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Mixed breed  作者: 涼波
第1章 辺境の街サジャ
4/30

捕獲

「そんなに警戒すんなって。助太刀しようと来てみたら、簡単に仕留めちまうとはな。一人で狼角(ろうかく)倒すなんて中々出来ないぜ。強ぇじゃねーか、エルフの兄ちゃん」

 

「そりゃどうも」


 リーダー格の男が親しげに話しながら近寄ってくる。

 ……「ろうかく」ってあの魔物の名前か。良かった、強い魔物だったのか。俺が弱いわけじゃなかったようだ。立ち上がり、さりげなく身構える。

 狼に角で「ろうかく」ね、わかりやすい名前だ。


「で、サジャのギルドの依頼でこの森に来たのかい?」


「いや、これからその街に向かう所だったのを、こいつに襲われたところだ」

 

 目の前まで来た男に油断なく答える。始終笑顔なのが胡散臭い。目は口ほどに物を言う、だっけ? おっさん目つきが怪しいんだよ。人を上から下まで品定めしてるのが、手に取るようにわかる。


「そりゃぁ、運が悪かったな。普段こいつはこんな森にはいないはずなんだがな」

 

 なんだか妙に嬉しそうじゃねーか、こいつ。

 他の奴らもこいつの後ろへとやってくる。なんか逃げた方が良くないか。前はコイツらに塞がれてるし、逃げるなら後ろだ。そのまま走りきって街まで行ってやる。

 そう思って一歩下がろうとしたら、男が俺の後ろへと目線を向ける。何事かと振り返ろうとした瞬間、後ろから何かが首に絡まり鍵のかかった様な音がした。

 しまった後ろにもいたのか。


「何しやがった、おっさん」


 慌てて首を触ってみると、厚い金属で出来たものが首に巻き付いている。これ、もしかして首輪じゃねーか。

 外そうと力を込めるがびくともしない。咄嗟に精霊を呼ぶが、答えがない。いつもならすぐに魔法が発動されるのに。何度も呼ぶが、側に居るはずなのにその気配も感じられない。

 訝しげな表情に気づいた男が、にんまりと笑う。


「その首輪は魔法を封印する力があってな。エルフならこれで逃げられねぇだろう」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 魔法うんぬんよりも、エルフなら? 俺がエルフだからこんな事になってるのか。なんか追いはぎなんて可愛いものじゃないんじゃないのか、こいつら。うっすらと寒気がよぎる。

 このまま逃げようにも、魔法が使えないとすぐに追いつかれる。エンチャントはとうの昔に切れてしまっていて、今の俺は人間並みの能力しかない。


 魔法が使えないなら刀で、と首輪から手を離す。

 刀ならそれなりに使える。全員殺せるかどうかだが、一か八かだ。

 そう思って刀に手をかけた瞬間、目の前の男に腕をつかまれ簡単に捩じり上げられる。

 痛い痛いちょっと待て、骨が折れるー! なんつぅ馬鹿力だおっさん!


 痛みで動けないのをいいことに、刀を取り上げられ、首輪に鎖をつけられる。ちょっと、マジで人の尊厳無視してくれてるんですけど! なんなんだこいつら!


「しっかしエルフとは、かなり高く売れるんじゃないですかね」


 側に寄ってきた男が俺の顔をのぞきながら喋る内容に、耳を疑う。売るって、それ人身売買じゃね? なにこの世界、それって合法なわけ?


「けど、こいつ混血だろ。耳が普通のエルフより短い」


「エルフもエルフの混血も珍しいからな、どっちも高く売れる」

 

「男も女もどっちも高く売れるのなんてエルフぐらいだしな。いいもん見つけたぜ」


 俺を囲んで男達が嬉しそうに話し、覗き込んでくるのが憂っとうしい。腕は変に捩じれて痛いわ、首から下がった鎖を引っ張られムカつくわで、元々気の短い俺は男達の声に切れる。


「ふざっけんな 勝手に人を売り買いすんじゃねぇよっ、さっさと離せ!」


「すげぇ元気いいな兄ちゃん。普通ならびびって震えてるもんだぜ」


 腕を捻り上げているリーダー格の男が面白そうに言ってくる。

 何言ってやがる。売り買いするってことは痛めつけられても、殺される事はないってことだろ。人をチキン扱いしないてもらおうか。そう思いながら後ろから覗き込んでくるそいつを睨みつける。

 

「こいつ、本当にエルフか? 俺的にエルフってこう、物静かなイメージなんだけどよ」


 困惑した顔で別の男が周りに問う。

 悪かったな、しかし元々エルフじゃない俺に、お前の理想を押し付けないでもらいたいんだが。ついでにそいつも睨みつけると、一瞬固まった。予想してなかったらしい。


「人間の血が濃いんじゃないか。混血はエルフより感情の幅が大きいらしいからな。しかし、俺が見たエルフの混血の中でも随分元気が良いというか、攻撃的というか、ずいぶんと面白い。もしかしてこいつ、ハーフエルフじゃないのか。だとしたら高く売れるぞ」


 何それ、ハーフエルフってあんまりエルフっぽくないのか? そういや里のエルフってイレーネもそうだがあんまり表情を出さないっていうか、落ち着いていたような。それより高く売れちゃうのか、俺。


