予想外
街に着くまでの間の暇つぶしにと、エルフの里を出たばかりの俺に街やこの国のことをレオンが色々と話してくれた。
この国、カーリタル王国は人族の王族に治められている大陸最後の国で、今年の初めに亡くなった王様で純血の人間は死に絶えたんだそうだ。
後を継いで即位した現在の王様は、ハーフエルフの女性との間に出来た子供で、残った数少ない王族と人族の貴族は今や皆、ハーフエルフとの混血ばかりとか。
現在、人間の血がこれ以上薄まらないよう必死で、王族と貴族との間でしか婚姻が結ばれない異常な状態なんだと。
このままいけば血が濃くなりすぎて結婚等が難しくなると予測され、最近は少なくなったハーフエルフを見つけようと必死らしい。
なんというはた迷惑な。
そんな必死にならなくとも、自然の流れに身を任せればいいものを。滅びの美学というものを知らんのかね、見苦しい。
だからあの人さらいやろう共のリーダー格が、ハーフエルフに固執してたのか。これからは先祖帰りした混血で、何が何でも通しまくってやる。
だがそうなると、王族がいる王都って俺にとって結構危なくないか。そこに行かなきゃ帰る方法を調べられないのに。俺の元の世界へ帰るぞ計画に、暗雲が立ち込めるてきている気配がする。
予定ではさっさと王都に行って腰据えて調べるはずだったのが、王都の大図書館への距離が遠くなっていく。なんという事だ。
思ってた以上に早く人族が絶滅してたおかげで、当初の計画がずれてきているが大丈夫なのか。気のせいか、難易度が上がってるような気がしないでもない。情報の少ない今の俺ではいい対策は立てられないし、暫く街に留まって考えるしかないだろう。心の中で盛大にため息をついた。
日が傾きかけた頃、目的の街サジャに到着した。
3メートルあるかなしかの外壁に街全体が囲われていて、周辺の魔物などの外敵から街を守っているのだそうだ。
国の東端にある辺境の街ではあるが、ここら辺では一番大きな街らしい。海に面した港町で、更に東にある島国とこちらを結ぶ大事な航路になっていて、中々の賑わいなんだそうだ。
港町という事は新鮮な魚料理が食えるのか。肉もいいが新鮮な魚はもっといい。
街に入る前にレオンの指示で騎獣から降り、代わりに引きずっていた麻袋を乗せて門へと進む。そうだよな、街なかであのまま引きずるとかないよな。
なんか移動中ぴくりとも動かなかった気がするが、中身生きてるよな?
門には鎧を着た兵士らしき2人組がいて、街へ入る人へ何か声をかけて通していくのを、短い列に並びながら見る。列の先頭近くになると、騎獣の手綱をもったレオンに気づいた一人が、レオンの名を呼び声をかけてくる。
レオンは最近この街を拠点に活動しているらしいから、門番とも知り合いなのかもしれない。
そんな事を思いつつ、レオンの肩越しに見える街の様子を観察する。
石畳の道に、石で出来た家が並んでいるのが見える。まさに中世のヨーロッパという感じがする。そこを行き交うカラフルな髪の人々。里にいた時にも思ったが、本当に色々な髪や目の色をこの世界の人たちは持っている。
もちろん黒髪もいるから俺も浮く事はないが、一緒に目の色まで黒は珍しいらしい。出来れば目立たずにやっていきたいので、極力浮かないように頑張ろう。
一人、勝手に誓っているとレオンに声をかけられる。顔を向けると、レオンの他に門番の男がこちらを見ていた。いつの間にか俺の順番が来ていたらしい。ちょっと夢中になって街の中を見すぎていたようで、ちっとも気かなかった。恥ずかしすぎる。
「ディルウ出身のエルフで、サジャにしばらく滞在の予定です」
そう言って金貨一枚を渡す。身分を証明出来る物がない場合の対処方だ。
ギルド登録出来ればギルドカードが身分証となるので、後から提示して返してもらえるらしい。
