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Mixed breed  作者: 涼波
第1章 辺境の街サジャ
8/30

未成年

 ルシアさんに用紙を渡すと、確認の為に目を通しはじめた。

 そしてすぐに顔をあげ、まじまじと俺の顔を見る。あれ?なんかおかしかったか。


「失礼ですが、この内容で間違いありませんか」


「はい。えぇっと俺、エルフよりの混血なんですけど、ちょっと先祖帰りしてるみたいで見た目がこうなんです」 


 引っかかるところと言ったらそれしか思いつかなかったので、内心うろたえながら返事を返す。レオンが言うには自信を持って言え、だったな。

そう思いレオンを見ると、同じくこっちを見ながら無言で頷いてくる。

 よし、俺の対応一先ずOK。


「あぁ、それで耳がハーフエルフ並みに短いんですね……じゃなくて、年齢に問題が。これは、レオンさんが保護者代りということでしょうか?」

 

「「え?」」


 真面目に聞いてくるルシアさんに、俺とレオンが同時に問う。どうしてそうなるんだ。

 そんな俺たちを見て少し困った顔をしながら、俺が書いた用紙を見やすいようにこちらに向けて置いてくれた。


「人族以外の種族では、年齢が20才というのは未成年者です。ご両親の許可が無くては受付られません」


 あれ? そういやこの世界の成人って何才なんだ、俺のいた世界ではばっちり成人なんだけど。今更だけど、ここの世界って人族意外は寿命が長いんだったんだ。

予想外の言葉を聞いてちょっと呆然とする。

 用紙を覗き込んでいたレオンが顔をあげ、俺を凝視する。眉間に皺が寄っていて、ちょっと怖い。瞳孔が縦に切れてる目って、眇めると中々の迫力になるんだな。


「いくらなんでも成人はしていると思っていたんだが……。いや、確かにモノを知らなさすぎるとは感じたが。リュウ、両親の許可は取ってきたきたんだろうな」

 

「え、きょ、許可?」


 そんなの必要なのか。初耳なんですけど。

挙動不審な俺に更に眉をしかめるレオン。いやその顔怖いんですけど。


「……もしかして、家出、とか……?」


 同じく用紙を覗き込んでいたティアが、紙を見つめたまま深刻な顔をしてつぶやく。ちょっ、なんでそうなる。が、その言葉に残りの2人の視線が、一斉に俺に集まる。ヒィッ視線が突き刺さる。痛い。


「いや、俺親いないし」

 

 咄嗟にあせって答えると、その言葉にルシアさんが一瞬動きを止める。

 その動きにあれ?と思った次の瞬間、彼女がバンッと音をたて両手をカウンターにつき、そのまま勢い良く立ち上がった。

 その拍子に、椅子がガタンと大きな音を立てて倒れる。


「エルフという種族はどうなっているんです! 20才の身寄りのない子供を、一人で街まで来させるなんて言語道断ですっ。しかも、あやうく攫われかけたんですよ! エルフが他の種族より危険な目に遭うとわかっているはずでしょう!」


 えぇ、なんか俺、すごい子供扱いされてないか。すごい違和感。

顔を真っ赤にさせながら、誰とはなしに本気で怒るルシアさんを見て唖然とする。

 レオンも怖いが、ルシアさんの形相も中々だ。


「けど、ちゃんと俺の師匠に一人でやっていけるって、お墨付きもらいました。あと家出じゃないです、里を出る時見送ってもらってますし」


 彼女の剣幕にビビリつつも、努めて顔には出ないよう説明してみる。

ここは冷静に対応だ。まぁ、イレーネは最後まで心配そうだったけどな!


「だとしても、親代わりの方がいるでしょう。なぜその人が一緒じゃないのか、理解に苦しみます。一度里に戻って再度その人と来た方がいいでしょう。むしろ40才で成人してからのほうが安心かも。そうですね、それがいいです、そうしましょう。大丈夫です、戻る際にはギルドから責任持って護衛をつけますから」


 話しているうちに。ルシアさんの中では勝手に結論がでたらしい。自分的にナイスな案だと思ったらしく、真顔で俺を見て頷く。

 ちょっと何自己完結してるんですか、この人。


「いやいやいや、なんでここまで来たのに帰らなきゃなんないんだ....じゃない、ならないんですか。ちゃんとやってけますって、俺狼角倒したし、Dランクの腕なんでしょう?! それに俺の親代わり、里の守護者だから外出られないし(多分)!」


 言った側から冷静に対応とか、無理すぎる。どういうことですか。どうしてそうなるんだ、ルシアさん。

 ここは何が何でも、絶対に送り返されるわけにはいかん。ギルドカードを手に入れるためにも、引くわけにいかない。


 しかし、成人が40才とは。そりゃその半分だったらこの対応になるか。俺のいた世界だとすると、単純に考えると10才だ。

 10才が自分で金稼がないとならないとか、一人でこんな所に来るなんて、確かにおかしすぎるだろう。言葉にすると虐待の気配がする。

 イレーネめ、何故こんな大事な事を教えてくれなかったんだ。誠に遺憾だ。


「守護者、ですか……」


「そうなんです、だから無理なんです。えっとあと、親ですけど片親はいるんです」

 

 とっさに思いついた言葉が口に出る。次どうしようか?脳みそフル回転で考える。

 

