6、タイムカプセル
明くる日、ついに隕石が落下する当日を迎え、誰もいない島の中で私はすることもなく、もうすぐ隕石落下を迎えることを伝えるニュースを聞きながら時間を浪費していった。
緊急事態宣言が発令された頃を思い起こさせる報道。
それに加え、終末を感じさせるほどに情報バラエティー番組は軒並み中止になり、どうすれば生き残れるか、信用度不明の行動規範を繰り返し報じていた。
予定時刻が刻一刻と近づいて来る。
死刑執行を待つ死刑囚の心境とはこういうものなのだろうか。
そんなことを考えていると、朝から遠くに行っていた二人が戻って来た。
篝が艶っぽくすっきりした表情をしていて、きっと気が済むまで快楽の限りを尽くしていたのだろうと想像できた。
経験のない私にはそこまで夢中になれる程に性交が素晴らしいものなのか理解しようがなかった。
「どうせすることもないからさ……タイムカプセルでも作ろうと思って」
悟志がそれっぽいカプセル状の容器を手にしていた。
小学校時代の卒業の際にタイムカプセルなるものを埋めた経験はあるが、一体何をその時に埋めたのか、全く記憶になかった。
私には残したいものはなかったが、二人が悔いを残さないようにするためにも付き合うことにした。
「いいよ、穴掘りすればいいんでしょう? 手伝うわ」
「よかった。何もせずにいるのは落ち着かなくて、緒方が手伝ってくれるなら助かるよ」
さっきまで私よりもずっと幸福な時間を送っていたはずの悟志の方がずっと悲しそうな顔をしている。それがまた覚悟を決めていた私の心を掻き乱してくる。
想像は付いていたけど、二人は私を最後まで楽にさせてはくれない。
胸が苦しくなりながら、私は二人にこの気持ちが覚られぬよう平静を装った。
ラジオの電源を切り、組み立て式の椅子から私は立ち上がり、二人から具体的な説明を聞いた。
まずはそれぞれが家族や友人宛に残したいものをカプセルに入れていく。
二人と違い、男たちに残っていた財産を全て渡してしまった私は、テントの中に飾っていた写真だけを二人に託した。
丘の上で出来るだけ深くまで穴を掘り進め、何とか隕石落下一時間前に作業を終えた。
かなり奥深くにタイムカプセルは埋めることが出来た。
恐らく、隕石落下の衝撃にも耐えることが出来るだろう。
「もうすぐ隕石が落ちてくるのに……今が一番楽しい。
ずっと、こんな風に三人で過ごしたいって思ってたのかな」
達成感に満ちていた表情をしていた篝も、段々と近づいてくる終わりを感じたのか表情を曇らせた。
「都会人みたいなことをいうね。
私は誰にも邪魔されず死にたかっただけだよ」
正直に言えば望んでいたことと違い、冗談みたいな結末だ。
でも、二人がいてくれたおかげで、もうすぐ死ぬという実感が薄れているのは確かなことだった。