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Mixed breed  作者: 涼波
第1章 辺境の街サジャ
9/30

保護者

 結論から言うと、俺の努力は無駄だったってことですか。

 そう思い、肩を落としてため息をつく。結構頑張ったんですけど、主に空想話を。


 しかし、ギルドに入れないってことは、仕事して金稼げないってことだよなぁ。

金がなくなれば生きて行けなくなるんだから、最終的には里に帰るしかない。

これって今すぐ追い返される事はなくはなったけど、結果は同じってことじゃんか。

しょうがないから里に戻って、イレーネに付いてきてもらえってか。

それって馬鹿だろ、快く送り出してくれた彼女にどの面さげて会えと。


「……確かに俺は外に出たばかりで何も知らないんだと思います。人が売り買いされてるなんて知りませんでしたから。けど、学ぶ事は出来ます。さすがにそこまで子供じゃないですし」


 下降気味の思考を振り払い、再度説得を試みることにする。

自然と下を向いていた顔を上げ、ルシアさんの顔を正面から見つめる。気合の入れ直しだ。

ここで思い通りにいかないからといって、苛ついても仕方がない。こんな時こそ冷静にならねば。


 イレーネが何も言わず俺を送り出したという事は、俺自身でこれぐらいは対処出来ると疑う事なく思ってるからだろう。彼女が気にしていたのは俺の体の弱さがほとんどだったし、必要と思われる情報は古いとはいえ、ほとんど教えてくれたはず。

そうじゃなきゃ、もっと色々細かく対処法を教えられているはずだし、外へ出るのももっと先延ばしにされてただろう。十分に外でやっていけると判断したから、里を出る許可をくれたはずだ。


 ならば俺はその期待に答えなければならない。

これぐらいは説得できるはずだ。こんな所で(つまづ)いていたら、いつまでたっても家に帰れん。

捕獲される心配もなく、将来の心配といえば就職先を見つけることぐらいの、平和な世界に戻るのだ。


「さっきの説明だと、ギルドに登録してランク昇格するまでは、この街でしか仕事が受けられないんですよね?なら、この街に暫く留まって外の常識身につけるってのはどうですか。これだけ沢山の人達の中で生活すれば、嫌でも覚えると思います。それでも不安なら、ルシアさんが納得するまでここで仕事します。腕の方は問題ないんでしょう?」


 彼女の目を見ながら真面目に提案してみる。

俺は本気だからな、多少譲歩してでも通してみせるぞ。そう思いながらカウンターの下で両手を握り締める。いくら何でも何年も足止めはされないだろう。

 俺の話を聞いて、さてどうしたものかと思案顔したルシアさんが沈黙する。少しして何か納得した様に顔をあげ、俺に向き合い口を開いた。


「確かにこの街の中なら私たちの目も届きます。仕事もパーティを組めば問題はないですし、効率もいいでしょう。その方から色々教えても貰えます」


 えっ一人で仕事させてもらえないの。


「ただ、都会になればなるほど、巻き込まれる犯罪などの危険性は比べ物にならなくなります。特に王都は。やはり人を捜すとなると王都が一番ですが、リュウさんのその姿では尚危険かと」


 困った顔をして小首を傾げる。

 あぁ、やっぱりそこが問題なのか。ルシアさん的に、俺がハーフエルフに間違われてどうにかなるってことが心配なんだな。この外見だから。


 なんかこの人、いい人すぎないか。まぁ、いい人すぎて逆に窮地に立たされているんだけれども。

 普通なら自分が見えない所で他人がどうなろうと、構わないんじゃないの。少し縁があっただけでここまで考えてくれるものなのか。さっきまで仕事中心の融通のきかない人とか思っていてごめんなさい、けど頼むからギルドにだけは入れてくれ。


「それじゃあ、問題は王都行きであって、ギルド登録自体は問題ではないと言う事ですか」


「先ほどの案にそっていただければ、そう思っていただいて結構です」


 成る程、街に留まりパーティを組んで仕事する事は許可する、と。

 追い返す案はなくなって、ギルドに入ることは許可してくれた。確かにちょっとは前進したけど、これって最終的には王都には行かせたくないって事だよな。俺的に王都に行けなきゃ、意味ないんですけど。

 本当にギルドにだけには入れてくれたわけだが、俺の創った親父探しの話、全然生きてないよね。ここは「王都に行けるよう、頑張りましょうね」とかなる所だと思うんですけど。

