第十三話 果報はサボって待て
異世界だらだら生活、9日目。
つまりは釈放された翌日の昼のこと。
「というわけで、第二回・今後の金策会議を始める」
宿屋の一室に響く、やる気のない俺の声。
テーブルの上にはポルゾフとの取引で課せられた「金貨10枚、期限一ヶ月」という契約書の他にもう一つ、「銀貨5枚、ドアの修繕費」という宿屋の主人からの脅迫状まで並んでいる。
「が、頑張りましょうっ!マスターの叡智さえあればきっと何とかなりますっ!」
両手の拳を握りしめ、気合だけは一人前のレムリア。
「…なー、酒飲んでいいー?景気づけに…ひっく」
片手で酒瓶を握りしめながらアルコールに逃げ始めるベルナ。
このどうしようもない三人でどうやって大金を稼ぐのか。
それは俺にも分からん。
「とりあえず各自で案を出すぞ。まず眼鏡女から」
「はいっ!ここはまず初心に帰ってスライム狩りですねっ!思考を捨てて朝から晩まで倒し続けましょう!目標は1000匹っ!」
ふんすっ、と鼻から息を吐きながら目を輝かせている。
素晴らしい脳筋思考だ。
お前は今すぐ魔術師を辞めて格闘家にでもなれ。
「よし、じゃあ一人で頑張ってくれ。次、猫耳女」
「ええっ!?わ、私一人でですかぁ!?」
「んー、アタシ?アタシはねぇ…」
ベルナは何やら自慢げに、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「ふふん、これがあるのさ」
「なんだ、それ?」
「『大盗賊ザルガスの秘宝』の在り処さ。昔、とある貴族の蔵からちょいと拝借したもんでね。これさえ見つけりゃ金貨十枚どころの話じゃない」
広げた地図にはこの街の周辺の地形と、一つの大きな×印が描かれていた。
いかにも、な「宝の地図」だ。それっぽすぎて逆に胡散臭い。
「…ほう。いいじゃん、それ」
「だろ!?よし、じゃあアタシはこれで一攫千金といくからね!」
「あぁ頑張れよ」
二人の意見が出揃ったところで、リーダーらしく腕を組んで頷いてみせる。
「よし、決まりだ。レムリアは地道なスライム狩り。ベルナは一発逆転の宝探し。二人ともそれぞれのやり方で、この状況を打開してくれ」
よし、これで全員やるべきことは決まった。
満足気に会議を終わらせようとすると、ベルナが訝しげな目で俺を見てくる。
「…で?あんたはどうするんだい、リーダー?」
「俺か?俺は――」
数秒だけ考えたが何も思いつかないので、【最適化】スキルに優しく問いかける。
(【最適化】さん。【最適化】さん。俺のすべき行動を考えてね)
すると脳内に浮かび上がる、無機質なポップアップメッセージ。
《最適解:何もしない》
(…だよな!)
なんて主人思いの良いスキルなんだ。俺は内心でガッツポーズした。
そして、まるで何か重大な天啓でも得たかのように、神妙な顔で語る。
「……俺は、練る」
「……は?」
「来たるべき時に備え、最大効率で動けるよう策を練る。たとえお前らの案が全部ダメになったとしても挽回出来るような、スペシャルな策をな」
「おぉ!?さすがですマスター!叡智の中の叡智を見出すのですねっ!」
「あ、あぁ…そういう事かい。アタシはてっきり『寝る』って言い出すのかと…疑ってすまないね」
ベルナはいつの間にか構えていた短刀を仕舞い、愛想笑いを浮かべている。
あっぶね。コイツ、もう少しで俺を刺そうとしてただろ。
「と、とにかく!そういうことだから一週間後に各自の成果を報告し合う!それまでは自由に動け!解散!」
俺の号令を聞いた二人は、のそのそと自分の部屋へと帰っていく。
バタンとドアが閉まったのを確認し、すぐさまベッドへとダイブした。
勿論、策など練らない。
ただ、寝るだけだ。
▼
こうして、地獄の一週間が始まった。
レムリアは、真面目だった。
来る日も来る日も、街の外の草原でスライムを狩り続けた。
時には服を溶かす変異種に遭遇し、大事なローブを半壊させられるも苦戦の末に撃破することもあった。
そのローブを他の冒険者に売れば金貨1枚と交換出来るぞと提案したら、無言で顔を殴られた。
ベルナは、奔走した。
宝の地図を握りしめて、意気揚々と街を飛び出した。
しかし、辿り着いた彼女を待っていたのは、数十年は前に完全に掘り返されたであろう空っぽの石室と、壁に残された「残念でした、ノロマさん」というふざけた落書きだけだったらしい。
焦りから夜に飲む酒の量は日増しに増えていった。
そして俺は、自由だった。
昼過ぎに起き、適当に薬草を採集しては、その金で焼きたてのパンを買う。
街の広場のベンチで鳩にパン屑をやりながら、ぼーっとする。
眠くなったら宿屋に戻って昼寝。
夜は、ベルナが飲み潰れている酒場の隅で、人間観察。
まさに、理想のスローライフだった。
▼
そして、運命の一週間後。
宿屋の部屋で、第二回・金策会議成果報告会(という名の反省会)が開かれていた。
テーブルの上には銀貨7枚。
この一週間で俺たちが稼いだ成果の全てだ。
「うぅ…申し訳、ありません…マスター…。私の力では、これが限界で…」
ボロボロのローブ姿のレムリアが、うなだれる。
ちなみに彼女の稼ぎは銀貨6枚(ローブはこれで3着目)
「…面目ないね、リーダー…。アタシの持ってた地図もどうやら先を越されてたみたいでさ…。もう打つ手なしだよ…」
人生の希望を全て失ったような虚無の表情で、ベルナが酒を呷る。
稼ぎは銀貨1枚(途中で宝を見つけたが酒代とツケでほぼ消えた)
「いや、よく頑張ったよお前ら」
腕組みしながらしみじみと語るリーダーこと俺。
稼ぎは銀貨0枚(ただし美味いパン屋のメモは潤沢になった)
「だが、ハッキリ言って状況は厳しいな、うん」
まるで他人事のように、重々しい顔で頷く俺。
その言葉に、うなだれていた二人が弾かれたように顔を上げた。
「…いえっ!まだ分かりませんよっ!!きっとマスターなら…!」
「…ああ。そうさ。なんたってまだあんたの『策』が残ってるもんな」
そうだ。こいつらは、まだ信じている。
俺がこの一週間、部屋にこもって何かとてつもない逆転の一手を考えていたと。
「マスター!どうか、私たちに最大級の『叡智』をお示しください!もう、私たちだけでは…!」
「そうだぜ、リーダー!あんたが練ってたスペシャルな策ってやつを、そろそろ見せてくれよ!」
目に涙を浮かべ、袖口を破りそうなほど握ってくる眼鏡女。
耳と尻尾を荒立てながら、酒臭い息で迫り来る猫女。
どちらも目がマジだ。
(……まずい)
二人の期待に満ちた…いや、狂気に飲まれかけた視線。
「実は一週間ずっと昼寝してました」なんて、口が裂けても言える空気じゃない。
いや、言えばきっと裂けるだろう。
口だけじゃなく全身が。
どうする、俺。
どうやって、この場を切り抜ける…?
俺が冷や汗をだらだらと流し始めた、まさにその瞬間。
コン、コン、と。
宿屋の部屋のドアをノックする、場違いに上品な音が響いた。
訝しげにドアを開けると、そこにはやけに耳の長い金髪の女が立っていた。
「…やっほー」
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