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王族の少女ディア

街のざわめきの中、その少女はすっ飛ぶように二人の前に現れた。小さな体が軽やかに石畳を蹴るたび、リズムのある音が響き渡る。

瞬間の驚きの後、ミオは警戒心を解かずに目を細める。そんな彼女を横目に、ぽんと頭に優しく手を置き、シオンは自然と一歩前に出る。


ミオの警戒を感じてか否か少女は顔いっぱいに無邪気な笑みを広げ、目をきらきらさせながらシオン達に目を向けた。


「ねえ、君たち!人間だよね!?おもしろーい!」


返事を待つ間もなく少女はぴょんと跳ね、両手をぱたぱたさせながらさらに近づく。小さな体に反して、存在感は驚くほど強く、青く宝石のように澄んだ目の奥には強大な魔力の片鱗がちらりと見え隠れする。


「君が扉を開けたんでしょ!」

シオンに指をさしながらくすくすと笑う。


「扉のこと知ってるの!?えーっと……お名前。あ、私はシオン。こっちの可愛い子はミオ!」


少女は首をかしげ、興味津々で二人を眺める。ミオは少女の動きに警戒しながらも、体の硬直を少しずつ解いていった。少女から敵意は微塵も感じなかった。


「知ってるも何も……まぁいっか!よろしくねシオン、ミオ!あたしのことはディアって呼んでいいよ」


ディアは両手を胸の前で小さく握り、跳ねるように嬉しそうに笑った。その姿はまるで友達が出来て喜んでいる子供のようで、先ほどまでの警戒が馬鹿らしく感じる。


「扉のこと教えてあげるよ!でもその前に、せっかくだからあたしの城に遊びに来てよ!」

「いいの!?行きたい!」

シオンは目を輝かせ、嬉しそうにディアに駆け寄る。


「シオン様、扉より遊びに行くことが目的になっていませんか……」

ミオは、楽しそうに駆け出す二人の後ろでわずかに眉を寄せ、距離を保ちながら静かに追う。街灯や魔法結晶の青白い光が三人の影を石畳に伸ばし、柔らかな光が通り全体を包む。


ディアの足取りは軽く、まるで空気に乗って滑っているかのように見える。途中、街の魔族たちの視線が一斉に注がれるが、少女はまったく気にせず無邪気に笑う。その姿にシオンも目を細め、自然と笑みがこぼれた。

ディアは二人の周囲を跳ねるように歩き、好奇心たっぷりの瞳でじっと観察する。シオンは嬉しそうにその視線を受け止め、微笑みを返す。ミオは距離を取りつつ、慎重に二人を見守るように視線を巡らせていた。


街を抜けると、通りの喧騒は徐々に遠ざかり、静けさが支配するようになった。石畳の道に残る夜露が、街灯の淡い光に反射してきらきらと輝いている。魔法結晶の灯りは、まだ眠りの残る街並みを柔らかく照らし、建物の影を長く伸ばしていた。


シオンは小さく跳ねるように歩きながら、時折立ち止まっては路地の隅や空き地の様子を観察する。その瞳には好奇心と冒険心が溢れ、いつもの明るい笑顔が夜の静寂の中でも輝いていた。


ミオはその後ろを距離を保ちながら歩く。表情は変わらず冷静で、周囲の闇に潜む魔力の痕跡を細かく観察している。街から郊外へ抜ける道は舗装されておらず、石畳の間に草が生え、土の香りが微かに漂う。風が夜露に濡れた草を揺らし、かすかなささやきのような音を立てる。


やがて、ディアは胸を張り、小さな体をぴょんと弾ませると、城への道を指さした。

「あの森を抜けるとすぐ見えてくるよ!あたしの城!」


二人が森の縁に差し掛かると、湿った土の匂いと木々の息づかいが強くなり、静寂が一層深まった。枝葉は月明かりを受けて銀色に輝き、風に揺れるたびに微かな光の斑点が地面に落ちる。シオンは小さな手で枝をかき分けながら、楽しそうに歩を進める。


森を抜けると、やがて丘陵地帯に出る。緩やかに広がる草原の向こうに、淡い青白い光を帯びた城壁が見え始める。王国の塔が月光に反射してきらめき、空気に漂う魔力の波がかすかに振動として伝わってくる。


「あれがあたしの城だよ!凄いでしょ!」

「凄い……!」

シオンは目を輝かせ、うれしそうにディアに駆け寄る。


城門をくぐると、眼前に広がるのは想像を超えた光景だった。高くそびえる城壁は、灰色の石材に精巧な魔法陣が刻まれ、魔力を帯びて淡い青白い光を放つ。光は壁面を伝ってゆらめき、昼の陽光や夜の月明かりと混ざり合い、城全体が生きているかのように見える。通路沿いには美しい噴水や石造りの彫像が配置され、そこから漂う水の音や微かな魔力の波動が、静謐さと神秘性を一層際立たせていた。


「綺麗……」シオンの声が、思わず漏れる。目を丸くして周囲を見渡すその様子は、幼い好奇心そのままに弾けていた。


ディアはぴょんと跳ねるように前に出て、二人を先導する。小さな足取りなのに、城の広い大理石の廊下を軽々と駆け抜け、周囲の魔力の流れを敏感に感じ取る様子は、まるで長年この場所に暮らしてきたかのようだ。


「こっちだよ、早く!」


廊下の天井は高く、アーチ型の梁には細かい魔法紋が刻まれている。光がその文様に反射してゆらめき、歩くたびに壁や床に微かに青白い光が揺れる。石畳の床は滑らかに磨かれ、足音が心地よく反響する。


ミオは後ろから二人を見守りつつ、目を細める。柔らかくも強い光に包まれたこの王国の空間は、警戒すべき魔力が散在していることを示しているが、同時に厳格な秩序と威厳をも感じさせる。


やがて広間に出ると、巨大な窓から差し込む光で室内の装飾がきらめく。壁一面には王国の歴史を描いたタペストリーが吊るされ、光が刺さるように色彩を浮かび上がらせている。床は大理石で覆われ、その上には精密な魔法陣が所々に刻まれており、魔力の流れを誘導するように配置されていた。


窓の外には庭園が広がり、噴水や池に反射する光がまるで星のようにきらめく。整然と並ぶ樹木の間を縫うように小道が続き、時折、魔力を帯びた植物が微かに光を放っていた。鳥や小動物の鳴き声は聞こえないが、庭園全体から生命力を感じる。シオンはその光景に目を輝かせ、思わず息を呑む。



ディアは小さく跳ねて、シオンとミオを案内し始める。その先々で小さな光の玉が浮かび、足元を照らす。魔力の反応で導かれるように配置された光景は、ただ美しいだけでなく、王国が長い年月をかけて築き上げた秩序と威厳を象徴していた。


シオンはディアを追い、時折振り返って微笑む。ミオは距離を保ちながらも、目はしっかりと二人を追い続ける。その瞳には警戒と冷静さが宿り、誰も予想できない出来事に備えていることがわかる。


王座の間に到着すると、中心には巨大な王座がそびえ、背後には壁いっぱいに複雑な魔法陣が刻まれていた。魔力が空気中を渦巻き、微かな振動となって床に伝わる。シオンは息をのんで立ち止まり、ディアを見上げる。


「シオン、ミオ!ようこそあたしの城へ!」


ディアは無邪気に笑い、両手を広げて二人を迎え入れる。その小さな体に宿る、無邪気で大きな存在感が、空間全体に明るさを与えていた。

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