 しかし、ルシアさんの頭の中では、王都に行ったが最後、帰って来れない、ってなってるみたいだ。そんなに頼りないか、俺。


 俯き何かいい打開策はないか考えるが、これといった案が思いつかない。ここは仕方なくルシアさんの案に従うか? けどそれで、王都にいつか行かせてもらえるって保障はない。

 これってギルドに入っても、彼女を納得させる要因が無ければ、いつまでもこの街から出してもらえないってことだろ。なら逆に、納得さえしてもらえれば、王都行きは問題無いってことか。じゃあ、どう納得してもらう?今の俺じゃ、全然説得力ないぞ。説得出来たとしても、何年後の話だよ。

 ……あぁ、なんかもう面倒になってきた。


 もうこの際、別の街に行って年齢詐欺ってギルド登録しちまうか。次の街行くまで金足りないけど、カツアゲでもすりゃ行けるだろ。

 なに、裏道にでも溜まってるDQN当たりに軽く喧嘩売ればすぐ稼げる。この世界にも馬鹿な奴の一人や二人、いるはずだ。

 不味くなったら最悪、偽名でギルド登録すりゃいい。

 ……おっといけない、昔のダメダメな俺が出てきた。そーゆうダーティな思考は高1で卒業したでしょ、俺。まともな大人になるって誓ったよな。


 うん、この案だけは絶対に実行できない。たとえ誓ったのが元の世界の話でも、だ。

 ただでさえここでは、元の俺という基盤が揺らいでいるのに、大事にしているものを破るなんてことしたら、それって元の俺じゃなくなるってことだ。その後は人生下り坂なのが目に見えている。

 上手く言えないが、暗がりでしか生きられないような生き方は、する気はない。


「王都へ行くには、同行者がいれば問題ないと考えればいいのか? そうなら俺が同行するが」


 思いもよらない言葉が俺の隣から聞こえ、声の主を見る。今、なんて言った。

色々おかしなこと考えすぎて、自分に都合のいいセリフが聞こえたような気がする。

 今まで会話に参加していなかったレオンがルシアさんを見つめ、更に口を開く。


「暫く王都にある家にも帰っていないし、近いうちに顔を見せに戻ろうと思っていたしな。俺の家で世話すれば目も届くし、何かに巻き込まれる心配もないだろう」


「マジで?それって迷惑じゃないのか」


 幻聴じゃなかった。思わず口走る。思いも寄らない所から援護射撃がきた。


「別に迷惑とは思わないぞ。どうせ乗り掛った船なら、最後まで付き合ってみるのもいいだろうからな。ちょうど手も空いてて暇だし、ついでにクエストも付き合うさ」


 何でも無いような顔をして、俺を見ながらさらりと言う。そんな簡単に言っていい内容か、これ。


「本当にいいのか、レオン」


 こいつ、どこまでいい奴なんだ。あまりのいい人ぶりに驚愕する。

 そんな俺に口の端をあげてレオンが軽く頷く。そんな仕草が絵になるとは、なんなのこの男前。


「そうですね。レオンさんが保護者代りなら私も安心です。クロイツェル家の方なら身元もしっかりされてますし、何の問題もありません」


 ルシアさんがほっとした顔でレオンに微笑む。

 彼女がそんな顔をするとは、随分信頼されてるんだな。そういやティアもレオンの事知ってたよな、結構有名人なのか?


 っていうか、保護者代りってことはやっぱり俺は子供扱いなんだな……。まぁ、俺だけでは説得できなかったし、まだまだ半人前ってことなんですかね。

 師匠、すみません。俺は期待に応えられなかったようです。

 この話聞かれたらイレーネに呆れられそうだよ。


「ではこの内容でギルド登録させていただきます。明日の朝にはカードが出来上がりますので、こちらに受け取りにきて下さい」


「わかりました、よろしくお願いします」


 用紙を手に持ち微笑む彼女に、しっかりと頷く。

 よかった、レオンのおかげでなんとかなった。感謝してもしきれん。あまりの急展開に俺の頭が追いつていなかったのか、ようやくテンションが上がってくる。

 レオンに「ありがとな」と声をかけると、すぐに「気にするな」と笑って返される。

 なんでこんなに風に、恩を着せるわけでもなく何でも無くいられるんだ。俺より7か8は上に見えるが本当はもっと年は離れているはずだから、やっぱり人生経験がものを言うのか。正直、かっこ良くて羨ましい。