この世界では子供以外はギルドに入っているのが普通だ。商人なら商人ギルド、兵士なら兵士ギルドというのがあり、旅をしながら討伐クエなんかをやってるのが冒険者ギルドのやつらだ。
他にもギルドがあるそうだが、俺には関係ないだろう。
「エルフか、珍しいな。ここが森から一番近い街なはずなんだが、彼らはめったに来ないからな。」
門番がまじまじと俺の顔見てくる。エルフってだけでさっそく目立ってるんですけど。さすが引き蘢りの種族は違う。
「俺みたいな外に興味ある奴は変わり者らしいんで、しょうがないですね」
そう言いながら笑うと、門番も笑いながら街へと通してくれた。一応好印象は持たれているんじゃないか、エルフ。
先に行って待っていてくれたレオンと合流し、冒険者ギルドへ向かいながら周りを観察する。
店と思われる建物は、他の建物と違い窓を大きめにとり、ガラス越しに中の様子が見えるようになっていて、そこに売り物が置いてある。
目の前の店はパン屋らしく、色んな形のパンが並んでいて外にまでいい匂いがしている。
その中では客と店の人が話をしていて、2人とも楽しそうだ。
外にある看板も面白い。一目で分かるように絵と文字が入っているのとか、剣をクロスさせただけの看板とか色々ある。
その先の広場では、串に刺した肉を焼きながら売ってたり、果物を山のように積んで飲み物を売ってる露天とかもあって、仕事帰りなのか人も多くて賑やかだ。
遠くには海が見えていてそこに港らしき物があり、夕日のなか帆を張った船が停泊しているのが見える。これから出航なのかも。
さすが港町だなと思い眺めながら歩いていると、微かに風に乗って潮の香りがした。
ギルドに着くと、それぞれ荷物を抱えカウンターに向かう。
スオウは外で繋がれてお留守番だ。
そんな無防備でいいのか聞くと、騎獣は本来気性が荒く、主人と認めた者以外の命令は聞かないものなので、迂闊に触る馬鹿はいないらしい。
大人しいスオウしか知らないんで実感が湧かないが、とりあえず大丈夫なんだろうと納得する。他にも繋がれていたしな。
しかし、乗っていた時に思ったが、あのもふもふ感たまらん。俺も、もふもふの騎獣がほしい。
建物の中には結構人がいて、テーブルを囲んで話し込んでいたり、壁に張ってある紙を眺めていたりしている。皆冒険者なのかと思うと、まじまじと見てしまう。
若い男中心だが、結構女の人もいて予想外だ。冒険者って危険そうな職業だと思ったんだが、ここにいるってことはそれなりの腕なんだろう。
レオンはというとカウンターの上に麻袋を置き、その前に座っている女性と話し込でいる。このギルドの受付嬢とかなんですかね?
オレンジ色の髪を頭の上の方できっちりまとめていて、出来るお姉さんっぽいが、その頭からは耳が生えている。なんという違和感。まぁ、似合ってはいるんですけど。
そんな事を考えていると、獣耳のお姉さんと目が合う。そして、レオンに何かを話しかけてから奥へと消えていった。
レオンに手招きされ、少し離れた所にいた俺はカウンターの前に置いてある椅子に一緒に座る。
青い狼の入った荷物は大きくて邪魔なので、足下に置いておく。
「あ〜やっとこれが外れるのかと思うと心底ほっとする」
これでマントの下の首輪が外せると思うと、満面の笑みになる。
魔法が使えないと心もとないし、鎖が邪魔なので首に巻いておいたのだが、思ったより重くて肩が凝ってきた。
首を回していると、レオンに笑われる。いくらでも笑うがいい、お前に助けられなければ今頃どうなっていたか分からないからな、感謝しきれん。
そんななか、さっきの女性が年配の男性を連れ戻ってきた。インディゴの髪に白髪が結構混じってるが、体格はしっかりしている。ちょっとインテリ風で偉い人っぽいんだが、耳とふさふさの尻尾に目がいってしまう。
なんの動物なのかすごく気になる。尻尾の感じが犬か狼に見えるんだが、どうだろう。
しかしこの違和感、馴れれば気にならなくなるのか?
