3、道連れの同志
「懐中電灯を消して! バレないようゆっくりだよ」
「もう他に島の人はいないんだから……そんなことしなくても」
しばらくして、私はテントの外からの妙に聞き覚えのある男女の話し声が聞こえたところで目を覚ました。
時刻を確認すると、既に最終避難時刻が終わっている時間だった。
私は命を粗末にする危機感のない馬鹿なやつもいたものだと思いながらテントから身体を出した。
そこにいたのは、森崎篝と内田悟志。
二人とも、同じ島で暮らしてきた同い年の幼馴染だった。
「あんた達、まだ残ってたの……」
「だって、瑠海がここに残るって無茶苦茶強情な事ばっかり言うから、一人にしておけないよ!」
「馬鹿だよあんた達、もう最終避難は終わってるんだよ……。
内田も篝も、その意味が分かってるの?」
「分かってるよ! だから何度も止めようとしたんじゃない!
何も分かってないのは、瑠海の方だよ!」
声を荒立てる篝。私もつい冷静さを欠き、何度も繰り返してきたやり取りにもかかわらず言い返してしまう。
隕石落下までこの島に船がやって来ることはもうない。
私とは違い、一緒に暮らしている家族もいる二人が取り返しのつかない判断をしてしまったことは明白だった。
それは若さゆえの過ちと言い捨てるには、あまりにも受け入れがたい選択だ。
私は隕石の落下によってこの島にも甚大な被害が発生すると報道されてからこの島に残ることを考え始め、いよいよ避難が開始されてから一人誰にも見つからないところに隠れて最期を迎えることを決めていた。
しかし、そんな私のことを篝は何度も止めようとした。
昨日も私が遠く離れた場所から船に乗り込む島民を見ていると篝はすぐそばまでやって来て大きな声を上げて一緒に避難することを訴えてきた。
でも、私の決意は固かった。
どれだけ篝に説得されても、自ら決めた運命を受け入れる覚悟でいたのだ。
全てが終わってしまった後でも感情的になって堂々巡りをしてしまう。
何て人は愚かなのだろう……。
二人の決断を非難する言葉が止まらなかった。
「何でここに来たのよ……。
内田……あんたはこれでいいの?
どうして篝を止めてくれなかったのよ」
「もちろん止めたさ。でも、絶対に一人にはさせないって。
だから、仕方なかったんだ……」
「あんた達……家族には何て言い訳したのよ……」
「家族になんて言ってない。言っても反対される、むしろ拘束されるって分かってたから」
「それが分かっていて、どこまで馬鹿なのよ……あんた達は」
私は呆れてその場に座り込んだ。
声を荒げたってもう何も変わらない。
ただそれだけは分かっていた。
きっと、今頃二人の家族や友人は必死に二人のことを捜していることだろう。私のせいで道連れになってしまった二人のことを。
「早く、謝ってきなさいよ。
死ぬ覚悟が出来てるって言うなら、それくらい出来るでしょ」
吐き捨てるように私は言った。
愛してくれている家族がいるのなら、そうすべきだ。
一番愚かな私でもそれくらいは分かる。
「うん……でも、後悔するつもりはないよ。
最後の一秒まで、瑠海と一緒にいるつもりだから」
強情にそう言って、少し距離を取って切っていたスマホの電源を付けて触り始める篝。
一緒に手を繋いでいる悟志は泣き出しそうな表情で辛い顔を隠せずにいるようだった。
きっと、悟志はこんなところで死にたくないのだ。
もっとたくさん、篝と一緒にいたいのだろう。
それが痛いくらい私には分かった。