表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

第十三話 果報はサボって待て

 異世界だらだら生活、9日目。

 つまりは釈放された翌日の昼のこと。


「というわけで、第二回・今後の金策会議を始める」


 宿屋の一室に響く、やる気のない俺の声。

 テーブルの上にはポルゾフとの取引で課せられた「金貨10枚、期限一ヶ月」という契約書の他にもう一つ、「銀貨5枚、ドアの修繕費」という宿屋の主人からの脅迫状まで並んでいる。

 

「が、頑張りましょうっ!マスターの叡智さえあればきっと何とかなりますっ!」


 両手の拳を握りしめ、気合だけは一人前のレムリア。


「…なー、酒飲んでいいー?景気づけに…ひっく」


 片手で酒瓶を握りしめながらアルコールに逃げ始めるベルナ。

 このどうしようもない三人でどうやって大金を稼ぐのか。

 それは俺にも分からん。


「とりあえず各自で案を出すぞ。まず眼鏡女から」

「はいっ!ここはまず初心に帰ってスライム狩りですねっ!思考を捨てて朝から晩まで倒し続けましょう!目標は1000匹っ!」


 ふんすっ、と鼻から息を吐きながら目を輝かせている。


 素晴らしい脳筋思考だ。

 お前は今すぐ魔術師を辞めて格闘家にでもなれ。


「よし、じゃあ一人で頑張ってくれ。次、猫耳女」

「ええっ!?わ、私一人でですかぁ!?」

「んー、アタシ?アタシはねぇ…」


 ベルナは何やら自慢げに、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「ふふん、これがあるのさ」

「なんだ、それ?」

「『大盗賊ザルガスの秘宝』の在り処さ。昔、とある貴族の蔵からちょいと拝借したもんでね。これさえ見つけりゃ金貨十枚どころの話じゃない」


 広げた地図にはこの街の周辺の地形と、一つの大きな×印が描かれていた。

 いかにも、な「宝の地図」だ。それっぽすぎて逆に胡散臭い。


「…ほう。いいじゃん、それ」

「だろ!?よし、じゃあアタシはこれで一攫千金といくからね!」

「あぁ頑張れよ」


 二人の意見が出揃ったところで、リーダーらしく腕を組んで頷いてみせる。


「よし、決まりだ。レムリアは地道なスライム狩り。ベルナは一発逆転の宝探し。二人ともそれぞれのやり方で、この状況を打開してくれ」


 よし、これで全員やるべきことは決まった。

 満足気に会議を終わらせようとすると、ベルナが訝しげな目で俺を見てくる。


「…で?あんたはどうするんだい、リーダー?」

「俺か?俺は――」


 数秒だけ考えたが何も思いつかないので、【最適化】スキルに優しく問いかける。


(【最適化】さん。【最適化】さん。俺のすべき行動を考えてね)


 すると脳内に浮かび上がる、無機質なポップアップメッセージ。


《最適解:何もしない》

(…だよな!)


