6 年齢不詳です
お仕事が終わったので学院に行った。
午後の薬学研究までには時間がある。
サラート教授に休みの間の報告をする事にした。
「で、暇だったから作った?」
「うん。」
「君、錬金魔法と薬学の教授を呼んできてくれ。急用だと言ってな。」
「はい。」
研究員の姉ちゃんが部屋を飛び出して行った。
教授は俺が書いた実験報告とレシピを交互に見ている。
錬金魔法と薬学の教授がバタバタとやって来た。
部屋に入るなり机の上に置いてある瓶を手に取ってまじまじと監察している。
サラート教授が読み終わった分の実験報告を渡すと二人で食い入るように読み始めた。
「光属性だと並で無属性だと上、闇属性だと特上?」
「俺が30年研究しても出来なかった物を1週間、・・・。」
「ともかく商業ギルドに登記してから陛下にケンジョウ。論文発表はその後だな。」
サラート教授に言われて二人の教授が頷いた。
若いサラート教授の方が偉いの?
実験報告は二人の教授が論文として纏めて、俺との共同研究と言う形で発表されるらしい。
俺?
することは無い。実験報告に全部書いた。
ケンジョウ?
したみたい。ケンジョウが何か判らないので俺は知らん。
週末はいつも通りにギルドで薬草採りの依頼をこなしていた。
週明けはサラート教授のお仕事日。
研究室に行くと見知らぬおっさんやおばさんが一杯。
みんな目がギラギラして怖い。
思わずサラート教授の後ろに隠れた。
めっちゃ怖い目をして俺を見るんだぞ、誰だって隠れたくなる。
臆病な訳ではない、たぶん。
「この子がポーションを開発したシェルです。」
「「「ええっ!」」」
何、この反応。
「錬金魔法と薬学の授業で学んだ知識を元に作り上げたので、論文は3人の共同研究となりますが、登記はシェル個人と言う事で2人の教授も了承しています。」
サラート教授の向こう側に座っている教授たちが頷いている。
「さっそくレシピ通りに作ってみましたが、どれもシェル様がお作りになった物よりは1ランク下で御座いました。シェル様に鑑定頂けると有難いのですが。」
俺の前に6本の瓶が並べられた。
精密鑑定を掛けて調べると、成分はレシピ通りだが魔力水の属性効果が薄い。
「属性弱い。属性意識して魔力込める?」
俺の言葉を聞いて、おっさんとおばさんの半分以上が部屋を飛び出して行った。
集団でトイレ?
後は何だか良く判らない大量の書類にサインしたら解放してくれた。
「じゃあ明日から1週間宜しくね。」
「1週間? 何?」
「今書類にサインしたでしょ。委託生産工房の説明会とサンプル作り。」
「へ?」
最初の方の書類は読んだけど、後の方は読まなかった。
だって机に書類が山積みだよ、めんどくさくて読む気なんか無くなるよ。
「朝9時に商業ギルドだから遅れないでね。」
「はぃぃ?」
「ギルド長に任せておけば大丈夫だからね。」
「はあ。」
何だか良く判らないが疲れた。
1週間、商業ギルドの大広間で毎日ポーション作り。
おっさんやおばさん達が俺の手元を食い入るように見つめている。
「はぁ。」
作ったポーションは製造サンプルとして各工房が並・上・特上の3種類を1本ずつ持ち帰った。
残りは商業ギルドが地方の工房に渡すサンプル分としてお買い上げ。
最終日には商業ギルドのギルドカードをくれた。
なんとAランク。
冒険者ギルドはFランクだけど、Aランクでいいの?
商業ギルドはランクの付け方が違うらしいから、SとかSSやSSSがあるのかも。
週明けは教授のお仕事。
研究室に入ったら偉そうなおっさんがいた。
「こちらは宰相のガリバルディ公爵閣下。この子がシェルよ。」
「陛下より叙爵の内示があった。」
「?」
「シェルを貴族にしてあげるって。」
「いらん。」
宰相のおっさんだけでなく教授や研究員のお姉さんも驚いている。
そんなにおかしなことを言った?
「なんと?」
「母さんが貴族にはなるなって。」
「何故かを聞いたか?」
「王に命令される。命令されるのダメ。」
「陛下の命にも従わぬと申すか。」
「母さんは嘘言わない。」
「屋敷を与えるとも仰せであった。」
「いらん。」
「何故だ。」
「逃げる時邪魔。父さんの言葉。」
「・・・・。」
「お父さんとお母さんは他にはどんなことを言っていたの?」
「母さんは襲われたら躊躇わずに殺せ。父さんはなるべくなら殺すな。」
うん、いつも心に留めている言葉だから長い言葉が話せた。
「シェルはどちらが正しいと思う?」
「両方。」
「もしも私がシェルを襲ったらどうする?」
「何も。」
「何故だ?」
「余裕。」
「私が弱いと見たか?」
「結界。」
「結界魔法が使えるのか?」
「うん。」
「攻撃魔法は嫌いだからと見せてくれないけど、防御魔法は凄いわよ。隠蔽魔法も凄いから王宮内でも忍び込めるわね。」
「この子供がか?」
「大勢の学者が何百年も研究して出来なかったポーションを1週間で作った子よ。甘く見ると王都が消えるかもね。」
「まさか。」
「シェル、お母さんに貰った解体用ナイフを見せてあげて。」
腰の袋からナイフを出してテーブルの上に置いた。
「な、なんだ。」
宰相がナイフを抜いて驚いている。
「私が秘蔵していたドラゴンの牙を簡単にスライスしたわ。」
「これは何という金属だ?」
「知らん。」
「両親共にとんでもない人物らしいわよ。」
宰相が護衛の剣を抜いて俺のナイフを当てる。
スパッと切れた。
護衛さん驚いているけど泣きそう。
大事な剣だったみたいだよ。
「これはお返しする。王家の宝物にもこのような物は無い、大切にいたせ。」
「うん。」
「国宝級以上のナイフを与える親と会った事も無い王、どちらの言葉を信じると思う?」
「両親の名は何と申す?」
「知らん。」
「母さん、父さんと呼んでいたんだって。自分の歳も知らないのだから親の名前を知らなくても不思議ではないわ。」
「鑑定では何歳と出た?」
「鑑定不能。」
「何、そなたでも鑑定不能か?」
「名前すら判らなかったわ。」
「人間なのか?」
「たぶん。ただ魔力量が凄いのは間違いないわね。普段は隠蔽魔法で抑えているらしいけど、一度隠蔽を解いて貰ったら圧倒されて気絶した。」
「そなたがか。」
「隠蔽を掛けていないと縄張りを荒らしに来たと勘違いして強い魔獣が襲ってくるそうよ。だから襲われたら躊躇わずに殺せ、だって。」
「強い魔獣?」
「弱い魔獣はシェルの魔力に驚いて逃げ出すそうよ。襲って来たのはドラゴンとバジリスクだって。両親が追い払ってくれたらしいけど、一人になった時の為に躊躇わずに殺せって教えたんでしょうね。」
「ドラゴンにバジリスクを躊躇わずに殺せか、・・・。」
「落ち着いて対処出来るほどの力はまだないと思ったのでしょうね。」
「・・・・確かにまだ子供だからな。」
「叙爵も屋敷もこの子が欲しいというまでは無理強いしない方が良いわよ。」
「そうだな。陛下にもそう伝えよう。シェル、もしも何か困ったことがあればいつでも王宮に声を掛けろ、出来る限りのことはすると約束する。」
「うん。」
本日最終話です。明日からは毎朝6時10分投稿予定です。