街へ
イレーネに見送られ、半年間世話になったエルフの里を出て森の中を歩く。
履きなれない皮でできたブーツっほい靴のせいか、それとも整備されていない道のせいか色々躓きながら進む。道というより獣道に近いんじゃないかこれ。
狩りや薬草を取りに行く時ぐらいにしか使ってないとか言ってたけど、ちゃんと街道にたどり着けるのだろうか。
けどあまり不安感っていうのは湧かない。とにかく周りの景色が綺麗で、そっちばかり目がいって心が浮き立つ。太陽の光が木々のすきまから降り注ぎ、森の中いっぱいに広がっている。緑が鮮やかで眩しい。
足下には白や黄色の花が緑に混じって咲いていて、森というのはこんなににぎやかだったのかと感動してしまう。
空気は澄んでるし、夏の初めに入った今の季節はさわやかでとても清々しい。息を吸うと木や花の甘い香りがする。それに小鳥達のさえずりに、動物達の気配。何だろう、森全体からやる気というか元気をもらっているような感じがする。
イレーネが森を好きな理由ってこれなのだろうか。
彼女には本当に最後まで世話になりっぱなしだった。
旅に必要な物とか揃えてくれたのは彼女だ。いい年した男のくせに、それぐらい自分でやれよって思うだろ?俺も最初はそう思った。
思ったが、いざやってみようと思ったらどれをどうやって持っいけばいいのか本気でわからなかった。要するに、こっちの旅の仕方もわからないのにどうやって用意するんだって話だ。
見た目10歳近くは下の女の子に旅の心得を一から教えてもらい、あまつさえ用意までしてもらうこの身の情けなさ。
生活の基盤が違うからと、若干残念な子を見るような温い眼差しで見られるとか、どんな羞恥プレイなのか。ついでとばかりに、それは丁寧にこの世界の生活について叩き込んでくれたのも、今ではいい思い出だ。
そんな俺の今の格好はというと、何と言うか、映画で見た中世のヨーロッパ風の衣装に近い気がする。服は簡単な作りの襟付きのシャツでボタンでとめるようになっていて、ズボンもシンプルなデザインで皮のベルトを通してある。
他にベルト付きのポーチ?みたいなのがあって、旅に必要な物を入れてこれを腰に下げるようになっている。
後は食料を入れた紐付きの袋を肩から袈裟懸けして、フード付きのマントをかぶって出来上がり。もちろん武器は腰に。
防具は?ってなるけど、基本エルフは魔法を使うから必要ないらしい。遠距離攻撃な上に魔法でガードするんで、防具を使うという概念がないんだそうだ。なので、魔力をあげるローブや装飾品はやたらとあるんだが、防具は一切ない。
けど俺の場合、武器攻撃なんで皮の胸当てぐらいは欲しい。街までの我慢だ。
なぜ俺だけ武器なのか。これは俺の魔力のコントロールが壊滅的に下手だからなのだ。
本当に出来の悪い弟子ですみません。
エルフの場合、まず精霊と契約してその属性の魔法を手に入れる。そしてその魔法を自分の魔力を使って攻撃や防御、更に体自体を強化したりする。
魔法を使うと精霊が成長して、より強い魔法にレベルアップする仕組みだ。どちらかというと召喚士に近い気がする。
契約した精霊は常に側にいるんで、呼び出したり声をかける必要もなく、すぐに魔法を使うことが出来る。
他の種族の魔法使いのように、時間のかかる魔法陣も呪文も必要ない。
しかも彼らは自分の魔力を使って魔法を発動させる考え方なので、大量に魔力を消費するうえに、能力以上の魔法や自分の属性以外はほとんど使えないんだそうだ。
そんななかで、契約した精霊を成長させ続ければ魔法も強くなり続け、いくつもの属性魔法を使えるエルフは他からしたら規格外らしい。
で、俺はというと精霊との契約は簡単にできた。
精霊との契約は精霊族以外は出来ないそうだが、他のエルフと同じように、ハーフエルフのおれでも火・水・風・土・光の5属性全て問題なく契約出来た。
しかしその後が問題だった。何故か攻撃魔法・防御魔法がどうしても上手く使えない。
5属性の魔法を自分自身にかけることで身体能力を大幅に上げるエンチャントは問題なく出来るし、回復魔法のヒールも自分で試した限り使えてる。
普通エンチャントっていうのは武器や防具に魔法をかけて能力を上昇させるものだなのだが、エルフはそれを自分の体自体にも使う事が出来る。
腕力や素早さをあげたり体へのダメージを軽減させたりと、虚弱体質なハーフエルフの俺には大変ありがたい。
