第10話 — 「静寂の崩壊」
静けさは永遠ではない。
それは嵐の前に与えられる、わずかな猶予。
そして今、その時間は終わろうとしている。
瀬戸内の夜は、穏やかだった。
海は静かに眠り、町の灯りが水面に揺れる。
笑い声も、食事の香りも、すべてが“普通”だった。
——だが、その普通はあまりにも脆かった。
レオンは空を見上げていた。
星の間に、わずかな歪み。
まるで空間そのものが軋んでいるような違和感。
レオン(心の声)
「……来る」
その瞬間——
空が裂けた。
音もなく、ただ“裂ける”。
黒い亀裂が夜空を走り、そこから重い圧力が降りてくる。
空気が変わる。
呼吸が重くなる。
ララが立ち上がる。
ララ
「なに…これ…」
ナンドはすぐに戦闘態勢に入る。
ナンド
「ただの敵じゃねぇな」
レニの目が鋭くなる。
黒い炎が静かに揺れ始める。
レニ
「…嫌な感じだ」
次の瞬間。
空間が砕けた。
黒い粒子が広がり、その中から“それ”が現れる。
人の形をしている。
だが、輪郭は歪み、影が揺らぎ続けている。
まるで存在そのものが不安定な“何か”。
???
「……見つけた」
声は低く、重く、どこか現実からずれていた。
ザイラの体が反応する。
無意識に一歩下がる。
ザイラ(心の声)
「……この感じ…」
心臓が強く打つ。
——知っている。
だが、思い出せない。
レオンが前に出る。
レオン
「誰だ」
影はゆっくりと顔を上げる。
その瞬間——
空気が歪む。
???
「お前たちは…まだ“そこ”にいるのか」
意味の分からない言葉。
だが、その声には明確な“敵意”があった。
次の瞬間。
影が消える。
そして——
ナンドの前に現れた。
ナンド
「速っ——」
反応する前に、拳が叩き込まれる。
衝撃。
ナンドの体が地面を削りながら吹き飛ぶ。
地面が砕け、砂が舞い上がる。
ララ
「ナンド!!」
レニが即座に動く。
黒い炎を纏い、影へ突撃。
レニ
「なめるな!!」
拳が直撃する——はずだった。
しかし。
すり抜けた。
レニの目が見開かれる。
レニ
「……当たらない!?」
影が微かに笑う。
???
「存在の“層”が違う」
次の瞬間。
レニの体が吹き飛ぶ。
黒い炎が散る。
レオンの目が鋭くなる。
レオン
「……触れられない存在か」
彼はゆっくりと剣を構える。
周囲の空気が変わる。
五つの元素がわずかに反応する。
その時。
ザイラが一歩前に出る。
ザイラ
「……やめて」
全員が一瞬止まる。
影も動きを止めた。
???
「……やっと気づいたか」
その言葉。
ザイラの瞳が揺れる。
ザイラ
「あなた……誰?」
沈黙。
そして。
影がゆっくりと形を歪める。
???
「お前が捨てたものだ」
空気が凍る。
その瞬間。
ザイラの中で何かが弾ける。
フラッシュ。
戦場。
炎。
崩れる大地。
ラガーの叫び。
そして——
“もう一人の自分”。
ザイラ
「……違う……」
呼吸が乱れる。
手が震える。
ザイラ
「違う!!」
影が一歩近づく。
???
「お前は逃げた」
ザイラの目に涙が浮かぶ。
???
「守れなかった現実から」
レオンが割って入る。
レオン
「そこまでだ」
剣が光る。
今度は“届く”。
一閃。
光が影を切り裂く。
だが。
影は消えない。
ただ、形を崩すだけ。
???
「……面白い」
ゆっくりと再生する。
ナンドが立ち上がる。
血を拭い、笑う。
ナンド
「やっと効く相手が来たな」
レニも炎を強める。
レニ
「今度は燃やし尽くす」
ララは光を纏う。
ララ
「ザイラ、下がって!」
だが。
ザイラは動かない。
目は影から離れない。
ザイラ(心の声)
「これが……私?」
恐怖。
否定。
そして——
わずかな共鳴。
影が空を見上げる。
???
「まだ足りない」
その言葉と同時に——
空の裂け目が広がる。
複数の影が覗く。
レオンの表情が変わる。
レオン
「……増えるのか」
ナンド
「冗談だろ」
レニ
「いや、マジかよ…」
空気が一気に重くなる。
瀬戸内の静かな夜は、完全に壊れた。
波の音すら消える。
影が告げる。
???
「これは始まりだ」
ザイラを見つめる。
???
「お前が向き合うまで、終わらない」
その瞬間。
全ての影が動き出す。
逃げ続ける限り、影は消えない。
それは外にいる敵ではなく——
内側にあるものだからだ。
次回、「壊れゆく心」




