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第二十一話 出たとこ勝負の賢者様

 異世界だらだら生活、23日目。

 

 連日ポーションガチャという画期的な商売を続けた結果。

 俺たちの懐は温まりに温まっていた。


「へへ、リーダー、そろそろ金庫でも用意した方がいいんじゃない?」

「嫌だ。俺はもうこの(かね)のベッドでしか寝ない」


 宿屋の一室。

 床に敷き詰められた銀貨と銅貨の絨毯の上で、俺は寝そべっていた。


 うむ、このギザギザが突き刺さる感触がたまらん。


「けどマスター、そろそろ金貨に両替しませんと約束の期日が来てしまいますよ?」

「約束…んなもんしたか?」

「ほ、ほら!あのポルゾフという悪い商人さんに牢屋で金貨10枚の約束をしたじゃないですかー!」


 ああ、そういや、そんなこともあったな。

 すっかり忘れていた。


 成金ベッドの上でごろりと寝返りを打ちながら、経理担当の眼鏡に聞く。


「…で?今、いくらあんだよ」

「はいっ!ただいまの集計で銀貨98枚!あと少しで金貨10枚分です!」


 レムリアが、興奮気味に報告する。

 わずか数日で、あの絶望的な借金をほぼ完済できるだけの金を稼いでしまった。


 我ながら、恐ろしい才能に震える。


「…じゃあ、明日には終わるな。よし、解散」

「ええっ!?ま、まだ今日の営業が残ってますよ!?」

「もういいだろ。だるいからサボろう」


 そう言って二度寝の体勢に入ったときだった。

 バタン、と部屋のドアが乱暴に開かれる。


 おいおいまたかよ。勘弁してくれ。

 内心ビクつきながら音の方を見ると血相を変えた宿屋の主人が居た。


「お、おい、アンタ!大変なことになっちまった!」

「大変なコト?ドアの修繕費なら払いましたけど」

「そっちじゃねえ!ほ、ほら窓の外を見てみろ!」


 普段は温厚なおっさんが慌てふためいていたので、仕方なく窓辺に向かう。

 そこから見えるのは宿屋の正面玄関だが、何やら人が集っているようだ。


「…なんだありゃ?」

「あっ!?マスター、あの中央に居るのって…ポルゾフさんですよっ!?」


 横からレムリアがむぎゅりと俺の頬を押しつぶしそうな勢いで指を差す。

 狭い窓からその先を見ると、確かに小太りのシルエットが見えた。


「あ、アンタたちに会わせろって宿屋の前で暴れてるんだ…どうにかしてくれよ」

「ふむ、約束の期日まではまだ余裕があるはずだが、恐らくは例のポーションガチャの件で向こうに実害が出たんだろうね、はは」

「それでクレームを付けに来たってワケか。あんにゃろ…」


 飄々としているジェディと、拳を作って苛立ちを表すベルナ。

 まったく、少し順調に進み始めた途端にコレだ。


「んじゃ皆、後は頼んだ」

「だ、だだ、ダメですよマスター!?貴方様が居ないとこのパーティはまとまらないんですからー!」

「俺が居てもまとまってねぇだろ…はぁ」


 見下ろしてくる黒ローブの眼鏡っ娘に急かされ、仕方なく身体を起こす。

 会うだけだからな。



「よう、来たか小僧」


 宿屋の前に出ると、ポルゾフと棍棒などを持った柄の悪い手下たちが待っていた。

 周辺には地域住民の方々が、遠巻きに集まってきている。


「来ましたけど、なんすか?」

「しらばっくれてんじゃねえぞ!ふざけた真似しやがって!我が店のポーションの売り上げがこの三日間ゼロになったそうだ!どういうことか説明してもらおうか!」


 反社会的な勢力らしいドスの利いた声で迫ってくる。

 俺みたいに一度死んだ人間じゃなかったら怖くて震えてるぞ、それ。


「さあな。俺たちのガチャがよっぽど面白かったんじゃねえの?」

「そうだ!そのふざけた『ガチャ』とやらだ!あれは市場の秩序を乱す、悪質なイカサマ商売だ!証拠にほれ、お前らの購入者から賭博の言質も取ってある!」


 なるほど。相手も単なるヤの付く自由業ではないらしい。

 こちらの商売を不当だと訴えるだけの根拠は用意してあるようだ。


「チッ、悪徳商人らしく根回しだけは早いじゃないか」

「どどど、どうしましょうマスター!?大ピンチですよぉっ!?」


 ベルナは忌々しげに吐き捨て、レムリアは顔面蒼白だ。

 ジェディだけは面白そうにこの状況を静観している。


(この場を切り抜けないと、また投獄されちまいそうだな)


 だが、俺には唯一にして絶対の切り札がある。

 その頼るべき切り札に向かって俺は内心で叫んだ。


(【最適化】!この面倒な状況を完璧に解決させる方法をよこしやがれ!)


 すると一瞬にして、無機質なメッセージが表示される。


《最適解:相手の『不正』を追求せよ》


 は?不正?

