。




「なんだその剣は?まさか・・・神の至宝なのかい?」




質問には答えず、カラカラと笑いながら右手を左右に二回振る。二筋の斬撃をくぐり、懐に潜り込んだ岩手は紫竜の右腕を掴む。




「この剣はなんだと訊いているんだ!」




「知りたかったら教えたってもええで。はぁっ!」




気合共に紫竜を包む銀色のオーラ。反射的に手を離し後方に飛んだ隙を見逃さず、大降りの斬撃を浴びせかける。


瞬時に回避は不可能と判断。胸の前で10本の爪をクロスさせ、闇の斬撃を受け止める。



ガキン!!と甲高い音が鳴り響き、ボロボロと岩手の刀爪かたなづめが地に落ちる。




「そんな・・・。あたいの刀爪かたなづめが一撃で?」




刃こぼれで使い物にならなくなった武器を驚愕の眼差しで見つめる。




「頑丈やな~。俺からすると原型を留めてることが不思議や――わ!!」



呆れたような口調のあとに矢のような飛び蹴りを繰り出す。銀色に彩られた右足がうなりをあげて岩手に迫る。


間一髪で右の刀爪かたなつめを掲げるが、それもむなしく粉々にたたき折られる。少しだけ威力の下がった飛び蹴りを顔面に受け、もんどりうって結界まで吹き飛ばされた。



「そんな・・・。岩手さん!!」



「・・・大丈夫だ。騒ぐんじゃないよ。」



たまらず叫んだ夜叉丸を制し、片膝を砂地に着きながら肩を上下させる。あれほどの蹴りを受けたとゆうのに骨も折れていない。刀爪の破片で少し切った程度だ。




「その子喋れるんや~。ぼく(・・)、ええ子やから右手のもんこっちに渡し。もう痛いおもいしたないやろ?」



左手を前に出し、クイクイと手招きする。その様子を、怒りに煮えたぎる斑の目が突き放す。




「だまれ!!ここからは僕が相手だ!!」



1人盛り上がる夜叉丸を冷めた目で見つめ、ため息混じりに応じる。



じぶん(・・・)には用事ないねんけどな~。」



ポリポリと頭をかきめんどくさそうに構える。



「待て!夜叉丸!」



岩手の叫びも聞かず地面を蹴った夜叉丸は、錫杖を大きく横にぎ払う。紫竜はまだ距離があるにもかかわらず、剣を斜に構え突き出す。



ガァーン!!



光の打撃が紫竜を襲うも、体勢を崩させることも出来ない。しかし、夜叉丸とて馬鹿ではない。先ほどからの岩手との戦闘を観ている。この程度で倒せるとは思っていない。刹那の2撃目!抜く手も見せずふところのつや消し小柄2本を投擲とうてき



見えているのかいないのか、反応すら見せない紫竜の両目に2本の刃が襲い掛かる。紫竜を包む銀色のオーラにはばまれ、眼球の1cm先で止まる。しかしそれには構わず、地面を滑るように足を送り錫杖を刷り上げる。



渾身の打撃を心底くだらなそうに右手の剣で受け止める。余裕を持って受け止めた錫杖越しに夜叉丸を見る。二人の視線が交差した時、夜叉丸の口角が歓喜に歪む。



「かかりましたね。」



突如――錫杖から白金色の鎖が現れ、不吉な大剣を縛るように巻きつく。あっ!っと間抜けな声を発した紫竜を鋭い足刀が襲う。あごに痛烈な一撃を受け吹き飛ばされるが、結界付近で体勢を立て直し着地する。右手に大剣は・・・ない。



絡め取った大剣を岩手に放り投げ、視線の笑みを投げかける。




「僕だって戦えるんだ。僕はこの錫杖があれば・・・岩手さんだって護れるんだ!」



親愛の視線と言葉を置き去りにし、化物しりゅうめがけ猛然と殴りかかる。輝きを増す錫杖は生りを変え、巨大なこん棒のように太く大きく膨れ上がる。



着地後プッ(・・)と口内の血を吐き出し、開掌かいしょうのまま正中線に構える。振り下ろされるこん棒を見据え、左手を回すように動かし軌道を逸らしにかかる。しかし、輝くこん棒と化した錫杖の威力は凄まじく、紫竜の技をあざ笑うかのように叩き込まれる。



だが、素手になった紫竜も黙ってはいない。



弾かれた左手を反動に回転し、空いている右手で素早く小柄を拾い上げ投げる。その攻撃を首の動き1つでかわし、お返しとばかりにこん棒を脳天に振り下ろす。


その細い体からは考えられない威力の一撃が叩き付けられる。間一髪間に合った左手。今度は完全防御を決めた左腕だったが、受けきることが出来ず砂地に膝をつく。




「うああああぁぁぁぁぁ!!!」




1撃!2撃!!3撃!!!・・・・・・膝をついた紫竜を苛烈な撃鉄げきてつが襲う。大地を砕いてみせようと言わんばかりの攻撃。耐え切れず後方に飛びのいた紫竜を追わず、後方の岩手に微笑みかける。



――どう?僕強くなったでしょ?



――あんなすごい剣を奪えるぐらい



――こんな化物を圧倒できるぐらい



「僕は強くなったんだーーーーー!!!!!」




読んでいただきありがとうございます。なんかあらぬ方向に進みそうですが、頑張って面白くしていきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