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20/24

20剥き目

こんばんは、ユーリだよ。

いつもより早く寝たせいか、真夜中に目が覚めてしまった。


両隣にニーナミーナが寝ている。

ラナさんは2つめのベッドを一人で使って快適そうに寝ていた。


ラナさんとミーナが来て3年か。

なんかあっという間だったな。

特に事件もなく、穏やかに平和に過ごしてきた。


3年前、彼女らを奴隷から解放した後、俺はギルドでモカマド商会の手紙を見せた。

俺は読んでないと言ったけど、まあ信じてもらえなかったよね。

そこまでは別に予想通りだったから良くはないけど、気にはしてなかった。


でもそれから1週間くらい経ってからだったか、いきなりギルドに呼び出しくらって、なんか30歳くらいの若い男と面会させられた。

その男、ジョー・モカマド、モカマド商会の会長様。

そこらの貴族なんかよりよっぽど権力を持っている絶対に敵にしちゃいけない男ダントツ1位。


そんな奴が俺に用とかマジで笑えなかった。

対人用笑顔が引きつっていたのが自分でもわかるくらいだったからな、相当だ。

ニーナが付き添いで一緒だったのが唯一の救い。


ジョー会長は俺に会うやいなや、挨拶と自己紹介を簡単に済ませてこう言ってきた。


「この度はとんだご迷惑をおかけしてしまったようで、申し訳ございません」


物腰は柔らかいが、どことなくヤクザもんの雰囲気を感じ取った俺は、即効でこの謝罪を否定した。


「いえいえ、別にそういったことは記憶にございませんが?」


「それはまたお広い心をお持ちのようで、ここは一つ事情を説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


この質問に俺は間違った答えを返してしまう。

そう、俺はイエスと言った。

いつかの救世主の名前だったらどんなに良かったか。


「まず、ハラブゥをご存知かと思われますが、彼は我が商会に無断である商いをしていたようでして・・・」


そこからのジョーは正に我商人という顔でペラペラペラペラ喋りだした。


要約すると、ハラブゥが無断で黒いことやったので我が商会も被害を被っとるんですと。

手紙のこととか色々言わんでもらえます?と、そういうことです。


「聞けばハラブゥの護衛までされたとか。これはほんの謝罪の気持ちですので、お収めください」


そう言って渡してきたのはもちろんジャラジャラ鳴る袋。

中を見たら金貨がいっぱい。

口封じってわけですね。

だが俺もここで引き下がるわけにはいかなかったのよ。

養う人増えちゃってるしね。


「先程も申し上げましたとおり、謝罪されるような覚えはこちらには全く無いので、それは受け取れません」


「いえ、ただの当方の気持ちですので、ここは一つ」


「ええですから、謝罪はいりません、と言ってるんですよ。ただそうですね、変なとこでポロっといらないこと口走ったりしないように、何か口に詰めるものでも買っておきたいですね」


