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Mixed breed  作者: 涼波
第1章 辺境の街サジャ
5/30

レオン

 目の前のイケメンに何か色々負けたような気もするが、一応助けてもらったと思われるので、素直に礼を言おうと口を開いたところで固まった。

 顔が近い、近すぎる。首に固定されている例の首輪を調べているようだが、近すぎないか。これが美しい女性ならば、いくらでも大歓迎なのだが。


「これは俺の腕では外す事は出来ないタイプだな。ちょっと待っていてくれ、鍵があるかもしれない」


 そう言って、顔が離れる。調べるだけじゃなく、外してくれようとしていたらしい。なんていい人なんだ。

 斬り殺した男たちの体をさぐっていたが、目的の物は見つからなかったようで、首を振りながら、立ちあがった俺の目の前に戻ってくる。

 さて、どうしたものか。


「街に行けば外せる人はいますかね?」


「......そうだな、ギルドに行けば何とかなるかもしれない。ついでにコイツも連れて行こう。他に残党もいるだろうし、居場所を吐かせる」

 

 そう言って気絶させ、縛り上げた男を見る。成る程、一人だけ生き残らせたのには、意味があったのか。俺なら全部殺っちゃってたな。

 

「スオウ」

  

 イケメンが森の中に向かって声をかけると、音もなく木陰から虎が現れた。しかも普通の虎じゃなく、黒い縞模様以外は真っ白だ。普通の虎と比べて軽く一回りは大きく、背に人を乗せる鞍をつけている。

 なにこいつ、可愛いんですけど。

  

「もしかして、人を乗せるのか......じゃなくて、乗せるんですか」

 

「そうだ。騎獣と言って、大陸を旅する冒険者なら大抵つれているな。それと、敬語は無理して使わなくてもかまわないぞ」


 笑いながら言われる。

 敬語は苦手だからそうしてもらえると助かるが、なんか居たたまれない。


「そう言えば、まだ礼を言ってなかった。俺の名前はリュウで、近くのエルフの里出身だ。助けてくれてありがとう」


 せめて、礼ぐらいちゃんと言える所を見せなければ。


「近くのエルフの里という事は、ディルウの出身か。俺の名は、レオンハルト=クロイツェル、冒険者だ。レオンと呼んでくれ。これも何かの縁だ、よろしく頼む、リュウ」


 そう言って右手を差し出され、それを握り返す。握手という習慣に慣れていないので、ちょっとぎこちなくなってしまう。

 ファミリーネームがあるってことは、この世界では最低でも貴族だと思うんだが、本人冒険者だって名乗っているし、そこは突っ込まなくてもいいよな、きっと。 


「こちらこそよろしく、っていうか俺の里の名前知ってるなんてめずらしいな。普通、交流ないから名前まで伝わってないって聞いたんだけど」首を傾げる。


「あぁ、俺の場合、親父の昔の知り合いがそこにいるらしくて、里の名前は聞いていたからな。イレーネという女性なんだが知っているか? かなり昔だが、パーティを組んで世界中を回っていたらしいんだが」


 一瞬、ありえない名前を聞いたせいで動きが止まる。


「多分俺の師匠の事だと思うんだけど、他にイレーネってのはいなかったし。すごい偶然だな。俺も師匠みたいに世界を見て回るつもりで里を出てきたんだが、この有様じゃ、さい先悪すぎだ」


 自嘲気味に笑いながら鎖をふり回し答える。

 まさか元の世界に戻るために色々調べようと思ってます、とは言えない。ハーフエルフって言うだけで随分と立場が悪いのに、これ以上不穏分子を盛り込みたくない。


 しかし外の世界に出てすぐにこんな出会いがあるとは。自然と笑みが浮かび上がる。

 レオンも驚いたようで、軽く目を見開く。イケメンは何やっても本当にカッコいいな、ちくしょう。

 

「そうなのか。親父が世話になった相手の身内を助ける事が出来たというのは、俺としても嬉しい。街のギルドまで責任もって俺が案内しよう。街まで歩けるか?」


「あぁ、ありがとう、そう言ってもらえると助かる。それと、歩く距離は問題ない」


 そう言って、死体の中から取り上げられていた刀を拾う。どうやら汚れはないようだ。

そのまま腰にさし、置きっぱなしだったマントを広げ、身につける。

 振り返るとレオンが白い虎に括り着けていた荷物から、大きな麻袋を取り出していた。何をするのかと見ていたら、気絶している男をその中に入れて、入り口に通した紐で口をすぼめ解けないようにきつく結ぶ。

