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正しい力の使い方  作者: 桃源世界
序章 学内騒動
4/9

□4話 異質な強者

 この学園には、班ごとに《序列》が設けられているらしい。

 1つの学年の定員数は60名、そこからM班、K班、G班と分かれることになる。つまり、一班20名になるということだ。

 1位から20位までの序列が設けられ、上位毎に特典があるというのが、この学園の味とも言える部分だということを、俺は本日初めて知った。

 噂では、各班の1位には学園長との交渉権限があり、学園の方針についても決められる権限の1つを持つことが出来るらしい。


 当然、俺も序列を決める新入生試験という物に参加することが出来る。

 同班にいる、美咲に勝てる自信は雀の涙ほどにもないが、少しは期待したい。




 起床すると、携帯が目の前にあった。

 開きっぱなしだったせいか、充電は切れているようだ。


「(あ…そうか、昨日は寝ちまったのか…)」


 見れば、布団の上で携帯を開いていたはずなのに、いつのまにか布団がかけられている。きっと、清二の奴が気を遣ったのだろう。


「おう、おはよう修平!」


 当人は、既に着替えを済ませて椅子に座っていた。

 この学園に制服という概念は存在せず、各々が自分勝手に私服を身につけられる方式だ。

 清二の服は、英語のロゴが表示された白色の上着に、黒のジャケットを羽織っている。下着は灰色と白の中間のような色をした無地のズボンだ。


「早いな」

「まさか! 登校初日だからな、テンションが上がって早起きしただけさ」


 ボクサーのように拳を前に繰り出しては引き戻す動作をおこなう。

 その動きを見て思う、相当強い。俺の目から見れば、1回1回の動作に無駄がない。


 俺もベッドの上から降り、しわになった服を脱いで着替え始める。

 上着は無地の赤い長そで、そして白の長ズボンという至ってシンプルな格好だ。

 着替え終わった後、清二が俺を見た。


「じゃあ、食堂に向かうか」

「ああ、行こう」


 150キロあるという扉を2人で開け、部屋を後にする。


 食堂には昨日と同じ場所に美咲がいた、待っていてくれたのだろうか。


「よう、美咲」

「おっす、今泉!」

「あら、早いわね」


 適当に言葉を交わし、席に着いた。

 昨日と同じように他愛もない会話をする。


「2人とも聞いた? 今日って、序列を決めるって話よね」

「ああ、俺は美咲と競い合うとか無理そうだし勘弁だな」

「ンなこと言うなよ、修平、男魂を見せてやれ!」

「頑張りなさい、でも、勝ちを譲るつもりはないわよ」


 美咲の言葉を聞いて周りの空気に気付いた。

 不思議なことに、全員がピリピリしている気がする。

 気持ちは全員、同じってことか…。


「あ、そうだ!」


 突然、俺があげた声に美咲が反応した。


「どうしたのよ」

「美咲! お前、親父に言いやがっただろ、着信履歴が231件もきてたぞ!」

「あ……ごめん、忘れてた……」


 美咲が申し訳なさそうに謝って来る、自分の愚かさに気付いたのか珍しく頭を下げた。


「ははぁ、昨日絶叫してたのは、そういうことか、そんなに親父さんって怖いのかよ」

「そりゃ……なぁ…?」

「うん……ねぇ…」


 2人で勝手に納得する。

 外野の清二は何のことか分からなさそうに首を傾げているが、知らない方が良いこともある。


 朝食を終えた俺たち3人は、そのまま学園に向かった。

 エドウィン軍兵魔法科学専攻学園、広大な敷地を持つその学園には、大まかに分けて3つの建物が設置されている。

 1つは、基本的に授業として使用する教室、模擬戦闘場、体育館、実験室等が設置された建物、ここで3年間同じ仲間たちと机を共にすることになる。

 もう1つは、人工草原、人工山、人工森林などなど、人工的に造られた訓練をするための演習場とでも言う場所だが、相当広いというのが建物らしい。

 後1つは、俺たち1年生にはまだ知らされていない。何に使うか分からないが、これも噂では1番の醍醐味といえる場所、らしい。


 それはともかくとして、今日は初めての授業だ。

 手に汗握り、教室を目指す。


「おっと、オレはここまでか」


 清二が立ち止まる。

 M班とG班は当然だが、教室が違う。


「じゃあ、見当を祈るぜ! 2人とも!」


 軍隊気どりの敬礼をかまし、清二は俺たちと分かれた。

 美咲の方はというと、さっきのことを未だに気にしている。


「さっきはホントにごめんね! 修平……殺されないよね…?」

