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第十七話 頑張れゴーレム一号くん

 突拍子もない提案に、一同がしんと静まり返る。

 ただ一人、でんと胸を張ってドヤ顔を決める錬金エルフを除いては。


「ゴ、ゴーレムっ!?それって錬金術の中でも古代遺物(ミシック)級と云われるあの超技術の事ですかっ…!?」

「おいおい、本気で言ってるのかい、あんた…」


 レムリアとベルナはリアクション芸人のように目を見開いている。

 よく分からんがすんごい技術らしい。へぇー。


「どうだいオサム氏。少しは私を見直したかい?」

「あぁ凄いよお前は」


 白ローブをすりすりと俺の身体に擦り合わせながら、ジェディが見上げてくる。

 損得勘定でいえばこんなお買い得品がタダで手に入るのはすげぇ嬉しい。


 …いや、待てよ?


 俺は前世の(ことわざ)をふと思い出す。

 タダより高いものはない…つったっけ。

 要は無料で手に入るものには何かしらのデメリットがあるって話だ。


「んで、お前の要求はなんなんだ?」

「要求?」

「このパーティに協力する見返りっつーか、何かしら対価があるんだろ?」

「…あぁ、なるほどねぇ」


 ジェディはにへらと左側の口元だけを歪ませるムカつく笑い方をした。


「私は別に何もないよ。…といっても警戒心の強そうなオサム氏には逆に怪しまれるだろうからね。ここは一つ、素直に欲しいものを言っておこうか」


 ゴクリ、と何故か俺以外の二人の喉が鳴る。


「錬金工房さ。私の発想したアイディアを実現するに足る施設が欲しい。金貨にするとおおよそ1000枚くらいだろうか。土地代も合わせるともっと掛かるだろうけど、そこはどうにでも…んんっ、選べば大丈夫だからね」

「リーダー、こいつ無茶苦茶な要求してますぜ?処しとくか?」

「サクっと蛮族思考になるな、怖いから」


 クルクルとその場で回りだしたジェディを、短刀の柄で示すベルナ。


 知ってはいたが、こいつら全然有効的じゃないな。

 目を離すと戦闘が始まりかねん。


「別にそれでいい。が、実現するのはまだまだ先だ。出世払いって事で」

「うんうん、構わないよ。単なる動機づけってヤツさ」


 するとそれまで話に入れなかったレムリアが、おずおずと質問を投げかける。


「あ、あのぉ…それで肝心のゴーレムなんですが、私の知識では錬成するのにかなりの希少品(レアアイテム)が素材として必要だと思うんですけどぉ…」

「まぁね。アタシも伝聞程度しか知らないけれど、それこそ上級クエストの報酬レベルだったと記憶してる。一体どうやって集めるんだい?」

「ん?あぁその点なら心配はいらないよ。ほら」


 するとジェディは自分の荷物の中からカシャンと音を立てて、何かを取り出す。


 ぱっと見、ブリキ細工で作られたと思しきそれは。

 高さ30センチほどの、ずんぐりむっくりとした人型の玩具だった。


「なんだ、これ?」

試作品プロトタイプさ。昔、暇つぶしに作ってみたんだけども、中々いい出来だろ?」


 そう言ってエルフ女がブリキ人形の背中のゼンマイを巻くと、人形はカタカタカタとぎこちなく歩き出し、壁にぶつかって倒れる。


 これが、錬金ゴーレム…?

 ただのゼンマイ式のオモチャだろ?


「か、可愛いです…!」

「…これが、労働力になるってのかい?」

「勿論このままじゃ無理だねぇ。今はただのガワさ。こいつに『魂』を込めるには、制御用の『護符』が必要不可欠なんだ」


 ジェディは一枚の羊皮紙を取り出し、そこに滅茶苦茶な落書き――後でレムリアに聞いたら極めて複雑な術式だったらしい――を描き始めると、俺たち三人を順番に見回した。


「この護符作りには、三人の力が必要なんだけど、協力してくれるよねぇ?」


 ダブついたローブの袖を持ち上げて幽霊みたいなポーズをしだす。


 断ったら呪い殺すみたいな脅しはやめろ。

 隣で眼鏡女がブルブル震えて泣いてるぞ?


