5、思い出の中の母
私はどうしようもない結末を悟りながら、母との思い出を振り返った。
私の母親は島の中でも有名なスナックのママだった。
幼い頃に父親を亡くし、家族二人で生きて来た。
店は毎晩のように陽気なお客さんがやってきてくれるおかげで賑やかで、私もまだ小さい頃から手伝った。
騒がしい毎日だけど、それが当たり前のことだと思ってきた、大人になるまでは。
夫を亡くし未亡人となった母親は私の知らぬところで島の男性と肉体関係を持つようになり資金援助も受けるようになっていた。父が存命の頃はそんなことはなかったらしい。
その傾向は段々と目に余るほどエスカレートしていき、私が高校三年生になった頃、ピークを迎えた。
島のほとんどの成人男性と関係を持っていると噂されるようになり悪評が目立つようになった母親の下には脅迫まで届くようになり、ついには客足が遠のいて行ってしまった。
母親は意固地になり男たちに貰ったプレゼントの代金や借りたお金を返すことなく、男たちの家族からの訴えにも耳を傾けず逃げているばかりだった。
そんな日々が続き、事態は深刻になり、母親は居場所を失くしていくと、一年前、ついに夜逃げをして島の外に消えてしまった。
母親が失踪してから天涯孤独となり、私は篝の家でしばらく暮らすが高校卒業後は一人実家で暮らしている。
これ以上、篝の家族にも迷惑を掛けるわけにはいかなかったのだ。母親の代わりにお金を返すように言われる毎日に、心に闇を抱えて就職することなく無職となってしまっていたから。
昨日、説得にやって来た篝に私は自分の気持ちを話した。
きっと、ずっと鬱屈した思いを抱えてきて私自身も限界だったからだろう。
「私は母親が悪人だったのかどうかなんてわからないの。
だって私は母親のように島の大勢の男性と肉体関係を持ちたいとは思わない、母のようになりたいだなんて思わない。でも、スナックに来ていた男性達はいつも陽気で楽しそうにお酒を飲んでお母さんと話してた。
私には何が正解なのかなんて分からない。
母親の全てが間違っているというならそれでもいい。
でも、居場所を失うくらい追い詰められてお母さんも苦しんでた。
だから、私は島の人のことも恨んでる、この世界からいなくなってくれたらいいのにってくらいに。
だから……私はここを離れることは出来ないよ。
一緒に避難して生き残る確率の高い方を選ぶことは出来ないの。
私が望むのは、私だけがいない世界か、島の人間がいない私だけがいる世界だから」
話し終えた時、篝は私の言葉に圧倒されたのか悲しい表情を浮かべ、何が正解なのか回答を出せない様子だった。