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第一夜:どんな事態もあなたが一番

やばいやばいやばい!

ライブステーション、通称Lステの放送開始時刻がこく一刻と迫っている。私は唯一の武器である身体能力を活かし、過去最高速度を叩き出すほどの速度で風を切りながら全力疾走していた。

この角を曲がったら自宅だ。そう思いコーナーをきる。次の瞬間、私の目の前を大きな影が覆った。


◆◆◆◆◆


目を開けるとそこは住宅街ではなく、真っ白で何も無い空間。

「痛っ…」私は上半身を起こし、ズキンと痛む頭をさする。

「大丈夫ファプ?」

声のする方に目を向けると、見たこともないふわふわもこもこの球体のような生き物がプカプカと宙を舞っている。私は無意識に後ろに下がった。

「な、なに…?うさぎ…なわけないか。浮いてるもんね。」

「ファプはファプファプ!」

「ファプ…?それがあなたの名前?」

「そうファプ!夜月(よづき)、会いたかったファプ〜!」もこもこの球体、自称"ファプ"は何故か私の名前を知っていた。

「なんで私の名前を…まあいっか。とりあえずよろしくね、ファプ。」

そういうとファプは私の頬に、ふわふわなその体をすり寄せた。

「ファプ、ひとつ聞きたいんだけど、ここはどこ?」

「ここは生と死の狭間ファプ!」

「生と死…。え、生と死?!どういうこと?!」

「夜月、目を覚ます前のことを覚えてないファプか?」

目を覚ます前…

「ああ!!!Lスタ!!!Lスタは?!」

「もうとっくのとうに終わってるファプ。」

ファプの悲しすぎる知らせに私は我を忘れてうずくまった。

「そもそも私、家に着いてなくない?なんか急に視界が真っ黒になって、そこから記憶が無い気がする…。」

「正解ファプ!夜月はトラックに轢かれて、今は虫の息ファプ!」

トラックに轢かれた?虫の息?

「はああああ?!?!ファプそれ本当に言ってんの?!」

私はファプを掴んで前後左右に振り回す。ファプもさすがに驚いたようで「や、やめてファプ…」という小さな声が聞こえた。

「あっ、ごめんね。想定外のこと聞かされて動揺しちゃった…」

「大丈夫ファプ…。これに関してはファプも悪いファプ。本当は夜月が角を曲がる前に声をかける予定だったファプ。そのタイミングを忘れてしまってたファプ…。」

「うーん…よく分かんないけどそうなんだ。でも轢かれちゃった事実は変わらないもんね。」

私は走馬灯のように生を受けた日から今日までの16年間を脳内で再生した。


ママ、パパ、ばぁちゃん、じぃちゃん、推し活同盟のあっこ、腐れ縁の幼なじみの宇宙(そら)


あぁ…どうせ死ぬなら"朝日零史(あさひれいじ)のために"この命を使いたかった…


「それは本当ファプ?」


うん、本当。ライブ中に謎の襲撃が起きた時に身を呈して零史を庇う妄想なんて10回じゃきかないよ。


「じゃあ夜月は零史にその命、くれるファプ?」


もちろん!なんならもう私は授けたつもりだよ。


「良かったファプ!その言葉を聞きたかったファプ!これで夜月はまだ死なないファプ。ファプ、嬉しいファプ〜!」


「え、待って、それどういうこと?」


◆◆◆◆◆


「ファプ!!!」

私はファプの名を叫んだが、あたりは病室だった。腕が痛いななんて思って視線を落とすと、腕には沢山の管がつけられていた。しかも腕だけではなく、全身に。

「夜月…夜月!」

左の方を見ると母がぐしゃぐしゃの顔で私を見つめている。

「ママ…私、生きてるの?」

「生きてる…生きてるわよ…。せ、先生呼ばなきゃ、待ってて。」

母は足を震わせながら先生!と叫びながら部屋を飛び出した。

私は病室を見渡すと、日めくりカレンダーが目に付いた。カレンダーには「2025/7/8」と書かれている。7月8日…8日…


「ああああ!!!七夕ライブ、過ぎてんじゃ〜〜〜ん!!!!!」


1ヲタクの叫びは病院中に響き渡る。


これからの使命も、運命も、まだ知らない私は、七夕ライブに行き損ねたくらいどうってことなかったということに気づくのはもう少し先の話である。


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