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5剥き目・ニーナ

***ニーナ***


どうも、ニーナです。

ミッテル男爵家に仕えて早3年。

一族の集落を追われてからの年月でもあります。

路頭に迷う直前でなんとか手に入れたこの職場。しかし雇い主は好色の中年肥満タメラン。

それだけならまだしも圧政や賄賂を平然と行う悪魔のような領主です。


そこで私は認識阻害の術を自分にかけて生活してきました。

周りの仕事仲間が日に日にやつれていくのを見ていると恐ろしくてたまりませんでした。

私は黒兎人ですので、雇い主への陰口なんかも丸聞こえになってしまいます。

特に行為の陰口なんかは耳を塞ぎたくなるほどでした。


私は認識阻害で非常に影の薄い存在で、兎人であることもバレてなかったのですが・・・。


あれはちょうど1年ほど前でしょうか、タメランが突然連れてきた養子ユーリ様。

それはもう可愛らしいお方で使用人たちの癒しの元となっていました。


しかし事件は半年前、ユーリ様がいきなりペラペラと喋り始めたのです!

まだまだ舌足らずではありますが、意味のある言葉を話し会話をしていたのです。

前日まであーとかうーとかしか言わなかった赤ん坊がいきなりほぼ完璧な意思疎通をし始めたのですから、大騒ぎになりました。

その後タメランが狂ったように喜んで近しい貴族達に自慢の手紙を送りつけていましたね。


そんなユーリ様がいつの日からか私の方をチラチラ見てくるようになったのです。

私は気が気ではありませんでした。

ユーリ様の魔力の量からして正直私の認識阻害は通用しないだろうとは思っていたのです。

私はかなり常人に比べて魔力量は多いですが、ユーリ様はちょっとおかしいです。あんなのは反則です。ただ雇い主の養子である以上何も言えませんし、こんなに早く喋り始めるなんて誰が思うでしょうか・・・。


私は意を決してユーリ様に接触しました。

そうしてお世話の回数を重ねていたある日、遂にユーリ様が私の耳の話をしてきたのです!

やはり私の認識阻害は全く通用していませんでした。耳はかなり入念に隠していたのですが、見破られてしまったようです。少し自信を失いました。

私は今まで抑えてきた動揺を隠しきれずに、物凄い勢いでユーリ様に迫りました。


「ユーリ様!その事に今後触れるようなことがあれば私はこの屋敷を出ていきます!どうか!どうか二度と私の容姿について、口にしませぬよう!」


あまり主に対する口調とは言い難いですが、ユーリ様はただ「ぼくをおいていかないで」と泣きながら縋ってきました。

その時私の心に雷が落ちたのです!

ふわふわの漆黒の髪に同じ色の目。この辺りではかなり珍しい色合いですが、そんなことよりも可愛らしいそのお顔!この方のためなら喜んで死ねる!

そう思ったのです。


私が「どこにもいきませんよー」とユーリ様を抱きしめたその日の午後には、私はユーリ様の専属メイドにされていました。仕事早いです。流石です我が主!


専属でお世話をする様になってから、事あるごとに私の胸を意識されていますが、私はいつでもユーリ様のために御身差し出す所存ですよ!


失礼、熱くなりました。



そんなユーリ様は本日も何処かへ、と言っても魔力を辿ってしまえば簡単にわかってしまうのですが、今日もまた書庫にいらっしゃるようです。


「ちいしゃなからだににゃあわないガッちゅポーじゅをとるのだった!」


なんて可愛いことをしているのでしょう!

