俺の友人(2)
(…お、成島宏樹…この個室がそうだな)
コンコン
「どうぞぉー」
どこか気の抜けた返事を合図にドアを開けて入ると、ベッドの上で上半身を起こし暇そうに外を見ている赤みを帯びた茶色の頭が見えた。
念の為病室を見渡したがやはりまだ真奈は到着していないようだ。
まったく、ここにたどり着くのはいつになるやら…。
そんなことを考えながら窓際のベッドに近付くが、入院患者の意識はどうやら外に集中しているようでこちらに見向きもしない。
「よお、大丈夫か宏樹。外よりも中の方がいいナースがいるんじゃないか」
「…っぅわ!おおっ…そう!驚かすなよぉ~。はあ~っ…俺めっちゃ暇で死にそうだっつの!」
「んなこと俺が知るか。」
「なっ!!そう!…俺はお前のこと唯一無二の親友だと思ってたのにお前はっ…くっ…クーデレってやつだな。まったく~しょうがない奴だなぁ」
ハッハッハッと満足げに笑いながら俺の肩を数回叩くこの患者。
…俺の中での面倒くさい相手ランキング二位が暴走した真奈なら、堂々のランキング一位がこの迷惑なポジティブ思考の赤茶頭、成島宏樹だ。
「…元気そうだし俺帰るわ。じゃ」
宏樹の鬱陶しい腕を振り払い病室のドアに向かうべく踵を返す俺。
「!おい、ちょっ待ってって、調子に乗って悪かったって!考え直してくれよ!俺にはお前が必要なんだよ!俺はお前を心から愛してふごぉっ!!」
「てめ…退院する気はないようだな」
「…ふ、振り返りざまに顔殴ったな!親父にも殴られたことなぬをっっ」
「安心しろ宏樹、ここは病院だぞ。治療ならいつでもしてもらえる。まあ、原形を留めない顔を治すには整形しかないと思うがな」
俺の拳をくらった両頬を両手でおさえ俺を見つめる切れ長の目には恐怖の色が映っている。
それも上半身を大袈裟に震わせながら…
「残念だがお前の怯えた姿には何も感じない」
「チッ…やっぱ真奈ちゃんじゃないと効果がないわけかぁ~」
いや~さすがだなぁ…とか何とかブツブツにやけながら言うこの赤茶頭。
俺の親友もとい中学からの腐れ縁、成島宏樹。
赤茶に染めた髪、切れ長の目に筋の通った鼻、すっきりとした輪郭でおまけに手足が長くスラッとした長身のモデル体型。
男の俺から見てもこいつは格好良く、言い寄る女も多かったが宏樹の興味はバイクにしか向かず自ら離れていく女も多かった。
「で、お前の大好きなバイクで転けたんだってな。」
ベッドの近くの椅子に腰掛け、いまだににやけてる宏樹に本題をふってみる。
「ああ!そうなんだよ!もうバイクがな…いや俺のハニーがなっ…うぅっ…」
「ご愁傷様。どんな状況で転けたのかは知らないが怪我も足の骨折ぐらいで済んで良かったじゃないか」
「良くねえよっ!!そうはハニーのことよりも俺のことの方が心配なのかよ!」
…いや、普通そうだろ…?
バイクが絡むといつもの迷惑なポジティブ思考はどこかに吹っ飛ぶんだからな…
「くそっ…ハニーごめんなっごめんなあ…俺があんなことさえしなければ…」
「あんなことって無茶な運転でもして自爆したのか?」
「無茶なんてこと…いや…そうだな…俺は自惚れていたんだな」
自嘲ぎみに力なく笑い肩を落としてうなだれる宏樹。
どんな時でも自分のことよりも先に心配するほど大切な存在のバイク、それを自身の運転技術を過信したが為に傷つけてしまったのだ。
宏樹のバイクに対する思い全部を理解しているわけではないが、今の宏樹の後悔や悲しみはひしひしと伝わってくる。
「宏樹…」
「なあ、そう…後悔よりも俺は反省ができる男になる…。ハニーの為にもな」
「…そうだな。それがいいよ」
「よしっ!!次こそはハニーとの愛を目隠し運転で確かめてやるぜ!今までは俺の愛がきっと中途半端だったんだ!もっと丁寧に大切にしていかなきゃな!」
…は?目隠し…?
「…お前…スピードの出し過ぎでカーブを曲がれなかったとかじゃないのか…?」
「ん?何言ってるんだよ~。この俺がそんなことするわけないだろうっ!
今回は俺の愛が足りなかったせいでハニーの言葉を聞けなかったんだ。『宏樹、そこ塀よ』って…。聞けていたらハニーが傷付くことはなかったんだ!」
…つまりこれは運転技術を過信した結果とも言えるが、要はこのバイク馬鹿がバイク相手に愛だの何だの言って目隠し運転など無謀なことをした挙げ句自爆…と。
「あ、さすがに道路じゃ危険だからな、俺ん家の庭でやったぞ。いやあ~塀が見事にぶっ壊れたわ」
さらには塀をも傷物にしたのか…。
ハッハッハッと笑う馬鹿。
鉄拳制裁の溜めに入る俺。
どうやら顔面整形手術だけじゃ済まなくなりそうだ。