8、我が人生に悔いなし
隕石の落下は阻止することが出来ず、日本海に落下した。
大きな津波によって島は甚大な被害を受け、人が住める場所では無くなった。
三人が後世に残したタイムカプセルは緒方瑠海の母、刑務所で暮らす緒方成美の下へと届けられた。
外の世界とは異なり、変化のない日常を送っていた成美は最初、自分事とは思えず、他人事のような心境でタイムカプセルを受け取った。
「緒方瑠海、森崎篝、内田悟志、三名の遺書が入ったタイムカプセルに記されていた森崎篝、内田悟志の親族とは連絡が付きませんでした。よって、あなたにこれを託すことになりました。どうぞ、お受け取り下さい」
スーツ姿の女性が感傷もなく淡々と説明をした。
まるで実感のない言葉に一瞬、成美は身体が硬直し、受け取った情報を頭で整理することが出来なかったが、黙っているとすぐに立ち去ってしまうことを察して、何とか口を開いた。
「島に残っていた人の安否は……?」
このタイムカプセルを埋め、島にまだ残っているはずの娘の姿が目に浮かび、冷静な思考を取り戻した成美。
だが、突き付けられた現実は希望の欠片もないものだった。
「ありません。島は推測通りに隕石落下の衝撃を受け、崩壊しています。
被害は本州にも発生しています。テレビで放送されている通りです。島の居住は数十年は難しいでしょう」
「そうですか……ご苦労様です」
息が詰まるような時間が終わり、また一人になった成美は恐る恐るタイムカプセルを開けた。
沢山の手紙や写真がいっぱいに詰められ、そこには三人が確かに生きた証が込められていた。
(そう……私が先に手放したはずなのに……。
これがあの子なりの仕返しなのかしら)
遺書を除き、唯一自分のために残したであろう遺留品。
娘の卒業式に撮影してもらった二人で写った卒業写真を手に取る。
後悔しても遅いにもかかわらず、成美はもう、忘れようとしていたのに、今になって娘に会いたい願望が胸の奥から溢れ出してきた。
「どうして逃げようとしなかったの……。
これも、私のせいなのかしら。
今更、確かめようがないけれど……」
タイムカプセルの表面に彫られた三人の名前。
そこに刻まれた、RUMI OGATAという名を目にしながら、成美は会いに行きたくても、もう会いに行けないことを悟った。
成美はもう一度、写真を手に取り、裏返した。
そこには「我が人生に悔いなし」と、成美がよくスナックで唄っていた曲名が力強く書かれていた。