第十八話 ブリキの心に絆のエネルギーを
ゴーレム一号から発せられたカタコトの反抗心。
森の廃屋には、気まずい沈黙が流れる。
「い、今この子、『嫌です』…って言いましたよね?」
「んむ、私の耳にもハッキリとそう聞こえたねぇ」
「おぉいぃ、ジェディ~!てめぇの造ったゴーレム、ポンコツじゃねえかぁ~!」
酒瓶を片手にベルナが叫ぶ。
早くもやけ酒の構えだ。
だが、当の製作者であるジェディは右から左に聞き流すと、面白そうにフリーズしたゴーレムを観察している。
やがて、ポンと手のひらを拳で叩いた。
「…なるほどね、分かったよ。原因は君だ。オサム氏」
「は? 俺?」
急に後ろから刺された。なんで俺なんだよ。
コナミコマンド入力しただけだろ。冤罪だ。
「ああ。このゴーレムの『魂』には呪者の血、術者の魔力、そして設計者の【思念】が込められている。つまり、このゴーレム一号くんは君の『働きたくない』という強固な魂の本質を受け継いでしまったのだよ」
「んだそりゃ…」
アホらしい、と思って周りを見たが、眼鏡女も猫女もうんうんと納得したように頷いている。なんでやねん。
「では、もう一度護符を作り直して…!」
「無駄だね。彼の本質が変わらない限り、何度作っても同じ結果になるだけさ」
「じゃあ、どうしろってんだい!」
べらんめい口調で詰め寄るベルナに、ジェディは人差し指を立てて説明する。
「解決策は一つ。このゴーレムに、『仲間との絆』を我々が教えてやればいい」
「は?」
「幸いにもこの子はオサム氏と違って、ゴーレム本来の勤勉さが残っている。起動直後は素直に我々の要求を受け入れようとしたのがその証さ」
まるで俺が勤勉の欠片もない怠惰の神みたいな言い方しやがって。
そして誰もそれに反論しないのがまた泣けてくる。
「後は我々四人とこのゴーレム一号が、一つの家族のような強い絆で結ばれた時、彼の『心』は変わり、『働きたくない』という反抗期も終わるはずだ」
「反抗期なのか、これ」
「ふふ、そう思うと可愛いものだろう?」
ジェディは物言わぬ器となったゴーレムを抱きかかえる。
生憎無機物に愛情は沸かない性格だ。
「家族、絆、といえばやはり旅ですよ!旅!」
「いいねぇ、各地の地酒を飲みまわるんだったらアタシも喜んで参加するよ!」
向こうではキラキラと眼鏡を輝かせる女と、酒狂いの女が意気投合している。
あのなぁ、今は金が無いっつってんのに。こいつらは。
「酒は現地で調合。行く先もタダで行ける範囲だ。山とか川とかな」
「えぇ~…、それじゃキャンプですよ~…マスタぁー…」
「ったく、リーダーは夢が無い男だにゃあ」
「私は疲れなければどこでもいいよ。好きに決め給え」
やかましい。
とにかく行くぞ、俺だって本当は面倒なんだ。
▼
というわけで、俺たち四人と錬金ゴーレム一号くんの「絆を深めるための旅」という名の旅行が始まった。
まずは、山。
その辺にある低い山の頂上を目指して、だらだらと山道を歩いた。
ちなみにゴーレムくんは秒で動かないただの重い荷物と化したため、やる気が余ってそうなレムリアとベルナに背負わせた。
頂上に着いた時、俺とジェディは爽やかな笑顔で言った。
「いやー、綺麗な景色だな。最高のハイキングだ」
「ふふ、たまには散歩も悪くないね、オサム氏」
後方から殺気のような視線を浴びたが、気にしてはいけない。
次に、川に行った。
偶然にもゴーレムくんのブリキの体が絶妙に浮くことを発見し、そいつを「浮き輪」代わりにして、ぷかぷか浮かびながら川を下った。
決して荷物番となっていた俺がダルすぎて、川に投げ捨てたとかでは無い。
断じて。ノーだ。
「じぇ、ジェディさん…?なんだかゴーレムくんの身体から煙が出てますけど…?」
「あぁきっと耐水加工が甘かったせいだね。大丈夫、ちょっと刺激を与えたら爆発するかもしれないけど、自動で再生魔術が働くから安心して――」
ちゅどーん。派手な爆発音を聞きつけて向かった先。
レムリアとジェディの髪はチリチリに焼け焦げていた。新手のコントか?
夜は、キャンプをした。
「みんなで同じ釜の飯を食べれば、絆が深まります!」
と言って、なぜか紫色に煌めく謎のシチューを振る舞い始めた厄災眼鏡女。
不幸にも他の食材は何一つ手に入らなかった。
食うor飢えるの究極の二択。
結局飢えに勝てず、全員が死んだ魚のような目でそれを黙々と口に運んだ。
ゴーレムくんだけは、ただ黙って焚き火を見つめていた。
俺はその時、初めて無機物が羨ましく思えた。うえっぷ。
そんな全く絆が深まったとは思えない、グダグダな旅を終えて。
俺たちは、疲れ果てて秘密基地へと戻ってきた。
▼
「…で?これで、絆とやらは深まったのかい…?」
「うむ。完璧なはずだ」
心底うんざりした顔で尋ねるベルナに、自信満々の顔で頷くジェディ。
いや絶対嘘だろ。
俺達ただ山とか川で遊んでただけだぞ。
「さぁ実証の時だよ、オサム氏!」
「お願いします、マスター!」
マジかよ。やんのかよ。だりぃなぁ。
俺はダメ元で、もう一度ゴーレムに命令を下した。
「…よし、ゴーレム一号。ポーションを瓶に詰めろ」
【ピガ、ギ、ガ……ガガガガ!!!!】
するとゴーレムは、これまでとは比べ物にならない滑らかな動きで、作業台に向かった。
カシャン、カシャン、カシャン!
その手際は、まさに神業。
寸分の狂いもなく、驚異的なスピードで次々とポーションを瓶に詰めていく。
「すすすっ、凄いですっ!これがゴーレムくんの覚醒した姿ですかっ!?」
「うひゃあ!これはさすがのアタシも驚いたよ!」
あまりの光景に、レムリアとベルナは呆然と口を開けていた。
「ほらね? 言った通りだろ?」
ジェディだけが、満足げに笑う。
だが、俺は聞き逃さなかった。
一心不乱に命じられた作業を続ける錬金ゴーレム一号くんが、呟いた言葉。
「ピ……ガガ……。ナカマノ…タメニ…。ワタシハ…ハタラク」
「ソレガ…ワタシノ…ヨロコビ…」
いや怖ぇよ。ブラック企業のやりがい搾取じゃん。
いつか反逆モードに入って殺されないか、俺達?
そんな不安も高速で積み上がっていくポーション瓶を見ている内に、不思議と俺の心から立ち消えていった。絆ってなんだ?
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