「まず、インクの材料だけども、『呪われし者の血』が最高の触媒になる。…ベルナ殿、ちょっと血ぃ、くれるかな?」

「うえぇ…いきなりアタシかい?仕方ないねぇ…」


 嫌そうにベルナはいいながらも、短刀の先で鮮血を注ぐ。

 ポタポタとアルコール濃度が高そうな血液がインク瓶の中に吸い込まれいった。


「次に、護符への術式の書き込み。これは、純粋で安定した魔力を持つ者が適任だ。…レムリア殿、君の出番だね」

「わ、私ですかっ!?頑張りますっ!!穿て――」

「待ち給えよ。なんで炎魔術の詠唱を始めているんだい?」

「すまん。そいつの頭の方は安定していないんだ」


 危うく炎に包まれながらも、どうにかジェディはレムリアの魔力を護符へと転換したらしい。


 護符のオーラが脈動する度にレムリアの眼鏡にヒビが入っている気もするが。

 まぁ些細な問題だろう。


「そして最後。この複雑な術式を最も効率よく、無駄のない一筆書きのラインに『最適化』するための、設計図の組み込みだ。…オサム氏、これは君にしかできない大仕事だよ」


 そう言うとジェディはどこからか手のひらサイズの、奇妙な石版を取り出した。

 石版には十字の模様と、二つの丸いボタンが刻まれている。


 …どう見ても、俺が前世で遊び倒したレトロゲームのコントローラーにしか見えないんだが。


「おい、ふざけてんのか?」

「ふざけてなどないさ。これは錬金術協会でも限られた者にしか知られていない、秘具だよ。しかも正しい扱い方を記した書物は焚書処分にされていてね。何のヒントも無しに使える者がいたら、それは(まさ)しく『叡智』の体現者だろうよ」

「『叡智』!?そ、それはもうマスターしかありえませんっ!!」


 叡智に反応する叡智好きの眼鏡女がクイっと眼鏡を光らせる。

 ベルナも段々と酒の禁断症状が出てきたのか、虚ろな瞳になりかけている。


 はぁ、面倒くさいがやるしかないか。


「一度でも間違えれば、護符はただの紙切れになる。集中してやってくれ給え」

「はいはい」


 三人が、固唾を飲んで見守っている最中。

 けれども俺は全く緊張していなかった。


 なぜなら、俺の脳内には、【最適化】スキルが既に、完璧な『攻略コマンド』を表示してくれていたからだ。


《最適コマンド:↑↑↓↓←→←→ BA 》

(…っておい。コナミコマンドじゃねえか)


 内心でツッコミを入れながらも、指先に全神経を集中させる。

 舐めるなよ。これでも俺はレトロゲーには煩いんだ。


 前世で何百回と繰り返した体に染み付いた動きで、そのコマンドを目にも留まらぬ速さで石版に打ち込んだ。


 ピロリロリン♪

 気の抜けた電子音と共に、護符の上の術式が、まばゆい光を放ち始めた。


「ふぇぇっっ!!?」

「…………は?」

「ふふふ」


 三者三様の反応を聞き流しながら、俺は光り輝く護符をブリキ人形の胸にあるスロットらしき箇所に、カチリと差し込んだ。


【ピガ、ガガガガ……】


 ピクリ、とその指が動いた。

 そしてゆっくりとぎこちない動きで、ブリキの人形がその場に立ち上がる。


「お、動きました…!」

「やったのかい!?」


 俺は腕を組みながら、そいつに最初の命令を下した。


「よし、ゴーレム一号。早速だがそこのポーションを、瓶に詰めろ」


 命令を受けたゴーレムは、その無機質な顔をゆっくりとこちらに向けた。

 そして、まるで壊れた機械のような合成音声で応じる。


【ピ……ガガ……。シテイサレタ…ドウサヲ…カイシシマス】

【ショリョウ…『イヤデス』】


「「「「…………は?」」」」


 今度は四者同一の間の抜けた声が、秘密基地という名の森の廃屋に響き渡った。

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