 そんなモン、俺知らねえけど。


 具体的な証拠は何一つない。

 しかし、このスキルは追求せよと言っている。


(ってことは、出たとこ勝負でいいんだよな)


 もうこのデブ商人相手に何かを考えることすら面倒だ。

 俺は胸の内から溢れ出るスローライフへの憧れを原動力に、口を開いた。


「……だったら」

「ん?」

「アンタがこっそりやってる、『不正』の方はどうなんだ?」


 さも全てを知っているような口ぶりで、ポルゾフに話を振る。

 幸いにも俺のやる気ない顔は他人から見ればポーカーフェイスに映るらしい。


「…ふ、不正だと…?証拠でもあるというのか!」


 ポルゾフは動揺しながらも、必死でシラを切ろうとする。


 まぁそうだよな。

 たとえ悪どい事を裏でやってたとしても、すぐに認めるのは馬鹿だけだ。


 かといって、俺には証拠なんてない。

 無いけれどもきっと適当に振れば何とかしてくれるだろう。


 そう、稀代の錬金術師だかテロリストだか知らんが。

 俺にはジェディという名の万能エルフちゃんがいるのだ。


「ああ、あるぜ」


 自信満々に親指を立てて後ろを指差す。


「なあ?証拠なら、そこのアンタが全部持ってるんだろ?」


 ビシッと相手の顔も見ずに華麗なパスを出す。

 よし、後はジェディ、お前が何とかしてくれ。


「――えぇ、証拠なら確かにここにあるわ」


 しかし、聞こえてきたのは、ジェディとは全く違う凛とした女の声だった。


(…は?誰?)


 俺が訝しげに振り返るより早く、ポルゾフが驚愕の声を上げた。


「お、お前は…!『青の小鹿亭』の、エララか!なぜお前がここに…!」


 いつの間にか、野次馬の中から一人の女商人らしき人物が現れている。

 分厚い帳簿を手に、まっすぐにポルゾフを睨みつけていた。


「ポルゾフ殿。もう、あなたの好きにはさせません。これが、我々が長年秘密裏に集めてきた、不正の証拠です!」


 彼女が掲げた帳簿に、ポルゾフは完全に顔面蒼白になる。


「帳簿には全て記してあります!あなたが王都から仕入れた一級品のワインを水で嵩増ししていたことも!質の悪い麦酒に偽のラベルを貼って、高価なエールと偽っていたことも!そして、我々が他の商人から酒を仕入れられないよう、不当な圧力をかけていたことも!全部!」

「ば、馬鹿げている…!そんな事を歴史ある我が店がするはずが…な、無いであろう!?」


 しどろもどろになるポルゾフの様子に、旗色が完全に変わった事を実感する。

 だが、俺の頭は別の疑問でいっぱいだった。


(…え? 誰あんた?というか、なんで俺のパスに勝手に答えてんの?)


 果敢に責め立てる女商人の傍で、ジェディは腕組みをして頷いている。

 まるで最初から俺がこうなるだろうと仕組んでいたかのように。


「さっすがリーダー!あんたやるときゃやる男だにゃあ!」

「エララさんといえばこの街でも慕われている人情派の商人さんですよ!でもまさかポルゾフさんと浅からぬ因縁があったなんて…、これも全部マスターの手の上ですかっ!?」

「…まぁ、色々と、な」


 今更でまかせでした、なんて言えるはずもなく。

 俺はただただ、この勘違いの嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。


 結局、エララが突きつけた決定的な証拠と、集まった商人たちの怒りの声に、ポルゾフは観念したようで。


 やがて俺に対してこの世の終わりのような目で睨みつけると、手下たちと共に逃げるように去っていった。


 後日、彼の悪行は王都の中枢にまで広まり、巨額の罰金と、ギルドからの追放処分が下されることになったとか。


 …まあ、俺には関係ないことだが。



 嵐が去った後。


 宿屋の前にはエララをはじめとする商人たちが残っていた。

 まるで英雄でも見るかのように、俺に尊敬の眼差しを向けている。


 やめてくれ。だるいから。


「…本当に、ありがとうございました。あなたがあの『合図』を出してくださらなければ、我々はまだ立ち上がる勇気も持てませんでした」

「合図…?」

「はい。『不正の証拠』という、あの一言。あれで、我々は覚悟を決めました」


 マジかよ。

 いや、あれただの思いつきかつハッタリなんだが。


「つきましては、ささやかではありますが、これは我々からの感謝の印です。どうか、お納めください」


 そう言って差し出してきたのは、ずっしりと重い革袋だった。

 見れば中には金貨が詰まっている。


「…は?」

「我々を救ってくださったお礼と、ポルゾフ殿から受けた迷惑料の一部です」

「はぁ、じゃあいただきます」


 貰えるならと大人しく受け取っておく。

 中身は金貨が20枚以上は入っている。ラッキー。


「…ところで、あなた様は一体何者なのですか…?」


 突然の臨時収入にニヤけていると、エララが俺の方を神妙な顔で見つめながら、そう言った。


「何者って、俺は――」


 ただのやる気のない人間だと、答えようとした時だった。

 それまでずっと面白そうに成り行きを見守っていたジェディが、ポンと俺の肩に手を置き、続きを遮る。


 そして、集まった商人たち全員に聞こえるように、芝居がかった声でこう言ったのだ。


「決まっているじゃないか」


 彼女はニヤリと、悪魔のように笑った。


「このお方の御名は、オサム。世界の『(ことわり)』を()り、全てを正しい道へと導く、『(ことわり)の賢者』様さ」

「おお…!」

「なんと…!?

「理の賢者様…」


 商人たちはなぜか感動したように、その二つの名を口々に唱え始める。


(…は?)


 自分の知らないところで爆誕した二つ名。

 なんだよ理の賢者って。聞いたこともねぇよ。


 横を見ると、ジェディがドヤ顔でウインクを飛ばしてくる。

 その分かってますよ風の顔止めろ。耳引っ張るぞ。


 ずしりと重い金貨袋を抱えながら、空を見上げる。

 どうやら俺のスローライフは更に変な方向へと歪み始めていったようだ。

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