1、最終避難勧告
とにかく隕石落下というテーマで想いを全部詰め込んでみました。是非楽しんでくださいませ。
――終わりはある日、いつも唐突にやってくる。あの時もそうだった。母が私を捨てた、あの時も……。
島根県にある、本州から離れた日本海に広がる隠岐諸島。
神の宿る島とも呼ばれるこの場所で私は生まれ育った。
地元住民の中では隠岐国と呼ぶ人もいるこの諸島は豊かな自然の風景と共に、今でも多くの神社や仏教寺院が残されている。
サイレンが鳴り止まない島の中で私は一人、孤独を貪るように森の中を歩いた。島の人から避けられている私をわざわざ探して引き留めに来る人はいないだろう。そう思いながら人の目の届かない場所を目指した。
虚しいことに、世界はあっけないほどに騒々しく終わろうとしていた。
正確には天変地異などが起きて一夜にして世界が滅びるわけではない。
当然ながら、全長100mを超える巨神兵が世界を破壊して回っているわけでもない。
ただ…私が一人、最終避難勧告を無視し、島の外に避難をすることを拒絶して島に残ることを選んだに過ぎない。
――最終避難時刻が迫っています。島の住民の皆様は直ちに避難をお願いします。島の外に出るための船が港に停泊しています。
まだ間に合います。隕石落下に備えて避難願います。
何度も繰り返される、避難を呼びかける女性のアナウンス。
最初は危機感が伝わるような市長の呼びかけだったが、混乱を避けるためか気付けば録音された女性の音声に変わっていた。
森を抜けると優しい風が吹き抜ける丘の上に辿り着いた。
ハンカチで汗を拭い、風で流される髪を抑えてゆっくりと丘を登って行く。
丘の上までやって来ると、流石にスピーカーから流れる音声が聞こえて来ることはなく、まるでもうすぐこの島が住めなくなるほどの滅びを迎えるなど信じられないほどに、穏やかな空気に包まれていた。
「楽しみだね……お母さん。やっと、この島の呪縛から逃れられるよ」
この島が滅びる諦観と共に異様な解放感に包まれていき、私は堪らず笑いが込み上げてきた。
私の名前は緒方瑠海、去年まで高校生だった十九歳の無職だ。たった一人の家族だった母がこの島を離れて行方不明になり半年が経つ。
あの日から私はずっと一匹狼だった。
母は私に一生かけて使い切れるか分からないくらいの財産を残していなくなったが、そのお金はほとんど手元にはない。
だけど……そんなことはもうどうでもいいことだ。
だって、空から落ちる隕石の落下によってこの島も私の人生も同時に終わりを迎えるんだから。