「ね、リュウ、私にも手が空いていたら手伝わせて?」


「俺としては嬉しいけど、いいのか?」


 ティアの言葉に首を傾げ、振り向き答える。随分と目を輝かせてるが、俺のクエストなんて簡単だからすぐ飽きるんじゃないのか。カウンターの上に組んだ腕を置き、わずかに身を乗りだし覗き込んでくる姿は何とも気楽そうだ。


「今はこの街で即席のパーティ組んでるんだけど、毎回同じメンバーだと新鮮味がなくなるんだよね。気分転換にいいかと思うんだ!」


 ちょっと失礼っぽい台詞が端々に見受けられるが、ティアの場合嫌みにならないのがすごい。悪い意味じゃなく、いい性格してるなこいつ。


「じゃあ、手が空いてる時に声かけてくれ。都合が合ったら頼むな」


「まかせなさい。私とレオンがいれば、大量に魔物討伐の仕事受けてもすぐ終わるよ」


 自信ありげに胸を張る姿を見て、苦笑しながら頷く。

 俺的に、今までの言動からティアは結構好い印象だ。さっぱりしてるし、話しやすい。

 まぁ、ここまでの流れで、何故か俺を不利にする言動が多かった気もしないでもないが、そこは気にしないでおいてやろう。


 そう思いティアを眺めていたら、目の端に青い物体が入り込む。俺が初めて倒した魔物の死体。そうだ、魔物繫がりで思い出した。この狼もどきの話をせねば。


「そういえばルシアさん、その狼角(ろうかく)って毛皮とかお金になるもんなんですか」


 カウンターの端に追いやった死体を見ながら聞いてみる。

レオンはいい金額になるって言ってなかったっけ?所持金少ないから足しになるといいんだけど。


「あぁ、そうですね。この魔物は毛皮もですが、角もいろいろな材料になるので高く取引されます。依頼は出ていないので報酬等はないですが、引き取りで金貨4枚にはなりますね。それでよろしいですか?」


「お願いします」


 やったね。これが多いのか少ないのかは今の俺には判断できないが、ないよりはましなはずだ。そう思いながら金貨を受け取る。

 そういや、初めて自分で稼いだんじゃないか俺。なんかすげぇ嬉しい。


「有り難うございました、それじゃ明日またお願いします」


 頭を下げて礼を言い、すっかり馴染んでしまっていた椅子から立ち上がる。同じく立ち上がったレオンが、無言で後ろの空いているテーブルを指差すので頷く。今後の話とかかな。

 そういや腹が減った。気づくと結構な時間が経っていたらしい。

 ちょうど、表で鐘の鳴る音が聞こえてきた。6回聞こえたってことは、夜の6時か。


 この世界には、俺の元の世界と同じく時計が存在する。けれど高価で一般化はされてないので、こうやって鐘の音が知らせてくれる。時間は同じく24時間の概念だ。

 映画の知識ぐらいしかないが、ここは昔のヨーロッパによく似ている点が多いと思う。服や食事、石造りの建物に主な交通手段は馬車な所とか。

 ただし、古代ローマ並の上下水道の概念はちゃんとあってトイレは水洗だし、風呂にも入れる。しかも質は悪いが紙が普及していて、トイレには紙がちゃんとあるのだ。

 ここだけは本当に良かったとマジで思ってる。他がどんなに不便でも、このおかげで俺は耐える事ができる。夜はランプや蝋燭の明かりしかなくても、俺にはトイレや風呂の方が大事だ。


 そんな事を考えつつ、椅子に座ったままのティアに「またね」と手を振られ、それに返事をして席を離れる。

 ルシアさんと話しだした姿を見て、仕事の報告の話を思い出す。根気よく待っていてくれてたんだ。結構長い時間だったのに嫌な顔せず待っててくれたとは、コイツもいい奴じゃないか。

 まぁ今なら俺のこの浮れた気分で、殆どがいい奴に見える気がするけどな。


 テーブルに座ると、「ギルド登録出来て良かったな、坊主」と周りから次々声をかけられる。やっぱり聞かれてたのかと少々顔が熱くなるのを感じながら、「どうも」と返しておく。

 そのなかにいた中年のおっさん冒険者なんぞは、わざわざ側に寄ってきて笑いながら頭を乱暴に撫でまわしていきやがった。おかげで髪がぼさぼさだ。

 お前、絶対後ろで鼻啜ってたやつだろ。


 なんかギルド登録するだけでかなり色々消費した感じがする。過去に簡単とかほざいていた俺に、小一時間ほど説教したい気分だ。









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