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俺の友人(3)

―――――――――――――――――


「お前さ、バイクもいいけどそろそろ彼女を作ったらいいんじゃないか?

ツーリングの相手がいた方がお前も倍楽しめるだろ?」


「…と…とりあえず今は…骨折と顔面及び頭部損傷…心の傷他多数の治療に善処したいなあぁ…」


うぅぅん…としきりに唸る宏樹の口からは今にも出てはいけないものが天を目指して出ていきそうである。


一応言っておくが、いくら相手に非があったとしても怪我人相手に本気で殴ったりはしない。

宏樹はいつだって大袈裟なだけなのだ。


「…なあ、俺さあ…」


鬱陶しいくらいに唸っていた宏樹が急に唸るのを止めてぼんやりと話し出した。


「なんだ?…間違ってもバイクと結婚したいなんて言うんじゃねえぞ…」


「はぁ?何言ってるんだ。必ずしも結婚が愛の最終形態とは限らないんだからなぁ~。まだまだ青いねぇ、そうちゃんは」


ヤレヤレと呆れ顔のバイクオタク。

行き着く先も分からぬ最終形態を追い求めていくつもりなのか、お前は…


「お前と話してると心労で倒れそうだよ…」


「倒れるのか!?倒れるなら俺の腕の中で介抱してやるかんな!心置きなく倒れるがいいっ!さあさあっ」


両腕をガバッと開いて俺に倒れることを促す宏樹。

ノるのも面倒、ツッコむのも面倒。


「そういやお前に土産物持ってきたんだよ」


「っ!!見事にスルー!?…ふっ、さすが俺が見込んだ男なだけあるな。これからも精進するがいい~ハッハッハッ」


無視。


…と、ここで気が付いたことが一つ。

宏樹のお見舞い用にと買った物を持ってきていなかったのだ。

手ぶらだったことに何故今まで気が付かなかったのだろう。


…案外俺も間抜けだな。


「悪い…車の中に置いてきたみたいだ」


苦笑しながら宏樹に自分の失態を伝える俺。

宏樹にまたスルーしただのそうはドジっ子だのと言われると思ったが、返ってきたのは予想外な言葉だった。


「…もしかしてさ、そうが置いてきた土産って真奈ちゃんのリュックに入ってる?」


…何?…ああ!


「そうだ!土産は真奈のリュックに入れたんだ!」


エコバックならぬ真奈のエコリュック。

荷物がたくさん入るうえに両手がふさがらないとの理由で彼女は愛用している。

リュックを背負うと彼女の持ち前の幼さに拍車がかかるのだが、本人はそのことにいまだ気付いていないようだ。


…ん?

なんで宏樹がそんなこと知ってるんだ?

第一、真奈と一緒に見舞いに来たなんてまだ一言も言っていないはず…。


「宏樹、なんで真奈が一緒だって知ってるんだ?俺より先に真奈がここに来たのか?」


「いや~…ここには来てないんだけどさぁ…やっぱ真奈ちゃんか…。そう、ちょっとこっち来て外見てみ?」


…?なんだ、やっぱり真奈って。

…!まさかあいつに何かあったのか!?


俺が病室に来てからもう30分以上経つというのに真奈が来る気配がない。

いくらなんでも遅すぎるだろう。


俺の中を一瞬にして嫌な想像が駆けめぐる。

昼間の病院と言えど多くの人間が出入りする場所。

この物騒な世の中どこで何が起きるのか分かったものじゃない。


「っ!真奈!!」


「え!?ちょっ待てって!真奈ちゃんは元気だから!」


病室を飛び出そうとする俺を宏樹が慌てて呼び止める。


「誘拐とかされてないからそこは心配しなくて大丈夫だって~!とにかく外見てみって」


さっきから外見ろって何なんだよ。

しかもまた引っかかるような言い方しやがって…


チッと舌打ちをしつつ真奈を探すべくこの三階の病室の窓から外を見る。


そこはこの病院の中庭で、散歩をしている人や色とりどりの花壇の花を模写する人、この病院の三階には少し届かないくらいの背丈の木に登っている人などが目に入るが、肝心の真奈も手掛かりになるものも見つからない。


「んだよ…何もねーじゃねえか!」


「そんなピリピリするなって~。もう一度よ~く見てみ」


だいたい何で真奈が中庭にいるんだよ。

いくら方向音痴だからといっても外に出ることはないだろう。

まあ…念の為にもう一度中庭を見てみるか。


散歩をする人、模写をする人、木に登る人、それを見守る4~5人の子ども達。


…おい…まさか…。

いや、見間違い…だよな…。


そうであることを心から祈りながらもう一度目を凝らして見てみる。


散歩をする人、模写をする人、必死に木に登る俺の彼女、それを応援して盛り上がる子ども達。


「…んなっ!?何やってんだあの馬鹿っ!!」


「いやさぁ~俺が見てた限りではどうもあの子らの遊んでたボールが木に引っかかったみたいなんだよね。

それをたまたま見かけた真奈ちゃんがボールめがけてリュックを投げて落とそうとしたんだよ。」


なるほどね…。

見事ボールは落ちたが今度はリュックが枝に引っかかったというわけか…。


俺に勝手に挑んできたとはいえ勝負の真っ最中に人助け。

人一倍負けず嫌いの真奈、ボールを取ろうとすればその分時間がかかり負けはほぼ確定になることは予想できるだろう。


しかし困っている人がいるのなら自分のことは二の次にして手を差し伸べる、それが真奈だ。


「っつーかなんでもっと早く言わないんだよ!」


「だってさ~まさか木に登るなんて思わなかったんだって。しかもスカートでさ」


真奈ちゃんは元気だな~なんて呑気に言ってる場合じゃないだろ!

騒ぎを聞きつけて看護師達が集まってきたじゃないか!!


「~っ!!あの大馬鹿娘が!!」


「行ってらっしゃ~い」


急いで病室を飛び出す俺を呑気に手をヒラヒラさせて見送る宏樹。


あのおてんば娘…褒める前にまずみっちり説教だ!

覚悟してろ!


―――――――――――――――――


「いやいや~ほんと面白いなぁ、真奈ちゃんは」


クスクス笑いながら中庭を見下ろす宏樹。


そこには肩で息をしながら看護師に頭を下げる親友と、リュックを救出して無事に地上に降り立ち子ども達の歓声を受けている親友の彼女がいる。


「この後はみっちり説教だろうなあ~。こりゃ今日はもうここには来ないか。

土産はまた今度だな~」


一躍子ども達のヒーローになった彼女の首根っこを掴んでズルズル引きずる親友。

その光景を微笑ましく思いながら宏樹はベッドに寝そべった。


「昔のそうとは全くの別人だよなぁ。ほんと真奈ちゃんはすげーや」


そういや、そうに言いそびれたことあるけど…まあ今度でいっか~。


どこまでも呑気な男は静かに目を瞑った。


「あ…真奈ちゃんのパンツ水玉だったな。ほーんと可愛いわ」

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