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王族

ミオが目を覚ますと、部屋にシオンの姿がなかった。カーテンを開けると街から注ぐ街灯の柔らかな光は魔法結晶の淡い青白い輝きに溶け込み、部屋全体を穏やかに照らしている。

彼女の姿は見えないままだが、不思議とミオは不安を覚えなかった。


「きっと、街で食料でも調達しているんだろう」

自然にそう思うと、焦ることもなく体を起こした。昨夜の緊張と疲れはまだ残っていたが、心は少し軽かった。布団から起き上がり、窓の外の街並みを眺める。石畳の通りを行き交う魔族たちが、淡く輝く魔法結晶の光を浴びながら忙しそうに動き回っていた。


「おはよう、ミオー!」

声がした方を見ると、予想通りの姿でシオンが帰宅していた。両手に山のように抱えた食料を携え、顔を輝かせている。野菜や果物、パンに乾燥肉、魔界特有の香辛料まで揃っており、その量に思わず目を見張る。


「……一応シオン様も寝起きですよね」とミオは苦笑しつつも一安心する。


二人は簡単に朝食を済ませ、パンや果物を頬張りながら、これからの行動について話し合った。


「扉のこともう少し詳しく知りたいですね」

ミオは慎重に言う。

「魔族に聞いても、扉はいつ現れるか、どこにあるか誰もわからないみたいですけど」


「そうだね。とりあえず街を歩いてみようか」

シオンは口元に微笑みを浮かべながら、淡い魔力で食器を整える。二人の間には、昨日とはまた違った落ち着いた空気が流れていた。


食後、宿屋を出て街を探索することにした。通りには商人や子供たち、労働者の魔族たちが活気をもって行き交い、各店の看板からは不思議な香りが漂う。石造りの建物に施された装飾や尖った屋根、螺旋状の柱を眺めながら、二人は街の様子を観察した。


道を歩くと、空気に混ざる香辛料の匂いや、鍛冶屋の火花の熱さが肌に伝わる。広場では子供たちが石畳の上でかけっこをし、歓声が小さく跳ねる。時折、壁の装飾から魔力の淡い光が漏れ、影を揺らしながら通りの端まで伸びている。


通り沿いの店には、見慣れない果実や香辛料、革細工や魔術用品が並び、どれも人間の感覚では異質に見える。ミオは一つ一つ眺めながら、ここに暮らす魔族たちの文化や生活を想像する。

市場の雑踏を抜けると、路地の奥には小さな広場があり、そこでは音楽が流れていた。魔族の楽器は見たことのない形状で、弦や管から柔らかくも鋭い音色が響き渡る。ミオはその音に耳を傾け、心が少し軽くなるのを感じた。音楽が、街の活気と人々の生活を一層生き生きと映し出しているようだった。


歩き続けるうちに、通りに設けられた看板や装飾が次第に複雑さを増していく。扉や窓には細かい魔法陣のような文様が刻まれ、光に反射して微かに輝く。その光景は、街全体が一つの生きた魔法装置であるかのようで、ミオは思わず息をのんだ。


その時、探索を続ける二人に、突如ざわめきが押し寄せた。広場の方から歓声と足音が混ざる大きな音が響き、人々の視線が一斉にある一点に向けられる。


「…何があったのでしょう」

ミオは耳を澄まし、シオンを一瞥する。


「ミオ!王族が街に来るんだって!」

シオンは目を輝かせながら答える。

「何か知ってるかも!」


二人は人混みに紛れて王族の到着を見に行くことにした。人々の波に混ざりながら慎重に広場へ向かうと、護衛の鎧が光を反射し、緊張感が空気に漂っていた。


やがて、広場の中央に現れたのは、想像以上に小さな存在だった。しかしその小柄な体の背後には、凛とした威厳が漂う。肌は人間のような白さで、顔立ちは整っている。頭部には大きく曲がった二つの角が生えており、それが小さな体に不思議な重みと存在感を与えていた。護衛たちは鋭い目を光らせ、少女を守るように周囲を固めている。


「あの子ですよね……?」ミオは息をのむ。幼い体ながらも、王族特有の気品と威厳を纏い、周囲の魔族たちも畏敬の念を持って接している。


シオンは目を輝かせて囁く。

「可愛い!!なんとか話せないかな!?」

「あの護衛の数見てくださいよ!話す前に捕まる方が早いですよ!!」


少女は広場の中央で群衆を見渡すと、軽く手を振り、周囲の魔族たちから声援があがった。

その様子が一頻(ひとしき)り続くと少女の鋭い目は群衆の中を探り、徐々に一点に定まる。その視線が、偶然にもシオンとミオのいる位置に重なった瞬間、少女の顔にぱっと無邪気な笑顔が広がった。


「いた!!」

少女は大きく、確信に満ちた声で叫ぶ。


「……え?」

ミオは表情を強張らせながらもその輝く小さな瞳から目を逸らせず、シオンの袖を2回程引っ張る。

もはや彼女の顔を見る必要すらないだろうとミオは感じていた。どうせ大きな目を輝かせて笑っているのだから。


「ミオ!なんかわからないけど話せそう!!」

シオンは嬉しそうに笑っていた、ミオもまた胸の奥で小さな期待と緊張を感じていた。


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