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第二十話 夢と希望のポーションガチャ

 異世界だらだら生活、20日目。

 その日、ギルドの裏口はまたも妙な熱気に包まれていた。


『一口銅貨1枚!夢と希望のポーションガチャ!』


 と、大々的に書かれた看板を持つレムリアの前には興味を惹かれた野次馬たちがぞろぞろと集ってくる。


「おいおい、またベルナんとこのパーティが妙な商売を始めてるぜ」

「ガチャ?なんだそりゃ」

「よく見りゃ看板の下に何か書いてるな、どれどれ…」


【大当たり景品一覧】

 賢者ジェディの『エリクサー試作品』

  聖女レムリアの『祝福されしローブ』

  疾風ベルナの『幸運の酒瓶』

 リーダー・オサムの『人生相談』

【外れ】

  普通のポーション


「…エリクサー試作品?祝福されしローブ?」

「おい見ろ。あの店の奥の方にそれらしき商品が並べられてるぞ?」


 冒険者の内の一人が俺達の屋台の奥――レムリアが恥ずかしそうに隠しているローブや、ベルナが腰に掲げている酒瓶を指差す。


「幸運の酒瓶って、あれどうみても飲みさしじゃねえか!」

「ローブに至っちゃボロボロだぞ、何が祝福だよ…」


 野次馬たちのもっともらしいヤジが飛ぶ。

 だがそんな中、目の色を変え出す輩も現れ始める。


「…待て、飲みさしっつってもベルナのだとしたら話が変わってくるな」

「あ、あのローブって…いつも狂ったようにスライムを狩りまくってる、あの眼鏡の魔術師の子が着てたヤツか?…ごくり」


 それを皮切りに場の空気が変わった。


「…おい、マジかよ」

「銅貨一枚で憧れのベルナさんの私物が手に入るチャンス…っ!?」

「ふん、僕は勿論ローブ一択だね。知らないのかい、あのダメージは服を溶かすレアスライムによるものだ。つまり非常に学術的価値が高いので…よし、10本買おう」

「なぁにが学術的価値だ、鼻の下伸ばしながら言ってんじゃねえよ!俺も5本貰う」

「つーか外れてもポーション一本貰えるんだろ?じゃあ買い得じゃん」

「あぁ、いつも買ってるポルゾフのポーションと同じ値段だしな。こっちのが良い」


 口々にやいのやいのと騒ぎ出し、あっという間に長い行列が出来上がる。

 前に密造酒を売った時とは比べ物にならない売上と熱量がそこにはあった。


「くく…大成功だぜ」

「いやー、ボロい商売だねぇ。こういうの向いてるリーダーってちょっとヤダけどにゃー」


 増えていく銀貨袋の中身を数えながら、俺は悦に浸る。

 やはりこの世はガチャ商売。乱数の悪魔からは逃れられんのだ。


「ま、まま、マスタ~~~!!!!??」

「…うっさ。鼓膜破れるだろうが」


 そんな俺の高揚感を邪魔するのは、顔を真っ赤にして抗議する眼鏡女。

 腕には件のボロローブが大事そうに抱えられている。


「な、なな、なんで私の破れたローブが、勝手に並んでるんですかー!?」

「いいだろ。サプライズだ」

「全っ然良くないですよー!?こ、こんな…ふ、不埒な商売…、神様が知ったらなんて嘆かれるか…」


 そういってうるると瞳を揺らしている。

 俺の記憶ではこの世界の女神は不慮の事故で男子高校生の寿命を奪うようなカスなので、いちいち気にしてもないだろう。


「まぁまぁレムリア殿。そう悲観しなさんな。下着を売られないだけオサム氏にも理性があったと思うべきさ」

「うえぇっ!!?」

「いや、さすがにしねぇよ」


 横からにょきっと生えてきた耳長族が平然ととんでもないことを(のたま)う。

 人をなんだと思ってるのか。コイツは。

 それは最終手段に決まってるだろうが。

 

