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32 指輪造りは大変です

今週はアリタイ国の屋敷にはいかなくて良いとグラーフから連絡が入った。

俺は結界の魔導具に関する資料を調べている。

学年末の宿泊研修、もしも魔獣に襲われたらたとえ相手が弱い魔獣でも運動神経マイナスの4人組では危ない。昼間は俺の結界があるが、夜は無理。

凶悪兵器を備えた4人組と同じテントで寝たら命の危険がある。

小型の結界魔導具を作って4人のテントに設置しようと思った。

強力な結界である必要は無い。

強い魔獣が近寄れば魔導具が検知するより先に俺が目覚めるし、近くの木の上に俺がいれば大型魔獣は近寄ってこない。

問題は弱い魔獣。

1角兎どころかゴブリンやスライムでもあの4人だと危ない。



週末のお茶会。

アップルパイが出た。

季節的にこれが今年の最後、ゆっくりと味わって食べる。

庭園に設置された丸テーブル、俺の右隣トーラ。

その隣にはダンスの練習相手をしてくれているルイージ。

左隣には屋敷のメイド長、その隣にスンラフ国で王妃の解呪をした時に手伝ってくれたメイドさん。

隣のテーブルには陛下のおっさんが3人と知らないおっさん。

大勢の護衛達が遠巻きに警護しているのが探知に掛かっている。

恐らくは今年最後のアップルパイなので賊に奪われないように守っている?

屋敷のメイドさんがベイ、スンラフ国のメイドさんがリヨンと自己紹介してくれた。

みんな同年代なので仲良くお話している。

お陰で俺はゆっくりとアップルパイを楽しめた。

「お初にお目に掛る。ギルド本部長を務めておるブンホと申す。本日は獣王の代理として同席しております。」

「代理?」

「獣王国は遠いので古くからの友人である私が代わりに出席する事になった。」

「はあ。」

「シェルの活躍はギルドの誇り、ギルドの理事会でも毎回話題に上っている。」

そうなの? 変な話題じゃないよね。

「はあ。」

「この度はご婚約の運びとなりおめでとうございます。」

ゴコンニャクって何だ?

「この大陸では高貴な方の婚約の場合、男性が婚約者にドラゴンの鱗を贈る習慣があります。どうかお嬢様方にドラゴンの鱗をお渡しください。」

それは執事長に教えて貰ったから知っているぞ。

ちゃんと目の色に合わせて選んである。

「トーラにはブルードラゴン、はい。」

「有難うございます。」

「ルイージには雷竜、はい。」

「ベイにはアイスドラゴン、はい。」

「そしてリヨンには古竜。」

「古竜だと、シェルが倒したのか?」

「貰った。」

古竜とは出会った事が無い。

レイおじさんに貰ったものだ。

凄く珍しいものだと言っていた。

「お、おう。しかし4人に全部違うドラゴンの鱗とは驚いたぞ。」

「目の色に合わせると喜ぶって・言われた?」

ちょっと長かったので詰まってしまった。

「いやいや、ドラゴンの鱗を1枚持っているだけで凄いんだがな。」

「そうなの?」

みんなが喜んでくれたから良いと思う。

隣のテーブルを見たら陛下のおっさん達がみんな口を開けている。

早く閉じないと虫が入るよ、アップルパイは甘いんだから。

「流石はシェルだ。俺も理事会への良い土産話が出来た。」

本部長のおっさんも満足そうだから良かった。

お嬢様達はドラゴンの鱗でどんなアクセサリーを作るかで盛り上がっている。

うん、良きかな良きかな。



「1、2、1、2。」「「1、2、1、2。」」

「1、2、1、2。」「「1、2、1、2。」」

「嘘だろ。」

「自分の目が信じられん。」

「あのマイナス4人組がこうなるか。」

「おお。」

運動神経はアレだが、真面目さは折り紙付き。

4人は身体強化が使えるようになって後ろ向きに歩いている俺と一緒に走っている。

一瞬だが確かに両足が地面を離れているから多分走っている、歩く速さだけど。

しかももう500mは走っている。

50mじゃないよ。


宿泊合宿でキャンプ地まで到着できる可能性が出て来た。

森の中を毎日10km以上歩くにはまだまだだが、あと4ヶ月どうにかなりそうな気もして来た。

4人とも両親や使用人達に褒められて上機嫌で練習しているらしい。

うん、褒められて伸びるタイプ?



