第二十六話『海に沈む影』
失うことは、終わりではない。
だが――
それは人を試す。
立ち上がるのか。
それとも、その場で崩れるのか。
海は静かだった。
まるで、何も起きていないかのように。
朱色の大鳥居が、水の上に浮かんでいる。
神の領域。
だが――
その空気は重かった。
レオンたちは立っていた。
誰も話さない。
ナンドが拳を握る。
「……くそ」
低く吐き捨てる。
「連れて行かれた……」
ララは海を見つめていた。
目は揺れている。
「ジラ……」
その名前が、静かに落ちる。
レオンは何も言わない。
ただ前を見ている。
だが――
その拳は震えていた。
沈黙。
波の音だけが響く。
その時。
ララが言う。
「……ここ」
ゆっくりと振り返る。
「普通じゃない」
ナンドが顔を上げる。
「どういう意味だ?」
ララは鳥居を見る。
「本来は“境界”の場所」
風が吹く。
「でも今は――」
空気が歪む。
「開いてる」
その瞬間。
水面が揺れる。
波が不自然に広がる。
レオンが一歩前に出る。
「来るぞ」
次の瞬間――
黒い影。
水の中から無数に現れる。
人の形。
だが歪んでいる。
目がない。
声もない。
ただ――
こちらを見ている。
ナンドが構える。
「またかよ……!」
ララが叫ぶ。
「違う!」
緊張。
「これは……操られてるんじゃない」
沈黙。
「引きずり込まれてる」
影たちが一斉に動く。
襲いかかる。
戦闘開始。
ナンドが突っ込む。
拳。
一撃。
影が砕ける。
だが――
再生する。
「チッ!」
レオンが剣を抜く。
光。
一閃。
影を切り裂く。
だが同じ。
戻る。
ララが叫ぶ。
「倒せない!」
その時――
声。
水の奥から。
『……遅い』
全員が止まる。
空気が凍る。
『もう始まっている』
低い声。
重い。
『この地は我らのもの』
水が盛り上がる。
巨大な影。
形を成す。
王のような存在。
だが――完全ではない。
未完成。
ララが震える。
「……ポセイドン」
沈黙。
『器は手に入れた』
笑う。
『もうすぐ完成する』
レオンが前に出る。
「返せ」
静かに。
だが強い。
影が笑う。
『無理だ』
水が荒れる。
『彼らはもう――』
一瞬の沈黙。
『戻らない』
ナンドが怒鳴る。
「ふざけんな!!」
突っ込む。
だが――
レオンが止める。
「待て」
真剣な目。
「今は無理だ」
沈黙。
影が崩れる。
水へ戻る。
影たちも消える。
静寂。
再び。
波の音だけ。
ララが呟く。
「……時間がない」
ナンドが歯を食いしばる。
「どうすんだよ……」
レオンが空を見る。
目は決まっている。
「助ける」
短く。
「絶対に」
沈黙。
その言葉には迷いがなかった。
そして――
戦いは次の段階へ進む。
第二十六話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は“喪失の直後”と“新たな敵の確定”を描きました。
ポセイドンが完全に動き出し、
ジラとレニは敵側へ。
しかし、まだ完全ではありません。
つまり――
救える可能性は残っています。




