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2、ただ一つの私の誇り

 20XX年、突如として軌道変更を起こし、地球に向けて落下コースを向ける小惑星が発見された。

 小さな隕石であれば地球に落下しても大きな危機を引き起こすことはないが、今地球に接近している小惑星は落下時、最大直径一キロを超える可能性があると報じられた。

 世界各地の観測所からの正確な観察が続けられる中、衝突まで一か月以内であることが発表され、世界は混乱の渦に巻き込まれることになった。

 これまで続けられてきたどんな予言も裏切る、残酷な運命。

 それでも、人々は救いを求めて生き残る方法を模索した。


 隕石落下まで二週間を切り、日本海海域への落下コースがほぼ確実となる中、本州から離れた隠岐諸島に暮らす人々は本州への避難が勧告された。


 地震や津波になどの影響は朝鮮半島や台湾、日本全土にも及ぶと推測され、海外への避難渡航やシェルターへの避難が進む中、私は島に残り続けることを密かに決めた。


 自力では移動できない高齢者などの強制避難へと事態が切り替わり、島から人の気配がなくなっていく。


 そして、最終避難が完了する衝突前日、私は静かな丘の上にやって来た。

 ここまで来れば、追い掛けて避難するよう訴えかけて来る輩もいないだろう。

 キャンプ用品が一式詰められたリュックサックをその場に置き、組み立て式のテントを張る。十分に今日まで予習を繰り返してきたため、たとえ一人でも手間取ることは微塵もなかった。



 私はここで一番綺麗な夜明けを観測して、生を終える。

 自暴自棄になって自死を求めているわけではない。

 これでも自分自身を素面(しらふ)であると自負している。

 もしかしたら、別の世界に転生することができるかもしれないが、そんなことに期待を抱くほど、私は子どもではなかった。

 

「元気にやってんのか、母さんも……」


 テントの中に入り、照明をつけるとリュックサックに入れていた母と私が写った写真の入った写真立てを置いた。

 まだ記憶に新しい母と撮影した卒業写真。

 奇異な目で見られることに耐え、逆境の中を生き抜き高校卒業を迎えることが出来たのは、ただ一つの私の誇りだ。


 後は終わりを待つだけ……。

 私はその場で寝転がり、瞳を閉じた。

 少し興奮していたのだろう、胸の鼓動を強く感じた。

 段々と落ち着きを取り戻し、睡魔が襲ってくる。

 

 無事に一人になることの出来た私は眠りに落ちた。


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