 なんて主人思いの良いスキルなんだ。俺は内心でガッツポーズした。

 そして、まるで何か重大な天啓でも得たかのように、神妙な顔で語る。


「……俺は、練る」

「……は?」

「来たるべき時に備え、最大効率で動けるよう策を練る。たとえお前らの案が全部ダメになったとしても挽回出来るような、スペシャルな策をな」

「おぉ!?さすがですマスター!叡智の中の叡智を見出すのですねっ!」

「あ、あぁ…そういう事かい。アタシはてっきり『寝る』って言い出すのかと…疑ってすまないね」


 ベルナはいつの間にか構えていた短刀を仕舞い、愛想笑いを浮かべている。

 あっぶね。コイツ、もう少しで俺を刺そうとしてただろ。


「と、とにかく!そういうことだから一週間後に各自の成果を報告し合う!それまでは自由に動け!解散!」


 俺の号令を聞いた二人は、のそのそと自分の部屋へと帰っていく。

 バタンとドアが閉まったのを確認し、すぐさまベッドへとダイブした。


 勿論、策など練らない。

 ただ、寝るだけだ。



 こうして、地獄の一週間が始まった。


 レムリアは、真面目だった。

 来る日も来る日も、街の外の草原でスライムを狩り続けた。

 時には服を溶かす変異種に遭遇し、大事なローブを半壊させられるも苦戦の末に撃破することもあった。

 そのローブを他の冒険者に売れば金貨1枚と交換出来るぞと提案したら、無言で顔を殴られた。


 ベルナは、奔走した。

 宝の地図を握りしめて、意気揚々と街を飛び出した。

 しかし、辿り着いた彼女を待っていたのは、数十年は前に完全に掘り返されたであろう空っぽの石室と、壁に残された「残念でした、ノロマさん」というふざけた落書きだけだったらしい。

 焦りから夜に飲む酒の量は日増しに増えていった。


 そして俺は、自由だった。

 昼過ぎに起き、適当に薬草を採集しては、その金で焼きたてのパンを買う。

 街の広場のベンチで鳩にパン屑をやりながら、ぼーっとする。

 眠くなったら宿屋に戻って昼寝。

 夜は、ベルナが飲み潰れている酒場の隅で、人間観察。

 まさに、理想のスローライフだった。



 そして、運命の一週間後。

 宿屋の部屋で、第二回・金策会議成果報告会(という名の反省会)が開かれていた。


 テーブルの上には銀貨7枚。

 この一週間で俺たちが稼いだ成果の全てだ。


「うぅ…申し訳、ありません…マスター…。私の力では、これが限界で…」


 ボロボロのローブ姿のレムリアが、うなだれる。

 ちなみに彼女の稼ぎは銀貨6枚(ローブはこれで3着目)


「…面目ないね、リーダー…。アタシの持ってた地図もどうやら先を越されてたみたいでさ…。もう打つ手なしだよ…」


 人生の希望を全て失ったような虚無の表情で、ベルナが酒を呷る。

 稼ぎは銀貨1枚(途中で宝を見つけたが酒代とツケでほぼ消えた)


「いや、よく頑張ったよお前ら」


 腕組みしながらしみじみと語るリーダーこと俺。

 稼ぎは銀貨0枚(ただし美味いパン屋のメモは潤沢になった)


「だが、ハッキリ言って状況は厳しいな、うん」


 まるで他人事のように、重々しい顔で頷く俺。

 その言葉に、うなだれていた二人が弾かれたように顔を上げた。


「…いえっ!まだ分かりませんよっ!!きっとマスターなら…!」

「…ああ。そうさ。なんたってまだあんたの『策』が残ってるもんな」


 そうだ。こいつらは、まだ信じている。

 俺がこの一週間、部屋にこもって何かとてつもない逆転の一手を考えていたと。


「マスター!どうか、私たちに最大級の『叡智』をお示しください!もう、私たちだけでは…!」

「そうだぜ、リーダー!あんたが練ってたスペシャルな策ってやつを、そろそろ見せてくれよ!」


 目に涙を浮かべ、袖口を破りそうなほど握ってくる眼鏡女。

 耳と尻尾を荒立てながら、酒臭い息で迫り来る猫女。


 どちらも目がマジだ。


(……まずい)


 二人の期待に満ちた…いや、狂気に飲まれかけた視線。

 「実は一週間ずっと昼寝してました」なんて、口が裂けても言える空気じゃない。


 いや、言えばきっと裂けるだろう。

 口だけじゃなく全身が。


 どうする、俺。

 どうやって、この場を切り抜ける…?


 俺が冷や汗をだらだらと流し始めた、まさにその瞬間。


 コン、コン、と。

 宿屋の部屋のドアをノックする、場違いに上品な音が響いた。


 訝しげにドアを開けると、そこにはやけに耳の長い金髪の女が立っていた。


「…やっほー」

よければブックマークと☆評価を頂けると大変嬉しいです!

執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