出産祝い
――秋――
双子を産んだ私のもとに、修司さんから電話があった。修司さんというのは、私が名古屋の方に家出をしたときにお世話になったお好み焼き屋さんのご主人。
「未来ちゃん、ちょっとは子育てに慣れた?」
「ありがとうございます。相変わらずバタバタですよ。泣くときは一緒だし、お風呂も父に入れてもらって、母と私で服を着せて……家族みんな巻き込んじゃってます」
性別の違う双子だから、一卵性双生児では絶対にないはずだけど、それだからこそ余計競い合うのかもしれない。一人が泣きだすと必ずもう一人も泣きだす。
「そうか、大変だね」
「ええ、ホントに。だから加奈子さんには本当に感謝してます。あの時、加奈子さんが連絡してくれなかったら…私ひとりではどんなに頑張っても二人は育てられなかったと思います。父も母もすごくかわいがってくれますし」
この子たちの父親は私の妹の彼。その名は口が裂けても言えない名だった。だから、それを知られることを怖れて妊娠が分っても帰らないと言いきった私に、修司さんの奥さん、加奈子さんは私の両親に連絡し、父親の事を一切聞かないでやってほしいと、懸命に取りなしてくれたのだ。
「そりゃ、父親にとって、娘の子どもは無条件にかわいいもんさ。案外さ、どこの馬の骨とも解かんない男に娘掻っ攫われるより、お父さんにはよかったりしてな」
「そうみたいですね。父を見てると本当にそう思います」
パパ、ホントに孫の育児休暇を申請しかねない勢いだもの。私はクスッと笑って修司さんにそう返した。
「ところでさ、加奈子が双子ちゃんを見たがってるんだ。行かせても良いかな」
「もちろんです! 遠いですけど、是非来てください」
私も加奈子さんには子どもたちを見せたいと思っていたけど、お店があるので来てくださいとは言えなかったのだ。
「あいつの実家は横浜市内だからね。実家に帰ることを思えばそんなに遠い距離だとは思わないよ。ただね……」
「ただ……何ですか?」
「最近、あいつ変なんだよ。急に訳もなくどなり散らしてみたり、放っとくとずーっとぼーっとしてたり。ま、陸の受験があるから、ぴりぴりしてるのもあるとは思うんだけどさ、そろそろ更年期とかもあるしな。で、ちょっと息抜いてやれれば良いかなって思ってさ」
「こちらは大歓迎です。お待ちしてます。でも、更年期だなんてまだ加奈子さん若いのに、修司さんひどいですよ」
「あいつももう47だぜ。きたっておかしかないよ。じゃぁ、段取り付けてまた連絡させてもらうわ」
修司さんはそう言って電話を切った。私は電話を切った後も、あのパワフルで明るい加奈子さんと“更年期”というワードはしっくりこないなと思っていた。