第38話:虚空の対話――断絶された神話
舞台は数億年の過去、まだ形を成さず、空虚であった黎明期の地球。混沌が渦巻くこの地で、二人の守護者が交わした言葉が、宇宙の運命を決定づけました。信頼、疑惑、そして裏切り。なぜクラトスは主を捨て、なぜカイロスは最恐の支配者となったのか。天界の第一子(長子)の悲しみと共に、封印の真実が明かされます。
静寂が支配する、原始の地球。大地は形を成さず、ただ暗濁とした霧が地表を覆っていた。
そこには、銀河中の堕天使を狩り終えたクラトスと、まだ反逆の牙を剥く前のカイロスが立っていた。
「……なぜ、これほどの絶望を強いるのだ、クラトス」
カイロスが静かに問う。その背後にある五本の尾は、まだ禍々しい色を帯びる前の、神聖な輝きを放っていた。
「私はもう限界だ、カイロス。兄弟たちを次々と深淵の檻へ放り込むこの使命に、私の魂は摩耗した。なぜ父(創造主)は何も仰らぬ? なぜこの沈黙を貫くのだ!」
クラトスの咆哮が、形なき大気を震わせる。カイロスは悲しげな瞳で、かつての戦友を見つめた。
「私にも分からぬ。創造主は私にすら一言も発せられない。霊的領域と物質界が衝突し、天使たちは混乱の中にいる。……だが、不穏な噂がある。主は我らを見捨て、新たな『被造物』を創ろうとしているのだと」
「新しい被造物……?」
「ああ。力も持たず、羽も持たぬ、脆き生き物だ。その無力な者たちが捧げる賛美の声を、主は何世代にも渡って聴き続けるつもりらしい。この荒廃した地球こそが、その揺りかごになるというのだ」
クラトスの瞳に、深い絶望と怒りが宿った。
「ならば……私は兄弟たちを敵に回し、血を流して戦わされた挙げ句、用済みとして捨てられるというのか!」
「クラトスよ、私にその『封印の鍵』を預けろ。兄弟たちを閉じ込めたあの印を私に渡せば、私が父と交渉し、解決の道を探ろう」
クラトスは迷った末、その拳を開いた。手のひらから古の神聖な文字が回転しながら浮かび上がり、まばゆい光を放つ**『堕天の刻印』**がカイロスへと手渡された。
それを受け取ると、カイロスは影の中に溶け込むように姿を消した。
直後、眩い光と共に、一人の存在がその場に降り立った。
第一子。創造主の意志を最も色濃く継ぐ者。
「クラトス……なぜ、あの刻印をカイロスに渡したのですか」
その声には、深い慈愛と哀しみが混じっていた。
「カイロスは父の真意を理解していません。彼は主が我らを見捨てたと思い込み、あなたが捕らえた全ての兄弟たちを解放し、軍勢を率いるつもりです。……父は決して、あなたたちを捨ててなどいないというのに」
「嘘だッ!」
クラトスは第一子の言葉を遮り、武器を構えた。
「我らを戦わせ、消耗させ、最後には力なき種族に取って代わらせる。それが主の計画だろう! 私はもう、あんたたちの操り人形にはならない!」
逆上したクラトスが第一子へ襲いかかった。しかし、第一子から放たれた柔らかな光が、クラトスの身体を縛り上げる。
「愚かなことを……!」
空間が割れ、第一子の両脇に大天使ミカエルとガブリエルが降臨した。
「主を攻撃するとは何事か! クラトス、貴様の反逆には慈悲の余地はない!」
ミカエルが裁きの雷を振り下ろす。クラトスは苦悶の叫びを上げ、そのまま底なしのアビス(深淵)へと叩き落とされていった。
第一子の瞳からは、一筋の涙が零れ落ちる。
「主よ……カイロスが宇宙全土に恐怖の波動を広げようとしています。もはや、我らにできることはないのでしょうか」
ミカエルたちの問いに、第一子はただ静かに首を振った。
「……彼ら自身の選んだ道です。自由意志という名の毒が、銀河を焼き尽くすまで……見守るしかありません」
数世紀が流れた。
カイロスは解放された堕天使たちを力で屈服させ、全宇宙を恐怖で統治した。しかし、支配者の座は長くは続かない。皮肉にも、カイロスが救ったはずの堕天使たちが、彼の強すぎる力に恐怖し、団結して彼を裏切ったのだ。
熾烈な戦いの末、カイロスは辺境の惑星クリザードに立つ巨大な聖石の中に封印された。
――そして現代。瀬戸内の空の下。
「……皮肉なものだな。あの時、私を封印した兄弟たちの末路を、今の貴様が辿っているとは」
カイロス(レオン)はクラトスを指差し、冷酷に笑った。
二人の過去が重なり、宿命の歯車が再び噛み合う。
第38話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついにクラトスとカイロスの「堕天」の真相が明かされました。第一子の慈愛すら届かないほど、二人の抱えた孤独と疑念は深かったのです。
カイロスが「自由意志の欠陥」と呼んだものの正体、そしてクラトスが主を呪う理由……。
歴史は繰り返され、今再び、瀬戸内の地で神々が激突します。
次回、第39話。
「クラトスの覚醒」と、ポセイドンたちが仕掛けた罠がカイロスを襲う!
物語の核心に触れたい方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価やブックマークをお願いします!皆様の感想が力になります。
次回「神屠りの真髄」――お楽しみに!




