第十九話 射幸心という名の集金箱
異世界だらだら生活、19日目。
カシャン、カシャン。
その日は朝から寸分の狂いもない、効率的な作業音が廃屋に響いていた。
「す、凄いですよマスターっ!?ゴーレムくんが一晩中ポーションを作ってくれてますっ!」
レムリアが脳に響く声で喜びを叫ぶ。耳元で叫ぶな。
製造から瓶詰めまで、全てワンオペでこなす錬金ゴーレム一号くん。
なんて可哀…立派なヤツだ。たまにはボディを磨いてやらねば。
「いやー、素晴らしい相棒だにゃ!もう最高っ!ふへ、ふへへへ…」
妖しく上機嫌に笑うベルナ。
見ればその腕にはラベルのない大量の酒瓶を抱えている。
「お前…さてはこっそりゴーレムに酒作らせたな?」
「さー?何の事だかわかんにゃい!んぐっ、っぷはー…!」
なんて抜け目のない猫だ。
まぁ呪いの軽減だと思って目を瞑ろう。
「ジェディ、売り物になる量はこれで足りてるのか?」
「あぁ、そうだね。これくらい揃えば売り出しても良さそうだよ」
「よーし!んじゃ早速あのムカつくデブ親父の店の前で売っちまおうぜー!」
陽気な酔っ払いが騒ぎ出したところで、エルフ女は人差し指を唇に添えて忠告する。
「んー、それはちょっとおすすめしかねるねぇ。ポルゾフへの嫌がらせにはなるだろうけど、私達が目指している市場破壊には程遠い」
「じゃあ、どうしろってんだにゃー!?」
「ふふ、それは勿論パーティのリーダー様に決めてもらうのさ」
ジェディは俺の力量を測るかのように、にへらと笑みを向けてくる。
まぁコイツに任せたらまた非人道的な手段を取りかねないからな。
「えぇ!マスターの『叡智』にお任せしましょう!」
「ったく、勝手なことばっか言いやがって」
んなこと言われても俺にアイディアなんて無い。
あるのはこの便利なスキルだけだ。
(【最適化】!このポーションの『最適な販売方法』を教えろ!)
脳内で思考を言語化し、叫んでみる。
すると、俺にしか見えない無機質なポップアップメッセージが浮かび上がった。
《最適解:『ガチャ』形式での販売を推奨する》
《補足:射幸心を煽ることによる、客単価の上昇と、景品による希少価値の創出が期待できる…》
(……ガチャ、だと?)
急に懐かしさの感じる単語が出てきて、驚いた。
ガチャ。それは前世で流行った悪魔的集金システムの名。
奥に積まれたポーションの山と、周りに居る三人の女の顔を見て思案する。
ポクポクポク、チーン。閃きが電流のように走った。
「……決めた」
俺の一言に仲間たちの視線が集まる。
ニヤリと。ついジェディのような悪い笑みが溢れてしまった。
「ガチャにする」
「ガチャ?」
聞き馴染みの無いであろう三人に、俺はその画期的な集金システムを説明する。
こういう時だけは俺の薄いやる気も漲ってくるんだよな。
「いいか、よく聞けよ」
俺は、一本の指を立てた。
「まず、ポーションを、ハズレとする」
「は、はずれ!?ど、どうしてですかっ!?」
レムリアは目を丸くして叫ぶ。
大前提からしてとんでもない事を言っていると思ったのだろう。
「ああ。そして、それとは別にいくつか『大当たり』の景品を用意するんだ」
そう言って俺は、そこら辺の空の木箱を指差す。
「客は、その木箱に銅貨を一枚入れる。そしたら手を入れて、中に入ってる札を一枚引く。その札に書かれてる景品をそいつに渡す。…ただ、それだけだ」
ベルナが、腕を組んで訝しげに言う。
「…おいおい、それじゃあ、運のいい奴に『大当たり』ばっかり引かれたら、大損じゃないか」
「引けたら、な」
俺は、ニヤリと笑った。
「人ってのはな、『自分だけは当たる』って勝手に信じ込む、めでたい生き物なんだよ。ハズレを引けば引くほど、『次こそは』と熱くなる」
前世で、そういう輩はネットニュースでいくらでも見てきた。
「それに、『大当たり』の数をこっちで操作すりゃいい。箱の中に、ハズレの札を99枚、当たりの札を3枚か4枚だけ入れておけば損はしない」
むしろ大当たりが出た時の『熱狂』が、最高の宣伝になる。
そもそも、こちとら原価ゼロに近いボロ儲けスタイルだ。
最初から損なんてしない。
「……」
「…………」
俺の説明が終わると、レムリアもベルナもぽかんと口を開けていた。
そんな中、ジェディだけが愉悦の笑みを浮かべている。
「…素晴らしい。実に、非人道的で、美しいシステムだねぇ」
「だろ?」
元々の値段もポーション代と考えたら安いもんだ。
『ポルゾフの』を買う代わりにこちらを買うだけでいいんだから。
「よし、じゃあ早速『大当たり』の中身を決めるぞ。一人一つ案出せよ」
俺の言葉に、三人がそれぞれの景品を提示する。
「私からは、これだね」
最初に提示したのはジェディの怪しげな瓶だった。
ポーションに似ているが、液体の色は虹色に発行している。
「『エリクサー・プロトタイプ』。まあ、失敗作だが」
「おい、大丈夫なんだろうな?」
「失敗作と言っても再現性が薄いだけさ。効果は最上位ポーション並だから、千切れた腕くらいは生えてくるだろうよ」
さらりとそんな事を言う。
すげぇ、異世界ってポーションで腕も生えてくるんだ。怖すぎる。
「へぇぇ、いいじゃないか。じゃあ、アタシからはこれかな」
次に提示したのはベルナの飲みかけの酒瓶だった。
「お前、適当すぎるだろ」
「んだとぉー?この麗しのベルナ様が直で飲んだ酒瓶だぞー!ファンにはたまらない一品だにゃー!ひっく…っ」
興奮した酔っ払いが酒臭い息を撒き散らしながら抗議してくる。
まぁいいか。人の好みはそれぞれだし。
「あ、あのぉ…マスター…わ、私が出せるものなんて…!」
そんな中、レムリアだけは一人オロオロしている。
こいつ根は真面目だからな。真剣に考えすぎて思いつかないのだろう。
…と、そこにふと悪魔的な閃きが俺の脳裏に宿った。
「ああ、レムリアの分はもう決めてある」
「ふぇっ!?そ、それは一体なんでしょうか…??」
「詳しくは当日教える。楽しみにしていろ」
俺が悪巧みにニヤついていると、横からベルナが突っついてくる。
「んで? リーダーのアンタは何を出すんだい?」
「俺か? 俺は…」
その辺の羊皮紙に適当なペンでさらさらと文字を書く。
「これだ」
「『理の賢者』オサム様の、人生相談…?」
「た、確かにっ!?マスターの『叡智』を授けるという行為、それ自体が大当たりですっ!」
「オサム氏の叡智、か。理解してくれる購入者がどれほど居るかねぇ」
「別に居なくてもいい。俺のは外れ枠だ」
こうして、異世界生活初にして、最も悪趣味なガチャの景品ラインナップが、ここに決定した。
完成した景品リストを手に、俺は立ち上がる。
「よし、準備は整ったな」
俺は、三人の仲間たち…いや、共犯者たちの顔を見回すと、高らかに、しかし心底だるそうに、宣言した。
「これより、『ポーションガチャでウハウハ大作戦』を開始する!」
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