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第十話 第一回・今後の金策会議

 無事、ゴブリン討伐の依頼(横取り)を果たした日の夜。

 俺たちは報酬金を元手にギルドの酒場でささやかな祝杯をあげていた。


「やりましたねマスター!これで我ら『キ=タクヴ』も栄光の道を…!」

「はいはい、分かったから。ワインでも飲んでろ」


 興奮冷めやらぬレムリアを適当にあしらう。

 その向かいでは、今日の殊勲賞であるベルナが心底美味そうにエールを(あお)っている。


「ぷはーっ!くぅーっ、やっぱ仕事終わりの一杯は格別だねぇ!」

「お前さぁ。それで何杯目だよ」

「へへー、一度飲んだらかず数えられなくなったにゃー♪」


 都合の良い時だけ猫っぽく喋るな。

 割といい歳だろ、アンタ。


「マスターはお酒飲まないんですか?」

「ん、あぁ…別にいい」


 ここは異世界。そして俺は前世で既に死亡済み。

 ならば酒などいくら飲んでもお咎めなしだろうけども。


(うげぇ、ニオイだけでもう無理。ぜってー飲まねえぞ)


 生憎俺には酒を飲む適性が無いらしい。

 酔っ払いどものはっちゃけ模様を見ながら、葡萄汁をぐいっと飲み干す。


「そういうお前は意外と飲めるんだな、酒」

「はい!いくら飲んでも酔いません!物心ついたときから飲んでいたのでっ!」


 眼鏡女がキラキラとした瞳でとんでもない事を暴露してくる。

 うん。なるほどね。分かっちゃったよ。お前の頭のオカシイ理由が。


「ちぇっ、祝いの席だってのに安酒かい。もっとこう、ドワーフ族が作る『炎の酒(ボルカス)』とかさぁ。そういうのが飲みたかったねぇ」


 酔っ払い猫の一言が俺の耳をピクリと震わせる。

 そうだ。思い出した。


「はい、全員静粛に」


 俺はレムリアとベルナに向けてパンと一回手を打ち鳴らす。

 

「これより、『第一回・今後の金策会議』を始める」

「ふぇ?」

「会議ぃ?こんなめでたい席ですんのかい?」


 戸惑うレムリアと、不満げに口を尖らせるベルナ。

 そんな二人を無視して、俺は議題を告げる。


「議題は一つ。『ベルナの酒代をどうするか』だ。これを見ろ」


 そう言って俺は酒場のマスターに渡された羊皮紙をテーブルに置く。

 そこには過去一ヶ月分のベルナの酒代が赤文字で記されている。


「わ、わぁ…これは中々…」

「や、やめるにゃー!アタシの視力が悪くなっちまうー!」

「悪くなるのはマスターの胃の方だろうが、馬鹿猫。これ全部ツケだぞ?」


 ちなみに俺の顔はいつの間にかギルド内では知られているらしく。

 ベルナの飼い主だからと銀貨一枚分のツケを払わされた。何故俺が。


「ツケの分はまぁいい。そのうち返せるだろうし。問題は今後の酒代だ。このままじゃ俺たちの稼ぎは全部こいつの酒代に消える」

「うっ…耳が痛いね…」


 するとレムリアが「でしたら!」と、何かを閃いたように手を挙げた。


「もっと報酬の高い依頼を受ければいいのです!例えばオーガの討伐や、ワイバーンの巣の調査など…!それなら、ベルナさんの酒代を差し引いても十分な利益が…!」

「却下」


 俺は即答した。


「き、却下ぁ!?なぜですかマスタぁー!?」

「んな危険度の高い依頼は嫌だ。だるいし、死ぬかもしれん。俺はもっと楽に金が稼ぎたいんだよ」

「でしたら、私が新しい範囲攻撃魔法を習得します!3日ほど魔術図書館に篭れば、あるいは…!」

「却下だ。それが出来たらお前はこのパーティに存在してないだろ」

「む、むぅぅぅ~~~!? …そ、それはそうですけどもぉ~~!!!」


 頬を膨らませながら唸るレムリア。

 その横でベルナが、ニヤリと悪どい笑みを浮かべている。


「…じゃあさ、手っ取り早く、金持ちの貴族でもカモるかい?アタシの昔のツテを辿れば、ウブで金払いのいい坊っちゃまくらい、すぐに…」

「却下。誘拐したけりゃ盗賊ギルドに帰れ」

「ちぇっ、夢がないねぇ、あんたは」


 はぁ…。

 ポンコツ魔術師と、悪行思考のシーフか。


 どいつもこいつも、まともな案を出しやがらねえ。


(まったく使えねえな、お前ら…)


 心底うんざりしていた俺の頭に、ふと一迅の閃きが宿る。


「…お、そうだ」


 にやりと笑った俺の顔に、二人の視線が集まる。


「おい、ちょっと耳貸せ」

「な、なな…なんですかマスター…困りますよぉ、こんなところで…」

「耳は敏感なんだから大事にしてくれよ…もぅ…」


 馬鹿女二人のボケは無視して、テーブルの中央にぐっと顔を寄せる。

 三つの頭が、一つのテーブルに集まった。


 他の冒険者たちには聞こえないよう、悪魔が囁くようなひそひそ声で。

 俺は仲間に叡智を授けていく。


「(高い酒が買えなくて、金がなくなる…。なら、答えは一つだろ?)」


 そこで一度言葉を切り、二人の反応を見る。

 レムリアとベルナはまだ意味が分からず、きょとんとしている。


 いや分かれよ。面白みのない奴らだな。

 俺は気を取り直し、続く答えを呟いた。


「(買えなきゃ、作ればいい。…つまり、密造だ)」


 その一言を聞いた瞬間。


「ふぇぇぇぇ!?」

「……はぁ?」


 レムリアとベルナはまるで雷にでも打たれたかのように、同時に顔を上げて固まった。

 二人の間の抜けた声が、ギルドの喧騒に見事に溶けていく。


 そう、これこそ俺たちの輝かしいスローライフ計画の第一歩。

 名付けて――「密造酒で金策ウハウハ大作戦」だ。

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