ただ少しお恥ずかしくもありますが、もっと見ていたくはあります。しかし私の存在を知らせなくてはいけませんね。口惜しや。


「誰に仰ってるのですか?」


嗚呼、赤面してうずくまる姿のなんと愛おしいことでしょう。


「ニーにゃ、いたならいってくだしゃいよ」


はい可愛すぎますね!頬が緩むのを必死に抑えます。


「勝手にいなくなったのはユーリ様でしょう?」


なんとか言うことができました。


とことこと寄ってきたユーリ様を思わず抱き上げてしまいます。

あらあら、やっぱり胸が大好きですね。

いつでも好きなだけ好きなようにしていいですからねー。



さてそろそろ食事の時間と思い書庫を出ようとしたら、ユーリ様が取って欲しい本があるそうです。


しかし・・・、


「ユーリ様、この本は共通語じゃないですけど大丈夫なんですか?なんか変な魔力まで出してるんですけど・・・」


「いいからいいから」


私の心配をよそにユーリ様は本を受け取って床に広げてしまいました。

物凄い速さでページをめくっているのですが、読んでいるのでしょうか?

私が覗いてみると、やっぱり外国の言葉ですね。それに昔見たことがありますよ。



「これはオーガリーですね。ユーリ様はいったいどこでこんなマイナー言語覚えたのですか?」


「さぁね~」


ユーリ様に流されてしまいました。

いえ流して差し上げたというのが正しいのですが、ホントにどこで覚えたのでしょう?

ずっと目次の様なページとにらめっこしています。


「あったあった」


おやユーリ様、何か見つけたようです。というか探していたということはやはり理解しているということですか。もしや毎日の書庫通いでオーガリーを覚えたと?ですがこの書庫にそれほどオーガリーで書かれた書物があったでしょうか?

いえ、こんなこと考えるのは詮無きこと。

ただユーリ様を賞賛したほうがよほど有益ですね!


でもそろそろ食事に向かわないとまずい時間なのですが・・・・えっ?

今ユーリ様は何をしたのでしょうか?本が消えましたね。

あ、また出てきた。ユーリ様の魔法でしょうか?あのオーガリーで書かれた本にそんな魔法が書かれていたのですか。

しかし無詠唱とは凄まじいです。それに結構簡単とか言わないでください。

私に自信がなくなってしまいます。


「ニーにゃごはん~」


あらあらまた胸にしがみつかれてしまいました。

しょうがありません。時間も時間ですし、疑問はまた後日ということで。


おっと、本が出しっぱなしになっていますね。

魔法入門書ですか。どうやら魔法を覚えていたようですね。

初歩の導入のページということは、属性を確認していたのでしょうか?いったいどんな属性を持っておられるのか気になります。


先ほどの魔法を見ると空間という御伽話に出てくる属性が思い浮かんでしまいますが・・・・・・ユーリ様ならありえますね。

普通なら天才といわれる子供でも5歳くらいが魔法を使い始める最低年齢というのに。

ユーリ様はきっとすごい方になるでのでしょう。

いつまでも仕えていけるよう私も精進しなくてはいけません。







食後、いつもならお休みになられるユーリ様が珍しく私を呼んだので、急いで駆けつけました。と言ってもドアの前で常に待機しているのですが。


「そこにたってー」


立つだけでいいのでしょうか?

きっと追々指示があるのでしょう。ならば物言わず従うまでです!

ユーリ様に見つめられています。この喜びをどう現したらいいのでしょう!


と、思ったらユーリ様、突然小躍りし始めました。

抱きしめたいくらい可愛らしいのですが、生憎立っていろと言われたままです。

これはもしや試練なのでしょうか?!

ユーリ様が私を試している?!いや、そんなはずはありませんね・・・。


あら?ユーリ様ご自分の掌を見つめたと思ったら、今度は人生に絶望したかのように地に手をつけてしまいました。

どうしたのでしょう?まだユーリ様は生まれて2年でしょうに、一体何がそれほど悲しかったのでしょうか?心配です。

いつもなら駆け寄って抱き上げて差し上げるのですが、生憎立っていろと言われたままです。


ユーリ様、早く私の胸にユーリ様を抱かせてください!


はぁ、いつまで立っていればいいのでしょう・・・

ユーリ様ぁ・・・

年齢差がありすぎ?

心配ありません!魔力が多ければ老けない感じでいきます!


12/3 修正

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