婚約者が妹のようなものと言いながら他の女性を優先するので、本当に妹のような存在を思い出させてあげた話
「彼女は妹のようなものだ」
私より愛人を優先する婚約者はそう言う。
「妹より、婚約者を優先するものでしょう」
「心が冷たいから、そんなことを言えるんだ! 赤の他人の婚約者より家族を優先して何が悪い!」
「妹のようなものの彼女は、完全に赤の他人よ!」
「彼女は家族なんだ! お前とは違う!」
「家族になる私ではなく、赤の他人を家族扱いするっていうの?!」
「彼女は妹のようなものだ。赤の他人の婚約者とは違う!」
「・・・」
駄目だ。この人。何言っても、愛人のことしか考えていない。
私は絶望した。こんな浮気クズ男と婚約していることに。
でも、それは政略結婚だからしょうがない。
しょうがないのだが・・・――このクズ男の浮気はもう噂になっている。
我が家もあちらの家も面白おかしく言われ始めるのは、時間の問題だ。
これは何とかしないと。
私は婚約者としての最後の義務を果たすことにした。
◇◆◇
「ご予約は入っておりますが、既にお席に案内されております」
浮気男は妹のようなものと一緒に、予約していたカフェを訪れてこう言われた。
「はあ? 俺は来たばかりだぞ」
「〇〇(家の名誉の為伏字)様は既にいらっしゃっております」
「予約したのは俺だぞ」
「予約された従者の方もおられましたが?」
予約は大概、本人ではなく、従者がおこなう。
浮気男の顔を見知っていても、予約した従者がいれば、〇〇家の別の人物が予約したと思うものである。
「なんだと?!」
「お客様、お待ちください。お客様」
浮気男は妹のようなものを腕にぶら下げて、強引に店の中に入ろうとした。
「お兄様」「兄様」「お兄ちゃん・・・」「兄貴」「「「「ようやく来た(な)」」」」
そこには浮気男がよく知った四人の少女たちが席で待っていた。
「なっ! なんで、お前たちがここにいるんだ?! この席は俺が予約したんだぞ!」
「「叔母さまから、好きに使ってもいいって言われ(まし)たわ」」
上品な洋服に身を包んだそっくりな二人の少女――ドロレスとミーファの声がハモった。
浮気男を止めようとしていた店員はドヤ顔をした。〇〇家が予約した席を〇〇家の誰が使おうが、店員は先に来たほうを通すだけだ。
ボーイッシュな少女――シドニーが、唖然となった浮気男に言う。
「元々、妹のようなものと来るつもりだったんだろ。僕たちが来てやったんだから、間違いないじゃないか」
「妹と言っても、お前らのことじゃない! 連れてくるはずだったのは、シルヴィアだ」
最後のぼんやりとした少女――ソラが言う。
「従姉妹・・・(従姉妹以外に妹のようなものがいるとでも)?」
ド&ミ:「「――は妹のような存在第一号です(わ)」」
言葉足らずな台詞を補完する合いの手は、そっくりな双子の少女たち。
シ:「つまり、僕たちこそが主賓というわけだ」
ド&ミ:「「偽物さんではなくて」」
ソ:「・・・(良きにはからえ)」
浮気男:「違うと言っているだろ!」
浮気男は怒るが、従姉妹たちはフリーダムだ。
ソ:「ん・・・(ここのケーキおいしい)」
ド&ミ:「「限定品なだけある(わ)」」
浮気男:「お、おい! それは俺が予約していた限定品のケーキじゃ・・・」
シ:「予約してた分は食べ終わったから、おかわりしていたんだよ。ホント、美味しいね」
ソ:「・・・(おかわりして正解)」
ド&ミ:「「もう一個食べちゃだめ(ですの)?」」
浮気男が予約した分どころか、おかわりまでしていた従姉妹たち。妹とはそういうものだ。
兄の大切にしていたお菓子を勝手に食べる。それが妹クオリティ。
「大変、申し訳ございません。限定のケーキは完売いたしました」
神妙な表情で終了を告げる店員。
「わたしのケーキがぁ~」
ここまで、浮気男の後ろに隠れて黙っていたシルヴィアが、終了を告げられて泣き出した。
浮気男:「可哀そうに、シルヴィア。・・・――おい、ケーキを寄こせ!」
シ:「は? 何、言ってんの? 僕たちに買ってきてくれなかったくせに、どうして、兄貴の愛人に上げなきゃなんないの?」
ソ:「ん・・・(右に同じく)」