 そして次に太い紐というかロープを取り出して袋に巻きつけ、そのまま延ばしたロープを虎の体に巻き付けた。これはあれか、荷物を地面に引きずって運ぶ気か。


「リュウはスオウに乗れ、その方が早いだろう」


「いや、歩けるけど?」


 首を傾げて返事をする。さっきも言ったが問題ないんだが。

 

「俺もそう思ってたんだが、よく考えたらハーフエルフは身体強化出来ないと、付いてこれないんじゃないか? 魔法使えないと無理だろう?」

 

 動きが止まる。そういや助けられる直後まで、大声でやり合ってたんだった。聞こえてない方がおかしいぐらいだ。

 考えてなかった。ギルドに着いた時点で引き渡される可能性があったんだった。

 イレーネが言っていたように、昔の人族と同じく保護されて管理されたりなにやらされるのか? 出来ればそれはお断りしたい。俺には日本に帰るという目的があるのだ。 

 どうしようか、頼めば他の奴らには秘密にしてくれるだろうか。それとも逃げるか。けど逃げてどうする。名前も顔も知られてるじゃねーか、そこから足がつく。


「安心しろ、他の奴には見た目が先祖帰りしてるとでも言っておけば大丈夫だ。気絶してるそいつが何言おうが、誰もそいつの言葉なんか信用するわけない。」


「......そんなんで騙されるもんなのか」


 信じて大丈夫なのか。レオンは人を売り買いするようには見えないけど、この国の住人なら、国への報告義務とかなんとかあるんじゃないのか。それともないのか。


「リュウが自信持って言えば大丈夫だろう。なにせ、誰にも確認する術がないんだからな」


 それはその通りだろう。めったに外にはいない種族だからなエルフは。

 混じりのない純血の種族が、自分の種族の混血を見分けられるのは、外見云々よりも自分たちと違う血を感じ取れるからなんだそうだ。

 エルフの血が濃ければ濃いほど混血も里から出ないし、ましてや他の種族が混じれば見分ける力はない。

ハーフエルフの場合、純粋なエルフか人間しか血の割合は感じ取れないし、話しを聞いた限りでは人族に会う可能性はない。

 仮にエルフがいたとしても、プライドの高い彼らが自分の種族が不利になる事は絶対に口にはしないだろう。

 異世界から来た俺だって、ハーフエルフになってる今、エルフの秘密を喋ろうなんて思いもしないし、ましてや他のハーフエルフを見つけたからと言って、捕獲されるのをわかっていながら誰かに話すとも思えない。

 

「それじゃあ、レオンはこの事を誰にも言わないでくれるのか」


 一番大事な所を確認する。これで言質とれたら安心なんだが。

 レオンの顔を見ると、狐につままれたようなおかしな顔をしている。そんな顔でもイケメンとは、全くうらやましいかぎりだ。それより、なんかおかしな事言ったか俺。


「......あぁそうか。言うつもりもなにも、リュウがそう考えるのが普通か」


「はい?」


「すまない、俺には元からそんな考えがなくて、それを前提で話をしていたから、リュウに通じてなかったんだな」


「えっと、なにが?」


「だから、リュウがハーフエルフだって事を誰にも話さないって、ことだ」


 首を傾げながら困ったように笑う。

 つまり、最初から言うつもりがなかったから、そのことについて説明することも思い付かなかったと? そう言うことか。

 ようやく話の内容がつかめて、思いっきりため息が出た。


「それならそうと先に言ってくれよ。疑ってかかっちまったじゃねーか」


「だから、疑われてるなんて思ってもいなかったんだって。むしろ言われるまで気づかなかったぐらいだ」


 そりゃそうなんだが。力が抜けてその場にしゃがみ込んだ俺を眺めながら、スオウの頭に肘を乗て気楽に笑うイケメンが憎い。

 くそ、さっきまでの俺の不安をどうしてくれる。良い奴だと思ったのにって、涙出そうだったんだからな。


「お前、結構良い性格してるよな」

  

