第3話「潮風と違和感」
人は、平和の中にいるときほど――
小さな違和感に気づきにくい。
それは風の揺れかもしれない。
波の音のズレかもしれない。
あるいは――
心の奥に生まれる、説明できない不安。
瀬戸内の海は今日も穏やかだ。
だが、その静けさの奥で、
確かに“何か”が動き始めている。
昼過ぎ。
太陽は高く、海は青く輝いていた。
レオンたちは、小さなフェリーに乗り、
別の島へと向かっていた。
船のエンジン音が低く響き、
潮風が心地よく頬を撫でる。
ララは手すりにもたれながら、海を見つめていた。
「島って、こんなにたくさんあるんだね……」
その視線の先には、
大小さまざまな島々が点在している。
まるで海に浮かぶ宝石のようだった。
ナンドは船の端に立ち、海を覗き込む。
「この下にも……何かいそうだな」
ヴィニーが目を輝かせる。
「魚かな!?」
ナンドは少しだけ笑う。
「いや……もっとデカい何かだ」
ケルが呆れたようにため息をつく。
「子どもを怖がらせないで」
一方、レニは船の後方に立ち、
遠ざかる島を見ていた。
その目は、どこか落ち着かない。
「……静かすぎる」
彼の呟きは、波の音にかき消される。
レオンが隣に立つ。
「どうした?」
レニは少し間を置いて答える。
「……分からない。ただ、嫌な感じがする」
レオンは海を見つめる。
風は穏やか。
空も澄んでいる。
だが――
「……俺もだ」
その時。
船のスピーカーからアナウンスが流れる。
「まもなく、次の島に到着します」
視界の先に、小さな港が見えてきた。
古い木造の建物。
石の階段。
ゆっくりと流れる時間。
島に降り立つと、
どこか懐かしい空気が漂っていた。
細い路地。
坂道。
古い家々。
そして、風鈴の音。
ララが足を止める。
「……なんだろう、この感じ」
ヴィニーは元気に走り回る。
「すごーい!迷路みたい!」
ナンドは辺りを見渡す。
「戦場じゃねぇのに……妙に気が抜けねぇな」
その時。
チリン――
風鈴が鳴る。
しかし。
風は吹いていなかった。
レニの目が鋭くなる。
「……今の、見たか?」
レオンも頷く。
違和感。
小さなズレ。
それが、確かに存在している。
その瞬間。
路地の奥。
誰もいないはずの場所に、
一瞬だけ“影”が揺れた。
ララが振り向く。
「……誰かいる?」
返事はない。
だが。
確かに、視線を感じる。
空気が、わずかに重くなる。
レオンはゆっくりと前に出る。
「……出てこい」
沈黙。
そして――
影が、動いた。
第3話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は瀬戸内の島と、その独特な空気感を中心に描きました。
穏やかな景色の中に潜む違和感。
それはやがて、大きな出来事へと繋がっていきます。
次回は、いよいよ“影”の正体が明らかになります。
そして、彼らの「休息」は本当に守られるのか――。
引き続き、お楽しみください。