「話は彼女から聞きました。ここのギルドマスターをまかされているグイドで、彼女は受付のルシアです。さっそくですがリュウさん、大変な目に合われたようですね」
「けどレオンのおかげで助かりましたし、俺の場合これが取れれば後は問題ないんですが」
そう言いながらマントを外し、首輪を見せると、向かいの2人が微かに顔を顰める。どうやら、彼らからしても、気分のいいものじゃないらしい。
そうして、首輪を調べたグイドさんが、少し難しそうな顔をしながら話し出した。
「……隷属の首枷ですね。奴隷商人達がよく使っていると聞きますが。そうなると、ただの人攫いの集団というよりもっと組織的なようです。この周辺では被害は今の所出ていないようなので、その前に潰さなければなりません。上手く行けば違法な商売をしている奴隷商人も捕まえられるはずです。」
「えっ人身売買に合法や違法とかあるんですか」
思わす口から出てしまった。
俺の基準からすると、どっから見ても非合法なんだけど。なんなのこの世界、ちょっと怖くなってきたぞ。
「首枷を付けられている人物を見れば不快とは思いますが、世の中では生活が成り立たず自分の身を売る者もいます。
殺されるよりも売られて良かったと思う者もいますし、そのような者から見れば合法でしょう。そうやって成り立っている訳です」
グイドさん的には気分のいい話ではないようで、微かに眉を顰めながら説明してくれる。
その反応にほっとする。人身売買? 普通ですけど? とか言われたら、どん引きしてるところだったよ。
しかし、自分を売るとかどうなってんの。借金とかで首が回らなくなったあげく、とか? なら働けばいいんじゃないかと思うんだが、そうなるってことは、俺の知らない何か理由があるんだろうか。働けない理由があるから身を売るのか? 理解できん。
多分、顔に出てしまっていたんだろう、やり取りを見ていたレオンが声をかけてくる。
「リュウ、世の中には働きたくても働けない理由があるんだ。例えば親が犯罪を犯した者であれば、その子供というだけで職にありつけない。上手く冒険者にでもなれればいいが、その力もなければそれこそ犯罪に身を染めるか、身を売るしか手がなくなるんだ」
レオンの言葉に衝撃を受ける。犯罪者の子供だからって、彼らまでそうなるわけじゃないだろ。俺のいた所でもあった話だけど、彼らはなんとか生きていけてたはずだ。
この世界じゃ生きていけないのか。だから身を売るのか。これがカルチャーショックというやつか。言葉が出ない。呆然としてレオンを見上げる。
「……親戚とか援助してやらないのか。子供なら親から離して里子に出すとか」
ない知識でなんとか考えてみる。
「そう余裕のある家はないだろうし、援助すると犯罪者の仲間扱いになるから手は貸さないだろうな。里子は貰い相手が多分見つからないし、孤児院でも拒否される。犯罪を犯すというのはそこまで害が及ぶということだ」
俺の疑問にレオンが噛み砕くように説明してくれるが、中々に厳しい内容だ。孤児院にも拒否されちゃうのかよ。
うーん、俺も犯罪を犯した本人がその扱いなら、納得するんだけど。
これ以上は、俺の頭では無理すぎる。郷に入れば郷に従え、でいくしかないのか。多少納得いかないが、レオンをみながら頷いてみせる。
そんな俺たちのやり取りを見ていたグイドさんが口を開く。
「今回の場合は、身を売る意志のない者を攫うという方法です。これは完全に法に抵触していますから、何が何でも捕まえたい。なので生き残りを連れてきてもらえたのは、こちらとしても大変助かります。さっそく奥で尋問させてもらいますよ」
そう言って、先ほどから意識を取り戻したのか、中身がうごめきだした麻袋を冷たく見やる。その内容には賛成だ。思いっきりやっちゃって下さい。
そんなことを思っていると、予想外な言葉が降ってきた。
「それと、問題が一つ。リュウさんの首枷ですが、奴隷商人が使用しているだけあって複雑な作りになっています。高度な鍵士かスキル持ちでなければ外せない代物ですが、残念ながら今うちのギルド職員には該当者がいない状態です」
思わずレオンと2人、顔を見合わせる。
なんてこった今日は最後までツイていない。