俺が彼氏(1)
「そう!だから頼むって~。半日だけ真奈ちゃん貸して!」
「断る」
仕事帰りに宏樹に呼び出された俺は現在彼の自宅にいるわけだが…。
「そうま~…何も一生って言ってるんじゃないんだぞ。たったの半日でいいから真奈ちゃんを俺の彼女役として貸して欲しいんだよ~」
「だから無理だと言っている。せっかく怪我も完治したのにまた病院送りにされたいのか?」
「そうまの鬼っ子~!」
俺が宏樹宅に来てからの一時間、ずっとこの要求を断り続けている。
「だいたい女の告白に中途半端な返事をするお前が悪い。今回は何て言ったか知らないが断るとなると毎回そうじゃないか。いい加減学習したらどうだ?」
「う゛…。そ…それはその…。でも今回はちゃんと伝えたつもりだぞ!」
はあ…。
まったく。
容姿端麗な宏樹は昔からよく告白をされる。
宏樹の見た目だけで近付く女もいれば、こいつの人懐っこさに母性本能をくすぐられた女もいた。
モテるのはいいが俺の知っている限りでは宏樹の断る時の返事はあまり良くない。
『今は付き合う気はないけどもっと仲良くなりたい』
人を悲しませたくない気持ちが強い宏樹だからこそのアフターケアを含んだ言葉なのだが、モテる男がフリーの状態でそんなことを言えば大抵期待してしまうだろう。
はっきり付き合えないと言えば少なからず相手を傷付けることになるが、中途半端な優しさほど残酷なものはない。
「そもそもなんで彼女役が必要なんだよ。」
「いや~…今までの返事はあまり良くないって反省してさ、今回は彼女がいるからごめんって言ったんだよ。そしたら―――」
『成島君は優しいから私が傷付かないように嘘ついてるんでしょ…。彼女がいるなんて…そんな素振りなかったと思ってたのに…。…私!成島君に本当に本命の彼女がいるのか自分の目で確かめたい!』
「―――ってさ。本当に俺に彼女がいるなら潔く諦めるって言って彼女は去ったのさぁ」
「お前は嘘が下手だからな…。だからってなんで真奈なんだよ。」
それはねーと言いながら冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し俺の前にそっとそのうちの一本を置いた。
…こいつ、俺を酔いつぶして了承を得ようとしているんじゃないだろうな…。
「おい、俺は車で来たんだから飲めねえよ」
「ん?まあいーじゃん。俺ん家に泊まってきなよ、そうちゃん♪」
「泊まらねえよ。俺は明日も仕事だ。それに真奈もお前の彼女役には絶対させねえ。」
こいつのマイペースっぷりに段々苛立ってきた俺はさっさと帰ろうと立ち上がった。
「ちょっそうま!泊まらなくていいから!五分だけでも話しを聞いて!俺、お前に謝らなきゃなんないことあるんだよっ」
宏樹が謝らなきゃいけないことが何なのか…嫌な予感しかしない俺は一刻も早くこの男の家から出たかったのだが、俺の腰にしがみつく赤茶頭によってそれは叶わなかった。
「てめ、離せ宏樹っ」
「いやだ!離したら俺を殴ってでも帰るだろ!?とにかく聞いてくれ!俺っ…実は真奈ちゃんには彼女役の件でOKもらってるんだ!
あとはそうの許可だけなんだ!お願いですお父さん!真奈ちゃんを俺に下さい!」
「お前に父さんと呼ばれる筋合いはねえし真奈は誰にもやらねえーっ!!」
俺はこの時初めて親友に殺意が芽生えた。