「ハーフエルフっすかぁ? けど子供作れる純人族は死に絶えましたよね?」


「そうそう、たしか50年くらい前に先代の国王残して、ガキ作れる奴いなくなったよな? 頭、こいつの見た目どうみても50歳以上には見えませんが。しかも最後に残ったじいさんも、この前死んじまったばっかじゃ」


 え、何今の会話。聞き間違いですか、人間が死に絶えたとか聞こえたんですけど? こっちを見ながら皆うなずいている。すっげぇさりげなかったけど、俺の中ではとてもやばい台詞に、冷や汗が流れる。


「えっと、俺生まれてまだ20年デスケド」


「20歳じゃぁ、片親が純人族なわけねぇな」

 

 だよなぁ、とがっかり顔で返される。

 嘘は言っていない嘘は。20歳のハーフエルフではあるけども、勝手にこいつらが早とちりしただけだし。

 しかもこいつらじゃ、おれがハーフかそうじゃないかなんて分かるわけない。同じ種族の純血種の奴にしか、血の割合なんてわからないのだ。コイツらがエルフのわけないしな。

 獣人か何かの混ざりだとは思うんだが、如何せんエルフ以外の種族を初めて見る俺には、いまいち良くわからない。


「今じゃ生き残りの人族は、人間に一番近いハーフエルフとの混血ですからねぇ。ハーフエルフだと保護対象で昔はかなり高く買い取られてたらしいですけど、今はもうエルフの血が濃い混血しか残ってないんじゃないですかねぇ」


 かなり残念そうな声色でまた別の男がつぶやく。

 なんと言う事だ。コイツらの会話で薄々感じてはいたが、一番最悪な状態に陥っているんじゃないのか。

 師匠の嘘つき、いや予想以上に早すぎただけか。イレーネの話じゃ里に戻る80年前の状況では、人族を簡単には増やせなくなってはいたが、まだ余裕があったって話だった。

 そうなると、その後に何かがあって、人族が大量に死んだんじゃなかろうか。彼らは弱いから、流行病でも大規模に起こったら簡単に減少するだろう。

 そうして人族が繁殖できなくなり、それでも人間の血を残そうとするなら一番近いエルフの血を入れるはず、というのがイレーネの推測だ。

 しかも、人間の血が入ってるハーフエルフを優先するだろう、という所まで当たっている。そうなれば、元々少ないハーフエルフは人と同じく保護されるのは目に見えている、と。


 まったくもって最悪だ。こうなる前に、もとの世界に戻る方法を見つけたかったのに。


 未練たらしく俺を見てくる、その視線からさりげなく目を背ける。

 何故お前らの懐を温めるために、自分の身の危険度を上げねばならんのか。保護対象とか、もう絶対にハーフエルフとは人前では言えない。



「だがここまで耳が短いのはハーフエルフだけだ。それに両方の親がハーフエルフなら条件は同じだ」


 なんですとーっ、後ろの男からのまさかの爆弾発言。

 確かに親同士ハーフなら人間の血の割合は変わらない。なんだよ、結局いくら年が若くても、不味いのには変わりないじゃないか。

 

 「馬っ鹿じゃねぇの。そんな事言われて誰が親の話するかよ」


 俺にはこの世界に親はいないけどな。そう思いながら鼻で笑うと、目の前の男に鎖を引っ張られ、無理矢理顔を上げさせられる。痛いっつうの。


「話したくなけりゃ、話したくなるようにしてやるだけだぜ、兄ちゃん」


 やれるもんならやってみろと、笑いながら鎖を掴む男を睨みつけ、言葉を発しようとしたとたん、目の前の男の首が飛んだ。


「は?」


 思わず、間の抜けた声が漏れる。

 続いて後ろから悲鳴が上がる。その瞬間に掴まれていた腕が自由になり、突然の事にたたらを踏んで地面に膝をつく。

 一体何が起きているのかと慌てて顔を上げると、俺の周りに居たはずの男達が、大剣を振り回している男に次々と切り伏せられている姿が目に飛び込んでくる。

 たった一人に、いとも簡単に斬り殺されていく男達。


 あの大剣で俺の目の前ぎりぎりの男の首を刎ねるとか、どんな腕だ。俺なら絶対に無理。っつうか、普通は出来ないだろ。

 そんな事を思いながら呆然と見つめていると、仕事をやり終えた男が振り返る。返り血一つ浴びていない男がこちらへと歩いてくる。余裕ありまくりだ。


 でかい、180㎝の俺が言うんだから間違いない。しかもかなりがっしりしている。日本人の俺には到底手に入りそうにない、厚みのある白人特有の体格だ。

 しかも彫りの深いイケメン顔だ。薄い水色の短めの髪を後ろになでつけ、イレーネとは又違う金色の目をしている。なにが違うのかと近くに来た瞳を覗き込むと、猫の瞳孔の様に縦になっていた。

 これって何の種族だ?ネコ科の獣人なら耳があるはずだが、それらしき物は見当たらない。もう一度目を見ると目が細められている。あれ、これって笑われているんじゃ?


 そこで漸く意識がはっきりする。しまった初対面の相手になんて事をしてんだ俺。無言で人の顔覗き込むとか、ないだろ。なんて言い訳すればいいんだ、恥ずかしすぎる。

 そんな動揺しまくりな俺を見ながら目の前のイケメンが口を開いた。


「怪我はないか?」


 声まで男前なんですけど。







 読んで下さっている方々、ありがとうございます。

これからもお付き合いいただけると嬉しいです。

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