「それよりレムリア、もしローブの当たりが出たらお前が直接渡すんだぞ」

「えぇっ!?そ、それはさすがに恥ずかしいですよぉ…」

「ダメだ、これもガチャの当たり演出の一つだから」

「なんなんですか、当たり演出って…」


 などとレムリアが口を尖らせていると、やがてその瞬間が訪れた。


「うおおおおおお!ローブ来たぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ひょろりとした冒険者が震える手で引き当てた、一枚の札。

 その日一番の歓声が、ギルドの裏口に響き渡る。


「やるじゃねえかテメェ!」

「くっ…悔しいですが今回は貴方に譲りましょう」

「そーら胴上げだ!わっしょい!わっしょい!」


 大当たりを引いた冒険者は野次馬連中に胴上げされつつ、レムリアからボロボロのローブを恭しく受け取る。うぅむ、素晴らしい光景だ。


「おい、俺にも引かせろ!」

「くそっ! またポーションか!もう一回だ!」

「はぁ!?『人生相談』だとぉ!ふざけんな!いるかこんなん!」

「まいどありー」


 次々と木箱に投げ入れられる、銅貨、銅貨、銅貨。

 それはもはや商売というより、半狂乱の祭りだった。


「はいはい、並んだ並んだー!」

「ひゃああっ!?お、お金を投げないでください~~~!」

「ん?エリクサーの効能?そうだねぇ、死んでなければ何にでも聞くと思うよ」

「ふあぁぁ…眠い」


 そして、全てのポーションを掃ききった、その日の夜。

 宿屋の一室にて、集う俺達。


 テーブルの上には、もはや数えるのも面倒なほどの銅貨と銀貨の山が築かれていた。


「うひゃあ!すげぇなリーダー!これで金貨10枚も夢じゃないねぇ!ぐびっ♪」

「…うぅ…、お金と引き換えに大切なものを失いましたぁ…」

「ふふ、それにしても人間の『欲』というものは大変興味深いね。オサム氏の周りに居れば暫く退屈しなさそうだ」


 はしゃぐベルナといじけるレムリア。そして、にへら顔のジェディ。

 俺はというと、銀貨の山に寝転がりながら、富豪気分を味わっていた。


「イテッ、実際やるとこれあんまり気持ちよくないな」

「ぎゃはは!金の風呂だなんて悪趣味だにゃー!」

「ふむ、金に溺れたいというのなら私が全身金に変えられるクスリを調合してやろうかな、オサム氏?」

「いやいいっす。勘弁してほしいっす」

「ほらほらレムリアも落ち込んでないで飲みなよ。ゴーレムくんが丹精込めて作った安酒さ、ぐいーっと」

「…マスターの馬鹿、…んぐっ……ごくっ……っぷはーー!!」

「おい馬鹿やめろ。これ以上酔っ払いを増やすな」


 こうして狭い宿屋の一室のアルコール濃度は高まり、どんちゃん騒ぎは続いていく。



 一方、その頃。

 街の一角にある、ポルゾフの豪華な執務室。

 最高級のワイングラスを片手に、ポルゾフは窓の外の夜景を優雅に眺めていた。


「フン、あの小僧どもめ。今頃金貨10枚の重圧に喘いでいる頃だろうな」


 勝利の美酒を味わおうとした、まさにその瞬間。

 ドンドン、と執務室のドアが乱暴にノックされる。


「…なんだ、騒々しい」


 血相を変えた手下の一人が、部屋に転がり込んできた。


「た、大変です、ポルゾフ様!」

「何事だ。慌てるな」

「ポーションが、全く売れません!」

「……何?」


 ぎょろりと凄みのある瞳に見入られ、手下の身体がビクリと跳ねる。

 だが、それでも彼には緊急で伝えないといけない情報があった。


「街中の冒険者たちが謎の『ガチャ』という遊びに夢中になっており、我々の店のポーションには見向きも…!」

「し、しかもそのポーションを販売しているのが、例の…『キ=タクヴ』という冒険者パーティでして…」


 ガシャン。

 床に落ちたワイングラスの中身とともに、彼の表情から余裕が消え失せた。

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