そして色々イレーネと試行錯誤を重ねた結果、自分自身か自分が触れているものにしか使えなことが判明。つまり魔法が使えても離れた敵に魔法で攻撃はできないし、敵の攻撃を防御できないって事だ。
それって大問題なんじゃ?って聞いてみたら、大問題だなって返事が返ってきた。うん、だよな。けどもっと建設的な返事を期待してたよ俺。
そんな感じで考えに考え抜いた結果、魔法で攻撃できないなら武器で攻撃したらいいじゃないっ、てことで落ち着いた。
いわゆる魔剣士ってやつだ。武器に魔法を纏わせれば威力はあがるだろうし属性も付く、いいんじゃないか魔剣士。
一応元の世界では刀が好きで居合いや剣道はやっていたし、腕ははかなりのものだと自負している。あっちの世界じゃ無駄なスキルと言われ続けたが、まさかこんなところで役に立つとは。
人生何があるかわからないもんだとしみじみ思う。
しかもイレーネが、刀なら貰い物があると簡単に渡してきたのには驚いた。
昔世界を回っていたときの仲間のもので、里に戻る時に餞別に貰ったらしい。
そんな大事な物勝手に人にやっていいのかとも思ったが、弟子に渡すならあいつも喜ぶだろう、という言葉で有り難く使わせてもらうことにした。
そしてめでたく問題も解決したところで、それから約半年間、イレーネ師匠との地獄の修練の日々が開始されたのであった。
そんな昨日までの日々を思い出しながら道を進む。
あの地獄の様な日々に比べれば、これから先多少大変な事があっても、それほど苦にならないんじゃないか。むしろそれを見越しての修行だったらのなら、師匠すごすぎる。
いや、そこまで考えてはなさそうだった。ただの趣味っぽかった、うん。
実はSの気あると思う、あの師匠。じゃなきゃ普段無表情なのに、何故痛めつける時だけあんなに楽しそうなのか。
……これ以上考えるのは止めよう。もっと、こう前向きな話で行こう。
森は安全だが、外は普通に人を襲う魔物がいるらしい。イレーネが言うには、ここから街までならそんなに強い奴はいないって話なんだが、俺の腕で大丈夫なのか。
本人の話だと、それなりに鍛えたから簡単には死なないってことなんだが、俺かえらするとかなり不安だ。
イレーネ相手に死ぬ思いでやってきたんだからいけるとは思うが、本人にはかすり傷一つつけれなかったんだよな。
エンチャントもまだ継続時間が短いから、戦闘中は何度もかけ直さないといけないし、タイミング間違うとヤバそうだ。
そうならないよう叩き込まれたんだけど、実践経験がないんだよな……まぁ、やるだけの事はやったんだから、考えるだけ損だろ。
いらん心配するよりも、これからやるべき事を考えた方が建設的だ。最終目的は日本に帰ることだが、その前にやるべき事が目の前に山ほどある。
まず目指すはこの里から一番近い街だ。それなりに大きい街らしいので、この世界の情報を仕入れることが出来るはずだ。
その後、王都へ。世界中の書物を集めたと言えるぐらいの大図書館が、そこにあるんだそうだ。そこで調べれば俺みたいな境遇の話を見つけられるかもしれない。もしかしたら、帰り方もわかるかも、と言う訳だ。
それに大陸中の人々が行き来している都会ならば、色んな噂が入ってきているはず。そこから問題解決の糸口を見つける事が出来るかもしれない。
言葉もできるし、読み書きも問題ないので調べるのは簡単そうだ。
そんなあやふやで大丈夫なのかとも思うだろうが、実は昔は俺みたいなのが結構いたんだそうだ。異世界からやってきた人族。
中には俺のように人間だったのに、こっちの世界では違う種族になっていた奴も少なからず居たとイレーネが教えてくれた。
実際に彼らと会ったことのある彼女は、俺の話を聞いても驚かなかった。
しかも、イレーネが出会ったその異世界人は、元の世界に帰る方法を探すと言って、エルフの里を去ったらしい。そして、俺と同じエルフだったその人物は、二度と里に戻ってくる事はなかったそうだ。
無事に戻れたのか、諦め定住したのか。結局、それは分からないまま今に至る。
それでも、あり得ない状況に落ち込んでいた俺からすると、一縷の希望を持ったのは間違いない。この里に戻らなかったということは、帰れたのかもしれないんだから。
しかし、その昔外の世界を旅したイレーネも、80年前に里に戻って以来外には出ていないし、その間に何かが起こっていてもわからないそうだ。