 下からレオンを見上げ、恨みがましく言ってやる。


「それは褒められたってことにしとくか」


 楽しそうに笑いながらとか、余裕だなコノヤロウ。


「褒めてねぇよ」

 

 口の端で笑いながら言ってやる。

 こいつ、最初と違って随分口調が砕けてないか。最初より取っ付きやすいからつい俺も地が出てしまうが、それさえも、もうどうでもいい気分だ。


「けどいいのか。普通、知ってて言わないとか、バレたら何かしら問題になるんじゃないのか?」


 一応この国の政策なんだろうから、罰せられたりしないのだろうか。俺を庇ったせいで他人が被害を被るのは、なんか嫌だ。心配になって聞いてみる。


「知らなかったことにしとけばいいだけだろ。それで通すさ。それに俺たち以外からバレるわけないし、そんな心配ないだろう?」


 不思議そうな顔で何でもない事の様に返事が返ってくるが、そんな簡単でいいのか。むしろ騙す気満々とか、すげぇな。

 

「大体俺は、そんな理由で他人の自由を奪う考えは気に食わない。本人達からしたら大事なのかも知れないが、付き合わされる奴からしたら、たまったもんじゃないだろう。俺なら勘弁してほしいね、馬鹿らしい。だから報告する気なんて最初からなかったのさ」

 

 俺が納得していないと感じたのか、少し真面目な顔つきで説明してくる。同意を求めるように俺を見るレオンを、まじまじと見上げる。

 そうか、そう言ってくれるのか。


「うん。俺も捕獲されんの嫌だし、そう言ってもらえて安心した。ありがとな」


 これでこの話はおしまいだ。レオンも頷く。


 そろそろしゃがんだままだと足もしびれてきそうだし、と立ち上がるとその動きにつられて鎖がジャラジャラとうるさく音を鳴らす。うるさい上に結構邪魔だ。

 せめて鎖だけでも外そうとしてみるが、どうやら無理らしい。諦めて首に巻いてみる。うん、もうこれでいいよ。面倒くさい。

 それを見てレオンも肘をかけていたスオウから離れ、側の木に立てかけていた大剣を背負う。

 早く街にいかなきゃ、日が暮れるもんな。

 そんなことを考えていると、レオンが声をかけてくる。


「そう言えば、そこの狼角を倒したのはリュウか?」

 

「あぁ、そいつ倒して油断してたらこの様だよ。まったく情けない」


 思い出すだけでも忌々しい。青い狼を見降ろしながらそう答える。


「こいつを倒せるならかなりの強さだ。冒険者として胸を張っていい。ついでだ、こいつも持って行けばいい金額になるし、依頼が出てたらギルドランクのポイントに加算されるぞ。世界を旅する気なら、冒険者ギルドに登録するんだろ?」


 そう言ってもう一つ麻袋を取り出してくる。

 成る程、本来狩った獲物を入れる袋なのか。スオウに括られている麻袋と交互に見ていると手早く始末され、一緒に括られる。さすが馴れているだけあって、素早い。自分の利益にならないと言うのに、当たり前のようにやってもらってしまった。気づくの遅すぎないか俺。せめて礼は言っておかねば。

しかし、なんて良い奴なんだ、この男。そんな奴を少しでも疑ってしまうとは、人として恥ずかしすぎる。


「本当に色々ありがとうな。お前に会えてマジで助かった」


 こんな風に改めて人に礼を言うのは初めてな気が。

 微妙に恥ずかしいので、視線はちょっとずれ気味だ。


「礼を言われる程のことじゃないだろ。それよりお前、そんな簡単に他人を信用してたら次は檻の中だぞ。気をつけろよ」

 

 まぁ礼は受け取っておくがな、と笑いながら返される。それって俺が騙されやすいということか。ちょっと腑に落ちない。

 元の世界じゃ、俺を騙そうなんて根性のある奴いなかったんだがな。妙にこっちに来てからの俺はヘタレキャラ扱いな気がする。


 

 そうしてレオンに促されるままスオウの背に乗り、ようやく目的の街へと向かう事になったのだった。









 


 

 5話まで来たけど女の子キャラまで到達出来ない....。

ここまで読んで下さった方々、ありがとうございます。

誤字や不自然な点などありましたら、連絡いただけるとうれしいです。

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