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救われた世界で

英獣王の演説

作者: ぎょにく

シリーズとして書いてます。前作はこちら http://ncode.syosetu.com/n1201bc/

世界が救われて数日が経ち、大きな闘技場を持つこの街はいつにも増して活気づいていた。世界が暗雲に包まれていた時も、この街だけは魔王の脅威などお構い無しで盛り上がっていたが、今日の賑わいはそれとは一味も二味も違うものであった。


勇者に引き分けた男、王者・獣王が帰ってくる!


その知らせを聞いて、街中の人がすぐに闘技場での凱旋パーティの準備を始め、瞬く間に通路には出店が立ち並び、誰が呼んだか街の外からも多くの観客を寄せ集めた。街が誇る英雄の演説を聞くため、立ち見を含め満員となった観客席は、賑やかというより騒々しいと言うべき状況になっていた。


すぐ隣りの声さえまともに聞こえない状況であったが、マイクを通した咳払いの音が会場を駆け巡ると、一瞬全員が図ったように静かになった。観客は舞台にあがった主役の姿を見つけ、野次や罵声に似た歓声をあげる。傷跡だらけで隻腕の獣人は、低く落ち着いた声で歓声に反応した。


「あー、なんだ、元気そうで何よりだが少し静かにしてくれ。せっかく久々に帰ってきて言おうと思っていた言葉があるんだ。いくらなんでも英雄の言葉なんだから静かに聞けるよな?」


呆れたようになだめる言葉を聞いて観客は短い笑い声をあげ、一斉に静かになる。静寂を確認してから街と世界の英雄はマイクを使わず、全力の大声で叫んだ。


「ただいま戻ったぞ、バカ共!!!」


その馴染みある大きな言葉を受け取り、観客はミュートから一気に音量を上げたように歓声を送った。しばらくぶりの故郷に挨拶を終えた獣王は、「少し昔話をしよう」と前置きをして演説を始めた。東西の王国が本格的に戦争を始めた時もこの闘技場は我関せずでいたこと。魔王が現れ世界が混乱してもこの街は変わらずいたこと。そんな折に勇者がこの闘技場を訪れたこと、掻い摘んで順に話していった。話を聞きながら、ある観客は勇者が突然、獣王が闘っているコロシアムに乱入してきた時のことを思い出していた。


『あんたを勧誘しにきた。一緒に魔王を倒しにいくよ』

『なんだお前は』

『勇者!!』

『はぁ?バカは嫌いじゃねえが俺は雑魚は嫌いだ。俺に勝てたら仲間になってやる』

『私より弱いやつを仲間にする気はないんだ。私に勝てないようならこっちから願い下げだよ』


こんなやり取りを終え、二人の英雄は闘技場のルールで闘うことになった。それは紛れもなく歴史に残る熱戦であり、最後は互いに大技を放ちダブルノックダウンで引き分けとなったのだった。今でも胸が熱くなる思い出を回想していると、演説も終わりに差し掛かっていた。


「道中、強敵を倒すのに左腕を失くし、旅からの脱落を覚悟したがあのバカ勇者は当然のように笑って言いやがった。『片手だろうが私より強ければまた仲間にしてやるよ?』ってな。不思議なもんでな、情もへったくれもないこの激励が俺を強くしてくれた。強くなる目的ができた。まぁ俺は才能の塊だからな、すぐに力をつけて復帰して魔王と遊んできたってわけだ。」


観客の多くは獣王の利き手が左であるということも、それを克服するための努力が並大抵の物ではなかったということも理解をしていた。だからこそ全くの雑音を発することなく、獣王が続ける言葉を素直に聞き入れていた。


「そんなわけでだ。目的ってのは人を強くする。強さは手段だ、目的じゃない。強くなる目的は何でもいい、必ず見つけろ。強ければ、また東西で戦争があっても俺達が乗り込んで土下座しながら仲直りさせてやることもできるし、また魔王が現れたら俺達だけで倒しちまう事もできるだろう。世の中に無関心なんかつまらんだろうよ。くだらん目的を見つけて共に強くなろうぜ、バカ共」


そう締めくくった獣王がマイクを置くと観客は沸騰したように声をあげた。ガラが悪く、心地の良い歓声を受けて獣王はコロシアムへと飛び降りた。そして大声で全員が待ち望んだ言葉を放った。


「話はここまでだ!自信のある奴からかかってこい!稽古をつけてやる!!」


その日は暮れるまで一人で無敗記録を更新し続け、その後の宴会も盛り上がり、街の人間に希望と安心を与えたのだった。


読んで頂き有り難うございます。評価・感想いただければ幸いです。

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