「たかが頭を掻きむしっただけなのに、あながち否定できない自分が怖い…」


 親父の畏怖ぶりは、子どもの頃からだ。

 俺たちの中では最上級のトラウマを与えた存在に違いない、ただ、味方である以上は最強最高の味方なのだが、敵に回ると、この世でもっとも恐ろしい。


「ま、まぁ…まずは試験だ。親父には…後で、超土下座でもしよう」


 悩みをふっ切り、教室に入る。

 俺たちを含めて、総勢20名しかいない教室に新入生同士の交流など微塵もない、あるのは敵視する視線だけ。

 動揺する俺を横目に、既に順応したのか、美咲は平然と席が割り振られている紙に目を通すと、無言でその場まで歩いて座った。

 俺も同じように、紙を見た。1番後ろらしい、席を目で確認する。


 俺の席の横──異質な気配をした人物が居座っていた。


 座席表を再確認する、そして俺の席の横の名前を見た。


 鬼武晃、その男の名前が書かれていた。

 真っ赤な赤髪、黒のタンクトップを着た異常な体格を持つ男。兄や清二ですら凌駕している筋肉、身長は180、いや、190はあるのではないだろうか。

 かなり気が引けたが、座らないわけにはいかない。


 席の前まで来る、俺に興味などなさそうに鬼武という男は前方の黒板を見据えていた。

 いや、違う。黒板など見据えていない、鬼武が見ているのは──。


「席に着けー!」


 思考を遮り、教師であろう人物が部屋の外から入って来る。

 俺も席に座ると、一通り、教師の話を聞いた。


 これから始まる新入生試験の内容についてだった。

 教師が言うに、入学試験の成績を考慮した後、今回行われる新入生試験にて序列を決めると言う話だ、その試験の詳細について、教師が話す。


「新入生試験、今回の内容は、俺と戦うことだ。なに、どっち道、お前等に負ける俺じゃない、お前等の能力を順当に見定めて採点しよう。武器は何でも良い、何なら、銃でも持って数撃ちゃ当たるかもしれないぞ、ははっ!」


 高笑いする教師、調子に乗りすぎている気がするが、負ける気はないのだろう。

 見る限り、現役の軍人か何かではないのだろうか、まず、勝てる相手ではない。


「よし、では早速だが始めよう。場所はこの教室の横にある模擬戦闘場だ、呼ばれた奴から順に来い、まずは……1番、今泉美咲!」

「はい!」


 美咲が席を立つ、そして、そのまま教師に付いて行った。

 教室がざわめき始める、互いに敵視はしているものの、仲の良い連中も当然いる。各々が勝手な推測や意見を出し合っていた。


 あんな体格してる奴に勝てっていうのかよ…


 無理だろ、今行ったの女の子だろ、大丈夫なのかよ


 まさか、殺されないよな…?


 ざわめき始める教室、確かに強そうだが、過剰すぎだな。

 あの軍人も確かに強そうだったが、親父や、俺の横にいる鬼武ほどに異質な気配は放っていない、美咲にも充分勝てるチャンスはあるだろう。


 5分後、美咲が戻って来る。

 そのまま自分の席には戻らず、俺の席までやって来た。


「どうだった?」

「バッチリよ、何とか勝てたわ」

「…マジか」

「うん、さっきの挨拶もムカついたし…剣でねじ伏せてやったわ」


 大番狂わせだ、手加減でもされたのだろうか。

 いや、あのプライドの高そうな教師に限ってそれはないだろう、兄貴に指導を受けた賜物と、その体内に秘められた限りない運動能力が物を言ったのか。


 事実、その次に呼ばれた、尾崎という男子は1分も立たずに死にそうな顔で帰って来た。


「次ぃ! 鬼武晃!」


 美咲に負けたことがショックなのか、声を荒げて生徒の名前を呼ぶ教師。

 無言でスッと立ち、鬼武は教室を後にした。


「美咲、試験場の中って教師と2人きりなのか?」

「いや、審判がいたわ。一応、公正な試合判断ってのが、あるようだし」

「なるほど、それは良かった。あんな教師と2人きりになんかなりたかない」

「同感ね」


 呆れたように溜め息をついて、自分の試験が終わったことに安堵する美咲。

 そのまま席に戻り、美咲は自分の所定位置に座った。

 俺も、そろそろ呼ばれるだろう。






 しかし、いつまでたっても俺の名前は呼ばれなかった。

 10分、あるいは20分は経っただろうか、暇をしていると、鬼武が戻って来た。見るからに無傷だ、鬼武は無言のまま、席に座る。

 そして、次の瞬間、20分ほど戻ってこなかった理由、扉の向こうから聞こえる声で、そのことは明らかになる。






 来たか、担架! こっちだぁぁぁァァァ!

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