モカマド程大きな商会にもなれば、少なくない恨みを買ってるだろうし、その中には権力を持った者もいるだろう。

そういう人に漏らしちゃうかもしれないよってことを示唆して、立場の逆転を図る。

このまま謝罪を受けると、相手が優位に立ったままこの場が終わってしまう。


それだけはまずい。


これは謝罪という名の脅し賄賂だ。

絶対強者から弱者への逆カツアゲみたいなもんだ。

だからそれは拒否して、逆にこっちが脅しをかける。


「ほぉ・・・と言いますと?」


ここでジョーの目の色変わった。

商品を品定めする目になった。

商人マジ怖い。


「いえ何とは決まってませんがね、思いつくものはどれも値が張りますから、手が出せないで困ってるんですよ」


「なるほどなるほど、ではこれで援助という形にさせていただきたいですね。是非受け取ってください」


もう一度金の入った袋を押し出してきた。


正直この賄賂をもらうことに、俺はなんの抵抗もない。

というか、ハラブゥが勝手にやったってのは十中八九嘘だろ。

そう簡単に商会の印が使えるとは思わないし、情報の価値をこの男が見誤ってるとも思えない。

口止め料の金額を見ればどれほど情報に価値をおいてるかよくわかる。


そんな男が、部下が例え勝手にやっててもそれを知らないということが変だ。

無論これは俺の勝手な憶測だが、モカマド商会は黒い商売もいくつか手を出してるんだろう。

それを俺が知ったところでどうするってこともないし、なんの感慨も受けないがな。

いつか言ったように悪が消えることなどないし、それでしか生きれない者は絶対にいるからだ。

前世の俺がそうだったように、肥溜めの中を泳いでいくような人生だってこの時代決して少なくないだろう。


だから俺は咎めないし、そっちも手出すなよ?って意味でのこの金である。

そして問題だったのはお互いの立ち位置。

あっちの謝罪で賄賂を受け取ってたら、客観的にはあっちが頭下げてるが、その実脅されるのはこっちだ。

なんの価値もない頭を下げてもあっちは痛くも痒くもないからなおタチが悪い。


まあそれは現状を見るに解決され、今は客観的にはこっちが頭下げてるように見えて、あちらに金を出させているからこっちの立場は上。

たかが気持ちの問題と思うかもしれないが、今後確実に避けて通れない関係なだけに、気持ち上の立場は意外と重要になってくる。


「おおそれは有難い。さすがはモカマド商会、気前がいいですね。今後とも贔屓にさせていただきます」


「それはそれは、こちらこそ。では、本日はこれにて」



これが当時の顛末。

結局俺は、少しとは言えない額の金と、大御所商会の後ろ盾を得た。

脅しておいて援助を受けた、という傍から見ればなんとも微妙な形に収まったが、俺はこれがベストでなくてもベターだったと思ってる。


あの時の俺の"商品価値"ってのはゼロに等しかった。

ジョー・モカマドという商人の目が俺に価値を見いだせなければあそこで詰んでいた可能性もあったのだ。


俺は自衛の力はあっても、周りの人間まで守れるか?と聞かれれば簡単に首を縦には振れない。

部屋に閉じ込めれば大抵のことからは干渉されないだろうが、それは守ってるとは言えないだろう。


なるべく俺自身の価値を高く見せるために利発的な口調で交渉し、脅しまでかけたのだ。

成功してくれなきゃ困るわ。


なにはともあれ、それから何度かジョー会長にも会ってるが、特に問題もなく関係を築けている。

最初の出会いからは考えられないほど親交も深まっていたりするんだこれが。

人生わからないものである。


交渉の結果が功を成したってことだろう。


なんか当時の俺を褒めてやりたい。

まだ見た目8歳のガキがなんとも上手いことやったもんだ。



うん、これだけどうでもいいことを考えても目が冴えたまんまだ。

酒でも飲めば眠れるかもしれないけど、年齢的にそうは問屋が下ろさない。

ニーナもラナさんもなんでか酒を飲まないんだよなぁ。

ミーナに飲ませるわけにもいかないし、俺は年齢的に駄目だと思われてる。


まあそんなことは置いといて、今この目が冴えてしまった状況をどうしようか・・・。


「・・・ぅん・・・・ユーリ・・・」


ミーナの寝言か。

夢で一体何を見ているのやら、幸せそうな寝顔だな。


「・・・ユーリ様ぁ・・・」


こっちはどんな夢かわかる気がする。

寝る直前まで聞いてた声と同じような声だしな。


ああなんか俺結構幸せなのかもしれない。

でもこんな時に両親を思い出してしまうのは不謹慎だろうか。

それとも未練たらしいんだろうか。


ラナさんとミーナを見てると微笑ましいのと同時に羨ましい。


・・・寝れなくてもベッドの中で一緒にいよう。

俺は意外と寂しかったようだ。

ニーナと繋がって完全に浮かれている。

遠足前の幼稚園児みたいな気分を、転生してまで味合うことになろうとは。



明日の食事はちょっと豪華にしようかな・・・。

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