第十二話『静寂を乱す影』
瀬戸内には、古くから人々の祈りが積み重ねられてきた場所がある。
その静けさは、長い年月をかけて守られてきたものだ。
だが、その均衡が崩れ始めたとき、
最初に気づくのは、そこに生きる人々の“違和感”かもしれない。
島に建つ古い神社は、海を見下ろすように静かに佇んでいた。
朱色の鳥居が風に揺れ、波の音だけが響いている。
ララは小さく息をつく。
「ここ……すごく落ち着く場所だね」
ナンドは周囲を見渡した。
「だが、どこか妙だな。空気が重い」
ジラは目を閉じ、ゆっくりと周囲の気配を探る。
「……やっぱり。ここも影響を受けてる」
その時、奥から一人の僧が現れた。
穏やかな表情で、彼らに頭を下げる。
「ようこそ。この神社へ。旅の方々ですか?」
レオンは一歩前に出る。
「はい。少し聞きたいことがあって来ました。この場所……最近、何か変わったことはありませんか?」
僧は少し考えた後、静かに頷いた。
「実は……参拝者の中から、“何かがおかしい”という声が増えています。理由は分かりませんが……この場所の空気が、少しずつ変わっているのです」
ジラが目を開く。
「やっぱり……」
レオンは真剣な眼差しで言った。
「俺たちは、その原因を止めるために来ました。この場所に、平和を取り戻すために」
その瞬間――
空気が歪んだ。
僧の影が、ゆっくりと揺れ始める。
「……っ?」
次の瞬間、影が膨れ上がり、彼の体を覆った。
僧の目が黒く染まる。
低く、異質な声が響いた。
「……去れ、よそ者」
ララが一歩後ろに下がる。
ナンドが構える。
影は僧の体を通して、レオンを見つめた。
「……分かっているぞ。お前が何者か。選ばれし者……“あの子”の器」
空気が凍る。
レニが歯を食いしばる。
「何言ってやがる……」
影はゆっくりと笑った。
「この地は我らのものだ。お前たちが踏み入れていい場所ではない」
次の瞬間――
僧の体から影が離れ、霧のように消えた。
僧はその場に崩れ落ちる。
「倒れた!」
ララが駆け寄り、全員で彼を支える。
彼らは急いで僧を中へ運び込んだ。
――しばらくして。
僧はゆっくりと目を開けた。
「……私は……」
レオンが静かに言う。
「大丈夫です。あなたは操られていました」
僧は震える手で胸を押さえる。
「……覚えていません。ただ……何かが入り込んできたような……」
沈黙が流れる。
やがて、彼は深く頭を下げた。
「もし、あなた方ができるのなら……どうか、この地に平穏を取り戻してください」
ジラが静かに呟く。
「この霊……この土地のものじゃない」
レオンは外を見る。
海は静かに見える。
だが、その奥で――
確実に、何かが動いていた。
第十二話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は瀬戸内の「祈りの場所」と「違和感の侵食」を描きました。
静かな神社という対照的な空間の中で、異質な存在が現れることで、物語の緊張感を高めています。
また、敵がレオンの正体に気づいている描写も入ることで、
今後の展開に大きく関わる伏線となっています。
次回は、この“影”の正体と、瀬戸内に広がる異変の核心へと近づいていきます。




