第4話「影の正体」
静けさは、ときに優しさではなく――
嵐の前触れであることがある。
気づかないまま過ごせば、それは日常。
だが、一度“違和感”に触れた瞬間、
世界は姿を変える。
見えなかったものが見え始める。
そして――
逃げ場は、もうない。
島の路地。
石畳の道に、静寂が広がる。
レオンの声が、低く響いた。
「……出てこい」
返事はない。
だが、確かに“何か”がいる。
レニの黒い炎が、わずかに揺らめく。
「……隠れる気はないらしいな」
次の瞬間。
影が、歪む。
地面に落ちていた影が、
ゆっくりと立ち上がった。
人の形をしている。
だが――
顔がない。
ただ黒い輪郭だけが、そこに存在していた。
ヴィニーが小さく声を上げる。
「……なに、あれ……」
ケルがすぐに彼女を庇う。
「下がって!」
ナンドは一歩前に出る。
拳を握る音が響く。
「やっとか……」
影は、ゆっくりと首を傾ける。
まるでこちらを観察しているかのように。
そして――
消えた。
次の瞬間。
ナンドの背後に現れる。
「遅ぇ!」
ナンドは振り向きざまに拳を叩き込む。
衝撃。
しかし――
手応えがない。
「……すり抜けた?」
影は揺らぎ、再び距離を取る。
レオンが剣を構える。
青い光が刃に宿る。
「実体が不安定か……」
ララが光を集める。
淡い黄金の粒子が空中に広がる。
「なら、動きを止める!」
光の束が放たれる。
影に命中――
一瞬、形が固定される。
「今だ!」
レオンが踏み込む。
風と雷をまとい、一気に間合いを詰める。
斬撃。
影が裂ける。
だが――
裂けた部分から、
さらに“影”が増殖する。
「……増えた!?」
レニの目が鋭くなる。
「こいつ……ただの存在じゃない」
黒い炎が彼の腕を包む。
「感情だ」
全員が一瞬、彼を見る。
「恐怖、後悔、罪……そういうものに反応してる」
影たちが、一斉に揺れる。
まるで――
その言葉に反応するかのように。
レオンの瞳が揺れる。
一瞬だけ、過去の戦いの光景が脳裏をよぎる。
その瞬間。
一体の影が、急激に膨れ上がる。
「レオン!」
ララの声。
影が襲いかかる。
しかし――
その前に、黒い炎が割り込む。
レニ。
「……触るな」
低い声。
黒炎が影を焼き払う。
今度は、消えた。
完全に。
残されたのは、静寂。
誰も、すぐには動けなかった。
ナンドが息を吐く。
「なんだよ……今のは」
ララは不安そうに呟く。
「この島……普通じゃない」
レオンは剣を下ろさない。
「……ああ」
そして、小さく続ける。
「ここは、“休む場所”じゃないのかもしれない」
遠くで、また風鈴が鳴る。
チリン――
今度は、確かに風が吹いていた。
だが。
誰も、その音を安心とは思えなかった。
第4話を読んでいただき、ありがとうございます。
ついに“影”の正体の一端が明らかになりました。
この存在は単なる敵ではなく、
それぞれの内面に関係する重要な要素となっていきます。
瀬戸内という穏やかな舞台の中で、
心の闇とどう向き合うのか――
それが、今後の大きなテーマになります。
次回は、それぞれの“影”がさらに深く関わっていきます。
引き続き、よろしくお願いします。