今日は初めての3人プレイ。

ルイージとトーラを連れてアリタイ王国の屋敷に転移した。

あれ、余裕?

転移の感覚で距離や重量にゆとりがあるかが判る。

暫く3人プレイをしてから4人プレイ、そして5人プレイに挑戦だ。

2人を残してカリメア王国に戻る。

リヨンとベイを連れてアリタイ王国の屋敷に転移した。

暫くは4人が一緒に行動して絆を深めたいというルイージの提案に3人が乗った。

俺の意見?

聞かれた覚えは無い。



グラーフが来た。

「色々な国がドラゴンの鱗を欲しいと言っています。価格の査定に暫く時間が掛かるので、決まるまでは決して売らないで下さい。」

「何に使うの?」

「希少すぎて手に入らなくなり、婚約者にドラゴンの鱗を贈る風習は殆ど廃れておりました。Sランクとは言えシェル様は冒険者、冒険者がドラゴンの鱗を婚約者に贈ったとなれば、高位貴族がドラゴンの鱗を贈らないと家格に傷が付きます。」

「そうなの?」

「貴族とはそういうものです。それでシェル商会に鱗の注文が殺到しました。」

貴族は大変らしい。

貴族にならなくて良かった。

素材用を残してとりあえずグラーフに渡した。

最近得意の丸投げ。



何回か3人プレイ、4人プレイで練習して最近は4人と一緒に安定した転移が出来るようになった。

4人はいつも楽しそう。ドレスやアクセサリーを考えるのが楽しいらしい。

グラーフに聞いたら全部男性が支払うらしい。

喜んでいる理由が判った。

グラーフにお金があるのかを聞いたら、ドラゴンの鱗がオークションで高く売れたから問題ないらしい。

最近は盗賊さんが減ったのでちょっと心配だった。

良かったと安心したら、結婚式までに男性が指輪を用意すると言われた。

そう言えば時々指に輪っかを嵌めている人を見た事がある。

どんな指輪が良いのかグラーフに聞いてみた。

「愛情の証ですから同じものをお造りになる方が喜ばれると思います。」

店で買うと石の大きさや形などでどうしても差が出てしまうらしい。

「金属加工、したこと無い。」

「ポーションや美容クリームが作れるのです。シェル様なら指輪位簡単に出来ます。付与を付ければ店で買うよりも高級品になります。」

「ぐぬぬ。」

お仕事が一つ増えた。


レイおじさんなら知っていそうだが、愛情を込めて作れとグラーフに言われたので自分で調べてみる。

アリタイ、カリメア両王宮の書庫に籠って調べ捲る。錬金魔法での金属精錬や生産魔法での金属成形はすぐに見つかった。

製錬と加工の練習をしながら付与魔法について調べるが、断片的過ぎて上手く纏まらない。

ふと気が付いた。

精霊の剣は精霊さんが水魔法を付与してくれた。

精霊の剣を魔法袋から出してじっくりと解析する。

身体強化のように魔力を薄く纏わせるのではなく、剣の中に刻み込んだ魔法陣を魔力で発動させるらしい。

毎日が頭を掻きむしりながらの試行錯誤。

お嬢様達はや服飾工房が持ち込むドレスのデザイン画や宝石商が持ち込むアクセサリーを前に毎日悩んでいる。

悩んでいるのは一緒だけど、なんか違うような気もする。

お嬢様達の機嫌が良いからまあいいか。



あっと言う間に学年末試験が終わって冒険者研修。

1日馬車に揺られて研修場所近くの町に泊まった。

ここまではクラス単位での移動と宿泊、明日からがパーティー行動。

「4人組もだいぶましになったな。」

「うん。」

とりあえず歩き切る事は出来そうな気がする。

「課題は大丈夫か?」

「・・・・。」

「だよな。」

「シェルがいるから薬草採取と魔獣討伐は何とかなっても、テントの設営と調理がな。」

自慢じゃないが俺はテントを張った事は1度も無い。

調理をしたことも1度も無い。

俺は何でも食べられるがお嬢様方はどうなんだろう。

不安しかない。

「森の中に屋台、無い?」

「「「無い。」」」

即答された。

魔獣も2種類以上という制限がある。

熊さん以外に結界に腹を押し付けるような間抜けな魔獣は知らない。

「シェルは神ランクだから大丈夫。」

「マイナスの運動神経を0まで戻せたんだから何とかなる。」

クラスメイトが慰めてくれた。


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