「なら」

「ただ、5年前に外に出て行ったきり、帰ってきてないんです。あー、1年前にお袋が長く煩っていた病気で死んで、親父はその病気を治す薬を探しに行ったままで。すごくお袋のこと心配してたし、すぐ帰ってくるから俺に頼むって出て行ったんです」

 

 お、いいんじゃね?ちょっと不幸系っぽくて、共感してもらえそう。


「それでですね、そんな親父が帰って来ないのは親父になにかあって、帰れなくなってるんだと思うんです。俺みたいな目にあってるかもしれないし。だから、俺が探しに行って見つけないと、親父はお袋のこと知らないままなんです。」


 うむ、そういうことなんです。咄嗟とはいえ、筋道もちゃんと通っている。


「このままだと死んだお袋も親父に花供えてもらえないし、俺、兄弟とか身内いなくて里でたった一人なんです。親代わりの人は面倒は見てくれるけど、血の繋がりはない他人だし。誰もいない家にいるぐらいなら、一人で親父探しに行った方がマシかなって思って出てきたんです。お願いします、俺を追い返さないで下さい。親父を捜しに行かせてもらえませんか」


 立ち上がったままのルシアさんを見上げながら、懇願してみる。なんかありきたりな内容な気もするが、俺の頭ではコレが限界だ。

上手く信じてもらえたらいいんだが。


 ……あれ、よく見るとルシアさん、俺を見つめる目がうっすらと涙ぐんでないか。

ティアを見ると俺へと向き直り、胸の前で両手を握りしめながら目に涙を溜めてこっちを見ている。

 もしかして大成功? ちょろくね? そう思い、レオンはと見ると、なにか言いたそうな顔でじっと見つめてくる。レオンも信じちゃったのか?


 思った以上の効果にちょっと不安になりながらも、再びルシアさんへと向き直る。更には後ろからは、微かに鼻を啜る音が聞こえてきた。

 っていうか、それ以外の音がしてないことに気がつく。怖くて振り向けない。なんか上手く行き過ぎた……?

 この世界の住人、騙されやす…じゃない、素直すぎて逆に俺、心配になってきたんですけど。


「……お父様のお名前は?」


 ハンカチで目元を押さえながら椅子に座り直し、問いかけてくるルシアさん。先ほどの勢いは全くなくなっている。


「リュリュっていいます。エルフでも珍しい名前だって言ってました」

 

 嘘は言っていない、嘘は。イレーネがそう言っていた。


「噂でも聞いた事無いわね。エルフ自体少ないから、聞いていたら記憶してそうなんだけど。力になれなくてごめんなさいね」


「いえ、いいんです。自分で探す気でいましたし、気にしないで下さい」


 ちょっと良心が傷んできた。

 聞いた事無いはずだよ、うちの里の長老の名前だからな。思わず目をそらす。爺さんとはちょっと交流あったせいか、思いつきでつい名前使っちまった。見た目よぼよぼな割に元気な人だった。勝手に親父にしてごめん。

 だが、ありきたりな名前にして万が一、同じ名前のエルフが外にいたら迷惑かけるからな。


「そ、それでですね、探すにはやっぱりギルドカードが必要で……だめですか?」


「冒険者となってお父様を探すわけですね。その為にこの街に来た、と」


 哀れみのこもった目で見つめてくるルシアさんに申し訳なく思いつつも、必死に頷く。実は情に脆い女性だったらしい。

 そんな目で見つめられたら土下座して謝りたくなるが、ここは元の世界へ帰る為にも我慢だ。このまま行けば絆されて、登録させてもらえそうな流れっぽい。


「リュウさんの場合、成長が早めで体自体は成人とほぼ同じようですが、問題は世間を知らなさすぎるというか……。ここまで箱入りだと、逆に一体どんな育て方をされたのか興味が湧くほどです」


「そうだよね、このままだとまた悪い大人に騙されるかもしれないもんね、リュウは」


 2人とも、本人目の前にして酷くないか、さっきまで目に涙浮かべてたくせに。すごく気の毒そうな顔で言われても、嬉しくない。


 言っておくが、俺だって元の世界では結構やれてたんだからな。

 大学行ってそれなりにまともな友達もいたし、親の負担に出来るだけならない様にバイトして、小遣いだって稼いでいたんだぞ。

 そりゃ反抗期の頃、ちょっとやらかして親に心配かけたけど、今は立派に更正してるし! なのにこっちじゃお子様扱いとか、あんまりだ。

 そんな俺の心の嘆きなんて無視して話は進む。


「そうなんですよ、それでなくともエルフは他族との交流が少ないせいで、俗世に疎いですし。大人ならなんとか対処できるんでしょうけど」


「対処できます(キリッ)」


 ティアの同意の言葉に確信をもって頷くルシアさんに、何の根拠も無いが言い切ってみせる。いやマジで頼みます、自力で生きてみせますから。だから登録させて下さい。

 が、しかし速攻でティアから突っ込みが入る。


「誰だっけ? ここで私に首枷外してもらったの」


「……俺ですね」


 くそ、前科があるだけに反論出来ない俺がいる。恨むぞ、過去の俺。

 しかし、ティアよ。なんかお前が口を開くたびに、俺が不利になってないか、オイ。



 すぐに送り返される危機は去ったようだが、このままじゃギルド登録無理っぽい。すごく頑張ったはずなのに、話は最初に戻っただけってどういうことなの。融通効かなすぎだよ、ルシアさん。







 

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