ある聖女の一生
ある聖女の一生はあまりにも静謐だった。
朝に起きて祈りを捧げる。
その後、教会の周りにある墓を丁寧に磨きあげる。
そして、夜がくれば眠りにつく。
翌日になればまた起きて祈りを捧げ――。
その繰り返しなのだ。
要するに墓を磨いているだけ。
とはいえ、教会の周りにある墓石の数はとてつもなく多い。
故に丁寧に作業をすればするほどこのような暮らしになるのは必然であった。
時折、来客がある。
大体の人は地図に載っている村を探してくるのだが、この場所にあるのは村ではなく教会だけだ。
いや、正確には村はかつて確かに存在していたのだ。
「名残がありますよね。皆さまのお墓に」
最後の住人である聖女はぽつりと告げる。
なるほど。
言われてみれば墓標に使われているのは民家の一部。
「とても賑やかだったのですよ。こちらは」
そう寂しそうに告げる聖女に、大抵の客人は次のように問う。
『この場所で何があったのですか』
すると聖女は顔色を変えず、一定のリズムのままに。
「私が死んだんです。呪いに侵されて」
しかし、聖女は生きている。
当然のようにそう問うと彼女は真実を吐いた。
吐き捨てるように。
「呪いを解くには人間の命が必要でした。大量に。人々は私を救うため――」
聖女の顔から涙が落ちる。
全てを映すような透き通った雫だった。
「皆の命を犠牲にして生きていたい人など居るのでしょうか」
聖女は今日も朝から晩まで墓の手入れを続けている。
懺悔のように。
まるで自らの受ける罰のように。
お読みいただきありがとうございました。
強要された善意の行き先など気にせずに生きるべきなのでしょうか。