ド&ミ:「「酷いです(わ)、酷いです(わ)~! (お)兄様にとって、ドレ(ミファ)たちが一番、妹のような存在なのに、ここのケーキを食べさせてもらえないなんて、酷いです(わ)~!」」
浮気男:「そのケーキは俺がシルヴィアの為に予約していたケーキなんだぞ!」
ソ:「・・・(予約していただけじゃん)」
ド:「お金はドレが払いますの」
ミ:「ミファが払いますの。だから」
ド&ミ:「「(お)兄様には迷惑をかけませんの」」
従姉妹たちの言い分を聞いていないのか、シルヴィアは嘆く。
「酷いわ、酷いわ~。わたしのケーキを食べておいて、酷いわ~」
「すぐに食べさせてやるからな、シルヴィア」
シルヴィアを宥める浮気男。
そんな二人に近付くソラ。
「・・・(ほら)」
フォークに刺した一口大のケーキをシルヴィアに差し出すが、シルヴィアは払い除けた。
「こんな食べかけ、いらないわ!」
ソ:「あ”・・・。――(・・・)いい加減にしろや、このカマトト女!(・・・)ガキみたいに泣くのは本当のガキか、人を動かすために態と泣くカマトト女しかいねーんだよ!(・・・)妹みたいなもんだ?(・・・)妹分の従姉妹に優しくできない男が優しくする女なんて、愛人以外ねーだろ、クソが!!」
※カマトト・・・知っているのに知らない素振りをして、可愛く見せること。
ソラの言葉にショックを受ける浮気男とシルヴィア。
「「・・・!」」
ソラの本音を聞いても、他の三人の少女たちの表情は変わらない。
ド&ミ:「「本音が声に出ています(わ)、ソラ」」
ソ:「あ・・・?(声に出てた?)」
ド&ミ:「「出ていました(わ)」」
シ:「どんまい、ソラ」
ソ:「ああ・・・(なんてこった)」
それどころか、ソラを慰めている。
ショックから立ち直った浮気男は反射的にソラを攻め立てた。
浮気男:「なんて、口の悪さだ! それでも女か?!」
シ:「口の悪さに男も女もないよ」
落ち込んでいるソラの代わりにシドニーが言い返す。
浮気男:「何だと!」
シ:「兄貴は横暴。妹のような幼児性の高い我が儘な愛人。そっちこそ、兄と妹の定義を侮辱しているから、妹のようななんて形容するのをやめてくれるかな。ロリコン男」
浮気男:「誰がロリコンだ! 誰が!」
シ:「お茶会に出る歳を過ぎてもすぐ泣く女が好きだなんて、ロリコンじゃないか。10歳の子どもだって、すぐには泣かないよ」
ド&ミ:「「人前で泣くなんて、子どもじゃあるまいし、淑女じゃなくてもしないわ(よ)」」
ソ:「・・・(ロリババア)」
ド&ミ:「「お茶会で泣こうものなら、ほとぼりが冷めるまで招待されなくなるもの(ね)」」
ド:「淑女は泣かない」
ミ:「淑女じゃない女性だって泣かない」
シ:「泣くのは、カマトト女か、身体だけ大人になった幼児だけ」
ド&ミ:「「ねー」」
ソ:「・・・(ねー)」
シ:「そして、騙される馬鹿な男はクズかロリコンだけ」
ソ:「ロリコンお兄ちゃん」
ド&ミ:「「ロリコン(お)兄様」」
シ:「ロリコン兄貴。クズじゃないならロリコン。ロリコンじゃないならクズ。さあ、どちらを名乗る?」
浮気男:「――」
浮気男は何かを言おうとして、意識がなくなった。ソラの父親の部下に殴られて意識を失ったのだ。
ド&ミ:「「これで、叔母さまも安心 (ね)」」
シ:「これで、伯父上も安堵されるよ」
ソ:「・・・(これで、本当に良かったのか?)」
◇◇◆
婚約者はあのまま従者に家に連行され、父親に店の下働きからやり直させられている。
勿論、信用が第一の商家なので、家の名誉が傷付く前に従姉妹たちに連絡をとった私は無事に婚約解消。ついでに慰謝料ももらって自由の身となった。
だから、これから後は知らないこと。
「お嬢。お嬢の好意を無碍にしたアマは、最下級の娼館に売り払ってきましたぜ」
「・・・(下働きでも愛人に会えるようにしてあげたよ、お兄ちゃん)」
浮気男、浮気男の婚約者・・・商家。政略結婚する間柄。
浮気男の従姉妹1 シドニー・・・僕っ子。父親が役者で同じ道を目指している。母親が浮気男の叔母で押しかけ女房。
浮気男の従姉妹2&3 ドロレス、ミーファ・・・男爵家か母方の伯父が貴族の家の上流階級の娘。
浮気男の従姉妹4 ソラ・・・ぼんやりしている子。実は裏社会の実力者の娘。母親が浮気男の叔母で押しかけ女房。