どうしてそこまで無関心でいられるんだ、この種族。戦争とか勃発して国が滅んでもいいのか。
実際に滅んでも自分達の生活に害がないなら、気にしないでいつも通り暮らしていそうな気がする。そうじゃなきゃ、里に紛れ込んだ俺にあんなに無関心でいられるわけない。
エルフの血が入ってるから里に留まることを許してくれたけど、別の世界から来たっていうのは気にされていなかったし。イレーネ曰く、自分達エルフに害がなければ問題ないらしい。
おかげで里の端にある空き地に修行という名目で地面に大穴つくるようなことやってても、最後に元に戻しておけば問題かった。結構音とかうるさかったと思うんだけどな。
たまに好奇心の強い若いエルフが外の世界に興味を持って出て行くけれど、必ず戻ってくるんだそうだ。やっぱり自分の居場所はここなんだって、再確認するんだと。
そんな訳で話が少々ずれたが、元の世界に帰るためにも、まずはこの世界の新しい情報が必要なのだ。80年前の情報じゃ古すぎる。
帰る方法を探すにしても、まずはこの世界で生活しなきゃならない。生きるためには食べなきゃならないし、食べるためには金を稼がなけりゃならない。金はどうやって稼ぐのか。
話をきいた限りだと、80年前は冒険者ギルドっていうのがあって、そこで登録して仕事を見つけられたらしいんだが、今も同じシステムなんだろうか。廃れてたら、俺はどうやって仕事を見つければいいんだ。
一応里の生活では使う事がないからと、昔外で使っていた残りの金貨や銀貨をイレーネは持たせてくれたが、これだってすぐになくなるだろう。
他にも色々気になる。人間が絶滅しそうって本当なのかとか、最近俺みたいにこっちの世界に来たやつがいるのかとか。
それとこっちの世界の人々。エルフがいるくらいだからと聞いてみたら、色んな種族がいるらしい。大きく分けて5種族あって、獣人族、竜人族、精霊族、魔人族、それに減少中の人族。
人族以外は全て亜人で人に近い姿らしい。生身の女子に可愛い耳と尻尾が付くとか素晴しすぎる。しかも獣人族は猫や犬の他に狼や虎、小動物の兎やらと多種多様らしい。猫耳も可愛いがうさぎ耳とか更に可愛いんじゃないだろうか。
あれ?そういや獣人って男もいるよな。男にうさ耳?頭の中で勝手に映像が浮かんでくるんですけど。
Tシャツピチピチのムキムキ渋面ナイスガイにうさ耳……?
おぉう、神様残酷すぎる。
「すっごいヤバいもん想像しちまった……」
あまりの衝撃にすぐ側の木にもたれかかる。
うさ夫、バニー姿とか破壊力半端ない。大丈夫、俺はこの世界の神様を信じてる。神様もうさぎさんは肉食系じゃなく、草食系男子がお似合いだって思ってるはず。
まぁ、それは置いといて(というか極力考えない方向で)どうやら遥か昔は人間だけでそこから枝分かれして、他の種族ができたというのがこの世界の常識だそうだ。
更に種族の中でも細かく分かれる。精霊族で言うならエルフ、ダークエルフ、ドワーフにシルフなど。
ハーフエルフの俺は、精霊族の中のエルフに分類されるが、混血というものにも分けられる。これがまた特殊で、本来、他種族同士では子供ができないんだが、人間との間にだけ生まれるんだそうだ。それをハーフ又は混血というらしい。
そして彼らがまた違う種族と結婚すると、さらに種の混ざった子供が産まれ、最終的には何種類もの種族が混ざった子供ができるんだそうだ。
どうも、人間の血が、他種族を結びつけるという、特殊な働きをするらしい。
しかし、羽の生えたエルフの女の子とか天使じゃなかろうか。基本エルフは美形だから、かなり絵になるはず。
これから行く街にも、他種族同士の混血とかいるんだろうか。それより俺と同じハーフエルフはいるんだろうか。そしてやっぱり俺と同様に弱いのか。
なんだかすごく気になってきた。
早く街に着かないだろうか、誰でもいいから沢山の人達から話を聞きたい。俺が知っているのはイレーネの話だけで、それじゃ情報としては足りなすぎる。
信用していない訳じゃなくって、他の人の話も聞いて納得したいし、新しいことも色々知りたい。
焦りとも不安とも違う、何だろう期待感? 色んな感情が混ざってちょっと胸が苦しい感じだ。
俺は元の世界に帰れる方法を、見つけることが出来るんだろうか。
話を作るって楽しいけど難しいです。
稚拙な文章かと思いますが、頑張って書いていこうと思ってるのでお付き合いいただけたら嬉しいです。