セトウチに灯る光 第2話「島に流れる時間」
戦いの中では、時間はただ過ぎ去るものだった。
立ち止まることも、振り返ることも許されない。
だが――
もし時間が、ゆっくり流れる場所があるとしたら。
そこでは、人は何を思い、何を感じるのだろうか。
瀬戸内の海は、何も語らない。
ただ静かに、訪れる者の心を映すだけ。
朝。
瀬戸内の海は、やわらかな光に包まれていた。
静かな波が岸を撫で、小さな港町がゆっくりと目を覚ます。
漁船が一隻、また一隻と海へ出ていく。
遠くには、島と島を繋ぐ大きな橋――
まるで空の上を走る道のように、海の上に伸びていた。
ララは、その景色を見て目を輝かせる。
「……きれい」
レオンは何も言わず、その光景を見つめていた。
戦場では決して見ることのなかった、
穏やかな日常。
ナンドは腕を組みながら、港を見渡す。
「人間ってのは……こんな場所で生きてるのか」
その時。
屋台から香ばしい匂いが漂ってくる。
焼き魚の香り。
ヴィニーがすぐに反応する。
「お腹すいた!」
ケルが苦笑する。
「ふふ……さっきまで戦ってたのにね」
ララが笑いながら振り返る。
「こういう時間、大事だよ」
レニは少し離れた場所で、海を見ていた。
波の音だけが、彼の周りを満たしている。
ケルがゆっくりと近づく。
「……まだ、自分を責めてるの?」
レニは答えない。
ただ、拳を握る。
「……俺は、守れなかった」
ケルは静かに首を振る。
「それでも、あなたは戻ってきた」
短い沈黙。
波の音だけが響く。
「それで十分よ」
レニの黒い炎が、わずかに揺れる。
しかし今回は――
荒れることはなかった。
一方。
レオンとララは、海沿いの道を歩いていた。
自転車が通り過ぎ、子どもたちの笑い声が響く。
ララは、ふと立ち止まる。
「ねぇ、レオン」
彼は振り向く。
「もし……戦いが全部終わったら」
少しだけ、間。
「こういう場所で、暮らしたい?」
レオンはすぐには答えなかった。
海を見る。
空を見る。
「……分からない」
ララは少しだけ寂しそうに笑う。
「でも」
レオンが続ける。
「守りたいとは思う」
その言葉に、ララは目を細める。
遠くで、ナンドの声が響く。
「おい!飯だぞ!」
ヴィニーの笑い声。
ケルの優しい声。
レニの小さなため息。
そのすべてが、
この島の空気に溶けていく。
しかし――
その穏やかな時間の裏で。
海の向こう。
無人の小さな島の影。
そこに、黒い影が立っていた。
人ではない何か。
ただ、こちらを見ている。
風が止む。
波が、一瞬だけ静まる。
そして――
影は、ゆっくりと動き出した。
第2話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、瀬戸内の穏やかな日常と、
それぞれの心の変化を描きました。
戦いを離れたことで見えてくるもの。
そして、消えない過去。
静かな時間の中でも、物語は確実に動いています。
次回は、新たな存在と接触し、
この平和が本当に守られるべきものなのかが問われていきます。
引き続き、よろしくお願いします。




